杉浦康平のデザイン (平凡社新書 511)

著者 :
  • 平凡社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784582855111

作品紹介・あらすじ

杉浦康平はデザイン界の逸材と言われ、一貫して独創的な手法を切り拓いてきた。また、ウルム造形大学、インド旅行での経験から、アジアの伝統文化に目覚め、広くアジアの図像を探求し、曼荼羅のほか、余人の及ばない成果を展開している。

感想・レビュー・書評

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  • 2010-7-4

  • どうもマンダラなイメージが強くて、好みのデザインではないのだけれど、それでもその偉大さはわかったような気がする。

  • 杉浦康平デザインの半生がよくまとまっている良書

  • デザインブームと言われて久しいですが、どれだけの人が杉浦康平
    の名前を知っていることでしょう。生まれは1932年ですから、今年
    79歳。本書の中でも「再評価」と言った言葉が多用されていますが、
    既に忘れられつつある人なのかもしれません。寂しい限りです。

    井上は、杉浦氏が装幀を手がけていた講談社現代新書が大好きでし
    た。クリーム色の地に、文字と図像が溢れる表紙は、あまたある新
    書の中でも一際異彩を放つものでした。その装幀が廃止されたのが
    2004年のこと。以後、講談社現代新書には全く愛着が持てなくなっ
    てしまいましたが、それは、表紙が単なる表紙を超えた存在だった
    からなのだろうと思います。東洋思想では、「かたちあるものには
    全て《相(そう)》がある」と考えますが、杉浦氏の生み出す表紙
    には、まさに本の相が立ち現れていたと思うのです。大袈裟なよう
    ですが、宇宙を感じさせる表紙でした。

    そう、杉浦氏のデザインに共通するのは、宇宙を感じさせるものだ
    ということです。魔術的な魅力を持つそのデザインを生み出す思考
    法や世界観が、杉浦康平という人間の中でどのように育ち、花開い
    ていったのか。本書は、時代順に作品を辿っていきながら、その道
    程を明らかにしていきます。

    杉浦氏の世界観に最も影響を与えたのがアジアとの出会いでした。
    アジアが有する多様で豊穣なイメージ群。そのイメージ群の底に共
    通するアジア的な生命のエネルギーが、いかに杉浦氏のデザインに
    力を与えてきたのか。アジアを掘り下げていくことで生命の根源に
    触れ、それと共鳴することで、自らを宇宙へと開いていく。そんな
    杉浦氏のダイナミックな思考法に触れていると、アジアの可能性と
    いうものをいかに我々が皮相に捉えているのかがよくわかります。

    アジアの可能性とは、経済発展の可能性ではなく、生命の可能性だ
    ということを、杉浦氏のアジアへの眼差しは教えてくれます。そし
    て、アジアの世紀の開幕をつげる上海万博が始まった今こそ、この
    ような杉浦氏のアジアへの眼差しに学ぶべきだと思うのです。

    余談ですが、杉浦氏の教え子によると、ブータンのGNH(グロス・
    ナショナル・ハピネス)は、杉浦氏のアイデアから生まれたものな
    のだそうです。このこと一つとっても、杉浦氏がいかにスケールの
    大きな人なのかがわかりますね。本書の一番の魅力はこの杉浦氏の
    スケールの大きさに触れることで、ちまちまと生きがちな自分を省
    みることができる点にあります。是非、読んでみて下さい。

    =====================================================

    ▽ 心に残った文章達(本書からの引用文)

    =====================================================

    杉浦はデザインの主流である広告制作にはほとんど手を染めなかっ
    た。出版デザイン、ダイアグラム、レコード・ジャケット、展覧会
    企画や図録編集などの新しいジャンルに活路を求め、多岐にわたる
    達成を残してきたのである。

    アジアへのいとおしさに満ちた杉浦のまなざしが、日本を含むアジ
    アの人たちを励まし、啓蒙し続けてきた意義ははかり知れない。

    「世界は読み取られるものではなく、聴き取られるものなのだ」
    (ジャック・アタリ)

    理知的でありながら、豊かな響きと息づかいが織りあわす表現の固
    有性は、今日なお色褪せなていない。「かたち」の核心にある感性
    と論理の深さゆえだ。

    それは体の中に潜んでいるものが顔に表れるという、東洋的な<相>
    というもののとらえ方の実践であると杉浦はよくいう。本や雑誌を
    一つの身体として捉えること。また東洋的思考法をデザインに投影
    することの始まり…。

    不動の規範であるはずの地図が動く!まさに逆転の発想である。世
    界のグラフィズムを見渡しても、静的な地図のダイアグラム表現が
    大勢のなかにあって、動的な展開というかつてない地平を切り拓い
    た独創的なコンセプトであり、ヴィジュアル・コミュニケーション
    ・デザインにおける記念碑的な達成である。

    「そこに人々の生活の様態、文化のふるまいをのせることで、地図
    はダイナミックな変容を始める。(…)時間地図の面白さは、誰も
    が自分のふるまいによって地図をつくり上げられる、ということを
    如実に示している。そういう意味から我々に、自らの地図づくりへ
    の勇気を与えてくれる、と言えます」(杉浦)

