かるた (ものと人間の文化史 173)

著者 :
  • 法政大学出版局
2.75
  • (0)
  • (0)
  • (3)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 12
感想 : 3
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (358ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784588217319

作品紹介・あらすじ

安土桃山時代にポルトガルから伝来した〈かるた〉は、二百年余の鎖国の間に、当時の美術・文芸・芸能を幅広く取り入れ、〈和紙〉や〈和食〉にも匹敵する独自の日本文化として発展した。本書は、山口吉郎兵衛らの先行研究をふまえ、それを逐一検証して誤りを正しつつ、自身の厖大なコレクションをも駆使して、〈いろはかるた〉や〈百人一首〉から賭博用具まで、〈かるた文化〉の全体像を描き出す。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  当時(安土桃山時代~江戸時代初期)の人々の関心・好奇心の強さ、初めて見る遊戯具のカードを模倣してたちまち世界水準で制作する技術の高さそして伝来してきた「南蛮」の衣類、食品、絵画、音楽などとともに、やっと訪れた戦乱のない社会でこの小さな慰安を楽しむことで世界と繋がる平安な生活を楽しむ気分、そのような文化のあり方が見えてくる。
    大航海時代にヨーロッパ人がアジアに持ち込み、日本に伝来したものの運命はさまざまであった。鉄砲のように、殺戮と破壊の兵器として急速に発達し、国内の戦乱の帰趨を左右すると共に豊臣秀吉政権の朝鮮侵略では大きな威力を発揮したものの、、日本での改良はそこで止まって歴史の遺物になっていったものもあれば、キリスト教のように殉教の悲劇の中で潜伏していったものもある。カルタは、こうしたものとは違う、もう一つの「南蛮」文化の受容の形を示している。(pp.59-60)

    江戸時代後期の「絵合せかるた」の発展の中でとくに目立つ変化の一つが。主として子ども用に制作されたかるたが登場したことである。かるたは、現代の常識からすると奇妙に思えるが、元来は大人の遊技用品であった。それは、海外から伝わったカルタでも、国内で考案された日本式カルタでも同じことである。そして、江戸時代中期に、江戸を中心に一大消費社会が形成され、江戸の武家や町家で、女性や子どもがもはや生産に関わる労働力としてではなく、消費を楽しむ嫁や娘、息子として生活するようになると、この大きな需要を目指して、「芸事」「芝居見物」「買い物」「飲食」などに関連するさまざまな遊び道具が開発され、「女子供の玩びもの」が制作、販売されるようになり、かるたもその先端的な風潮、流行に応じて多様に発展してきた。それが、江戸時代後期になると、「女子供」と一括りにするのではなく、主として子ども向けの需要に応じた特色を持つ新作かるたが制作されるようになってきた。かるたが本格的に、もっぱら子どもの玩具になったのは明治20年代(1887~96年)以降のことであるが、「絵合せかるた」における大人用と子ども用の分離は江戸時代後期に始まったと考えてよい。(pp.239-240)

     江戸時代の日本は、享保の改革以降の初等教育の刷新によって、世界に例のないほどに識字率が向上した。それを支えたのが家庭内での最初の教育であった。士農工商の身分差の中であるが、多くの家庭で、年の暮れになると「いろはかるた」を買い求め、正月には幼児が無事に年齢を重ねて4,5歳になったことを祝うとともにかるたを与えて、祖父母が相手をして遊びを通じていろはの文字を教えた。(中略)こうして身についたかるた遊び習慣を引き継ぐのが年長の子どもの「百人一首」のかるた遊びであった。(pp.260-261)

     かるたの遊技が活発になるには一般に、①楽しく魅力的な遊技法、②美しく使いやすい遊技カード、③安心して楽しめる遊技の会場、④遊技の指導ができるインストラクター、⑤遊技の愛好者の団体が整えられることが必要である。(p.350)

  • カルタはポルトガルから日本に伝わった。最初に文献に登場するのは1597年3月に土佐の領主長宗我部元親が発した「長宗我部元親百箇条」「長宗我部元親式目」に賭博かるた諸勝負令停止…とあるそうです。先人の研究に経緯を払いつつ、必ず自分で原典にあたることをおびただしい数を重ねてしまとめた本でした。これを憲法学者であることと並行して行っていたとは、2つくらいのことなら誰でも真剣に取り組めると先生がいっていたことを思い出します。私が思うカルタは「絵合わせ」「歌合わせ」カルタですが、ポルトガルからきた当初のものは勝負が早く決まるであろう少ないパターンでした。平成3年民族学研究者伊藤真の研究成果であるインドネシアスウェラシ島でポルトガルから伝来した龍のつくカルタが今でも遊ばれていることの発見は、ポルトガルのドラゴンが日本以外の土地でも生存していたうれしいニュースであったとのこと。アジアを旅するという学生には、現地で遊ばれているカードゲ—ムや麻雀牌を集めてきてくれといっていたことも思い出しました。平成22年以降、光村図書小学三年生の国語の教科書で江橋先生は、「百人一首」「いろはかるた」の説明、「郷土かるた」作りを勧めているそうです。

全3件中 1 - 3件を表示

著者プロフィール

江橋 崇 1942年に生まれる。1966年、東京大学法学部卒業。法政大学法学部教授(憲法学)を経て、現在、同大学名誉教授。
著書に『かるた』(ものと人間の文化史173)、『花札』(ものと人間の文化史167、以上、法政大学出版局)、『日本国憲法のお誕生』(有斐閣)、『「官」の憲法と「民」の憲法』(信山社)、『外国人労働者と日本』(岩波ブックレット)、『市民主権からの憲法理論』(生活社)。共編著に『外国人労働者と人権』『グローバル・コンパクトの新展開』『企業の社会的責任経営』『東アジアのCSR』(以上、法政大学現代法研究所発行/法政大学出版局発売)、『外国人は住民です』 『人権政策学のすすめ』(以上、学陽書房)、『象徴天皇制の構造』(日本評論社)、『岩波講座 現代の法』(岩波書店)、監修に『図説 カルタの世界』(大牟田市立三池カルタ記念館)、『麻雀博物館大図録』(竹書房)、『総合的学習に役立つ くらしと国の省庁』(小峰書店)。

「2022年 『百人一首』 で使われていた紹介文から引用しています。」

江橋崇の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×