- Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
- / ISBN・EAN: 9784582842296
作品紹介・あらすじ
幕府の大老から藩の代官まで、中国伝来の『牧民忠告』を読んで考えた。譜代大名として徳川体制を護持するには?ありうべき将軍像とは?饑饉の時代に「民を牧(やしな)う」明君と、その手足たる民政官とは?書物の読み替えをたどることで見えてくる、近世領主層の治政観の変遷。
感想・レビュー・書評
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日本近世における様々な「牧民之書」の内容の変遷を詳細に追いながら、統治者の「牧民思想」の変容を追う一書。「牧民之書」は、「牧民」の実行者を時期とともに藩主・大名から村役人層へとシフトさせていく。この動きの背景には、たびたび起こる飢饉に対し、藩主の明君化があるという。まるで大日本帝国憲法の制定による、天皇無問責の原則確立のような動きである。
ある政治体制が長期化していくとともに、体制には矛盾が生じるのは必然である。しかし、体制設立当初の構造を生き残らせるために、統治の責任をいわば「アウトソーシング」していく、という近世政治社会の見取り図が読み取れたのは、非常に面白かった。
疑問としては、p.362にもあるような、近世政治思想史の「政治的主体形成」論とのかかわりが、わかったようなわからないような・・・という感じである。基本的な枠組みは「政治的主体形成」論によりながら、そのツールとして「牧民之書」が機能した、という理解でよいなら、それはそれでよくわかる。
また、近代に「牧民之書」が読み継がれた理由が「民衆に対する権力者の心的態度(ethos)には時代を越えた一定の普遍性が存在する」(p.355)と言ってしまっている点は気になる。本書では、近世を通じて時代状況に応じた「牧民之書」の読み替えについて丹念に解き明かしてきたのに、近代になったとたん「普遍性」が抽出された、という話になってしまうのは、なんだか拍子抜けである。近代においても「牧民之書」は読み替えられながら生き延びていく、のではないだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
[ 内容 ]
幕府の大老から藩の代官まで、中国伝来の『牧民忠告』を読んで考えた。
譜代大名として徳川体制を護持するには?
ありうべき将軍像とは?
饑饉の時代に「民を牧(やしな)う」明君と、その手足たる民政官とは?
書物の読み替えをたどることで見えてくる、近世領主層の治政観の変遷。
[ 目次 ]
序章 「平和」の世と「牧民之書」
第1章 「領主」の思想―近世前期・『牧民後判』・伊勢桑名藩主松平定綱の領主思想
第2章 あらまほしき将軍の治―「天和の治」・『牧民忠告諺解』・大老堀田正俊
第3章 朝鮮本の影響―近世日本の政治文化・密陽本と『吏民秘要諺解』『民間備荒録』
第4章 藩政改革の思想―天明期・『和語牧民忠告』・越後長岡藩家老山本老迂斎
第5章 代官の政治―天明期・『牧民忠告解』・尾張藩参政人見〓(き)邑と大代官樋口好古
第6章 「興国」のために―幕末・『牧民心鑑解』『牧民心鑑訳解』
終章 「牧民之書」と近代化
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