    ビジュアル・コミュニケーションの基幹をにない、そのデザイン思
    考の回路が如実に試されているのがダイアグラムである。事象の森
    に分け入る。複雑に絡み合ったデータの樹相をみきわめ、ときに補
    助線を引きながら脈絡を導き出す。そして、基軸となる幹を設け、
    よく剪定した枝葉をひとつひとつ添えながら、ひとつの図像世界へ
    と構造化する…。
    知的な腕力を要するこうした実践は、残念ながら現在、退潮著しい。
    機転が利いて、見た目はスマートにはなったが、実体は中身の乏し
    いデザインが蔓延しているのだ。そうしたものがむしろ好まれてい
    る風潮さえある。

    デザイン表現の空洞化が進んでいる。今こそ杉浦らの大きな解析力
    と構想力、そしてそれを豊穣なデザイン世界へと構造化する実践を
    再評価すべき時ではないだろうか。

    「0.1ミリ厚の紙が50回折り畳まれるだけで、地球と太陽の間が埋
    めつくされてゆく。紙はその蜉蝣のような厚みのなかに、宇宙を覆
    いきるほどの、熱い力を秘めていたのである」(杉浦)

    最後の締めくくりで杉浦が、現代のデザインはA社、B社の製品が、
    それぞれ孤立して存在していて、単体でしか機能していない、互い
    につながりがない、と結んでいたのが印象に残った。対照的に、ア
    ジアの図像は数え切れないほどの世界観を共有して、互いに重なり
    合っている、と。現代デザインのあり方に根源から再考を迫る考察
    である。

    私たちの文化を支える多様で豊穣な遺産のネットワークに新しい光
    を与えることにより、欧米一辺倒だった私たちの思考の物差しをア
    ジアへと転換する重要なきっかけを提供したのが杉浦の一連の取り
    組みだったといってよいだろう。欧米に偏った座標軸をアジアに差
    し向けた意義ははかり知れないものがある。

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    ●[2]編集後記

    ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

    人間のやったことは、
    人間がまだやれることの百分の一に過ぎない。

    豊田佐吉の言葉だそうです。近所の神社に今月の言葉として掲げら
    れていました。

    トヨタの創業者にして発明王であった豊田佐吉らしい言葉だなと思
    いました。最近、トヨタの歴史を調べる機会があって、そこで改め
    て知ったのは、佐吉、喜一郎という、創業親子二代の狂おしいまで
    のものづくりへの執念でした。

    佐吉と喜一郎にとって、つくることは生きることと同義でした。そ
    の生涯は、壮大な夢を掲げながら、まだやれる、もっとやれる、と
    挑戦し続けた試行錯誤の連続。挫折と失敗の人生でもありました。

    ここまで極端な例は稀かもしれませんが、ものづくりの欲求という
    のは、人間の根源的な欲求なのではないかと最近よく思います。と
    いうのも、今、娘がものづくりの欲求を全開に生きているからです。

    それはもう誰かに何かを見せるためとかではなく、とにかくつくる
    ことそのものに夢中になっている。自己表現とかそういうものでも
    なくて、ただひたすらつくる。その姿には、つくることが人間を人
    間たらしめているのだな、と思わせるものがあります。

    昔は自分もこうだったのだろうと思います。いつからつくることは
    特別なことになってしまったのでしょう?生きることはつくること。
    生きている限り何かをつくり続ける人生でありたいものです。

  • 怪物であるゼミの先生さんが、出版デザイン界の「怪物」とまで呼んだ、「杉浦康平」の仕事・思想を垣間見れる入門書。読みながら、この人はアジアの怪物だっと思った(笑)この人からは本当に無尽蔵に学ぶところがある気がする・・・。

    内容はデザインに詳しい人ほど面白い一冊になると思う。
    最後に著者も言っているが、ファッショナブルなデザイン・広告が主流になってきた今日では失ったものも大きい。今こそもう一度、確かな理念・思想・問題意識に裏づけされまくった杉浦康平のようなデザインを学ぶことで、これからのグローバルデザインの新たな発展があるなぁと確信させてくれた、そんなすばらしい一冊。

  • [ 内容 ]
    杉浦康平はデザイン界の逸材と言われ、一貫して独創的な手法を切り拓いてきた。
    また、ウルム造形大学、インド旅行での経験から、アジアの伝統文化に目覚め、広くアジアの図像を探求し、曼荼羅のほか、余人の及ばない成果を展開している。

    [ 目次 ]
    第1章 建築を学んだ異才のデビュー―一九五〇~六〇年代初め
    第2章 デザイン活動の本格化―一九六〇年代
    第3章 転機となるウルムでの指導―一九六〇年代後半~七〇年代前半
    第4章 アジアへの開眼とブックデザインの革新―一九七二~七六年
    第5章 アジア図像学の集成へ―一九七七年~八〇年代
    終章 アジア・デザイン言語共同体の軸に―一九九〇年代以降

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    [ 参考となる書評 ]

  • 何も知らなかった事を、思い知らされました。やっぱ杉浦さんはスゴい!

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著者プロフィール

1943年、長野県生まれ。『デザイン』誌(美術出版社)編集長などを経て1999年からフリー。グラフィックデザインと現代装幀史、文字文化分野の編集協力および執筆活動に従事。おもな著書に『装幀時代』(晶文社)、『現代装幀』(美学出版)、『装幀列伝 本を設計する仕事人たち』『杉浦康平のデザイン』(ともに平凡社新書)、『工作舎物語 眠りたくなかった時代』(左右社)、編著に『書影の森 筑摩書房の装幀1940ー2014』(みずのわ出版)などがある。日本タイポグラフィ協会顕彰 第十九回佐藤敬之輔賞を受賞。

「2020年 『〈美しい本〉の文化誌 装幀百十年の系譜(3,000円+税、Book&Design)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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