牧民の思想: 江戸の治者意識 (平凡社選書 229)

著者 :
  • 平凡社
3.00
  • (0)
  • (0)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 15
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (390ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582842296

作品紹介・あらすじ

幕府の大老から藩の代官まで、中国伝来の『牧民忠告』を読んで考えた。譜代大名として徳川体制を護持するには?ありうべき将軍像とは?饑饉の時代に「民を牧(やしな)う」明君と、その手足たる民政官とは?書物の読み替えをたどることで見えてくる、近世領主層の治政観の変遷。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 日本近世における様々な「牧民之書」の内容の変遷を詳細に追いながら、統治者の「牧民思想」の変容を追う一書。「牧民之書」は、「牧民」の実行者を時期とともに藩主・大名から村役人層へとシフトさせていく。この動きの背景には、たびたび起こる飢饉に対し、藩主の明君化があるという。まるで大日本帝国憲法の制定による、天皇無問責の原則確立のような動きである。

    ある政治体制が長期化していくとともに、体制には矛盾が生じるのは必然である。しかし、体制設立当初の構造を生き残らせるために、統治の責任をいわば「アウトソーシング」していく、という近世政治社会の見取り図が読み取れたのは、非常に面白かった。

    疑問としては、p.362にもあるような、近世政治思想史の「政治的主体形成」論とのかかわりが、わかったようなわからないような・・・という感じである。基本的な枠組みは「政治的主体形成」論によりながら、そのツールとして「牧民之書」が機能した、という理解でよいなら、それはそれでよくわかる。

    また、近代に「牧民之書」が読み継がれた理由が「民衆に対する権力者の心的態度(ethos)には時代を越えた一定の普遍性が存在する」(p.355)と言ってしまっている点は気になる。本書では、近世を通じて時代状況に応じた「牧民之書」の読み替えについて丹念に解き明かしてきたのに、近代になったとたん「普遍性」が抽出された、という話になってしまうのは、なんだか拍子抜けである。近代においても「牧民之書」は読み替えられながら生き延びていく、のではないだろうか。

  • [ 内容 ]
    幕府の大老から藩の代官まで、中国伝来の『牧民忠告』を読んで考えた。
    譜代大名として徳川体制を護持するには?
    ありうべき将軍像とは?
    饑饉の時代に「民を牧(やしな)う」明君と、その手足たる民政官とは?
    書物の読み替えをたどることで見えてくる、近世領主層の治政観の変遷。

    [ 目次 ]
    序章 「平和」の世と「牧民之書」
    第1章 「領主」の思想―近世前期・『牧民後判』・伊勢桑名藩主松平定綱の領主思想
    第2章 あらまほしき将軍の治―「天和の治」・『牧民忠告諺解』・大老堀田正俊
    第3章 朝鮮本の影響―近世日本の政治文化・密陽本と『吏民秘要諺解』『民間備荒録』
    第4章 藩政改革の思想―天明期・『和語牧民忠告』・越後長岡藩家老山本老迂斎
    第5章 代官の政治―天明期・『牧民忠告解』・尾張藩参政人見〓(き)邑と大代官樋口好古
    第6章 「興国」のために―幕末・『牧民心鑑解』『牧民心鑑訳解』
    終章 「牧民之書」と近代化

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

小川 和也(おがわ・かずや)

慶應義塾大学法学部卒業。起業家、著作家、研究者、ラジオ番組ナビゲーターとして、ばらばらの点をつなげて未来をつくる活動をしている。
起業家として独創的な事業を生み出し続け、2017年、世界的に権威のあるマーケティングアワード「DMA国際エコー賞」を受賞。
人間とテクノロジーの未来を説いた著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は高等学校現代文教科書をはじめとした多くの教材や入試問題に採用され、テクノロジー教育を担っている。
北海道大学客員教授として人工知能の研究を行い、FMラジオ放送局のJ-WAVEで番組ナビゲーターとして未来を生きる鍵を声で伝えている。
実業と学術を往来し、多様な表現方法を駆使しながら、未来のグランドデザインを描いている。

グランドデザイン株式会社 代表取締役社長
北海道大学客員教授
J−WAVE『FUTURISM』ナビゲーター

「2019年 『未来のためのあたたかい思考法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川和也の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×