謀る理兵衛 (一般書)

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  • ポプラ社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591135358

感想・レビュー・書評

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  • 「謀(たばかる)る理兵衛」という歴史小説を読みました。
    著者は松本薫氏。女子柔道の選手とは別人です(^_^)。
    米子市で高校の先生などをされているようです。

    淀屋橋や常安橋など、橋の名前でもお馴染み、淀屋は、安土桃山時代から江戸中期まで5代にわたって大もうけをした大阪の豪商。
    理兵衛は、小説に出てくる「丹生(にぶ)屋」の五代当主。すなわち、淀屋辰五郎のこと。淀屋4代、5代の奮闘ぶりが描かれた物語で、小説では、丹生屋の重兵衛、理兵衛として描かれています

    以前、私は淀屋ってあまりいい商売人ではなかった、大阪の陣で町中に溢れた死体ビジネスで儲け、米相場を独占し、日本永代蔵に描かれたような贅をしつくして、後に何も残さなかった成金うつけ者と思っていました。ところが、7年前、大阪に「淀屋研究会」という団体があることを知り、取材をさせていただきました。代表は倉吉市の大阪事務所所長。倉吉、米子は、同じ鳥取県。実は、倉吉にも淀屋があることを知り、大阪の淀屋が力を持ちすぎて公儀に狙われ、取りつぶしを予感して、淀屋を倉吉に密かに移していたことを勉強しました。第4代、第5代の2代にわたってその秘密作戦は遂行されたのでした。
    結局、淀屋は5代で取りつぶされたのですが、倉吉にて脈々と受け継がれ、70年後にまた大阪で綿問屋として商売を始め、幕末には大阪十店に入る豪商になっていたものの、今度は公儀に狙われないよう店を12に分散。しかし、ペリー来航から5年後、何の前触れもなく全店が忽然と姿を消し、経営者一族も姿を消したそうです。全くの行方知れず。莫大な財産は朝廷に献上されたとも、薩長の軍資金になったとも言われているとのこと。

    この本はもちろん小説ですが、時代ものなので、作家は学者並に研究をして書くのが常。この本にも、物語以外の部分、すなわち、淀屋が初代からどのように財をなしたかという点や、元禄バブルはどのようなメカニズムで起きたかという点、世界初の先物取引である「空米切手」がなぜ出回ることになったかといういきさつなど、歴史を知る面でもとても興味深いものがありました。
    もちろん、物語も面白く、文章もうまい。

    400ページ以上ある長い小説ですが、もっと読みたいというのが感想です。そして、この松本薫さんというのは注目の作家です。TATARAという小説もあるそうですが、一般の流通ルートにはないとのこと。図書館にもありません。地元、中国地方のたたら鉄にからんだ歴史小説のようです。どこかで探し、ぜひ読んでみたい。

  • 大阪の豪商・淀屋をモデルにした、時代小説。
    店の大きさも商いの額も、大店という言葉では表しきれないスケール。
    米相場以外にも、大阪に与えた影響が大きく、驚かされる。
    理不尽で、強大な敵。
    つらい決断。
    滅びに向かってひた走るからこそ、丹生屋がわの純粋なうつくしさが光る。

  • 桂南光師匠がツイッターで勧めていたので気になって読んでみた。南光師匠いわく「大阪の豪商『淀屋』をモデルに、幕府との攻防を面白く描いている。これを講談で聞けば手に汗握ること間違いなしの、エンターテイメント」

    私世代はたぶん、淀屋っていえば社会科の教科書に「大坂米問屋が繁栄し、なかでも淀屋は天井をビードロ(ガラス)張りにして金魚を泳がせるくらいに栄華を極めた」って書いてあったのを思い出すはず。これって、どちらかと言えば「金満大坂商人の贅沢さの象徴」みたいな悪いニュアンスだったように記憶している。

    それと比べてこの本に登場する理兵衛をはじめとした淀屋(作中では丹生屋)の商人はそろばんをはじいて金儲けと蓄財に血まなこになるステレオタイプの大坂商人像とは正反対。「わしら大坂根生いの商人はな、金を儲けることだけが仕事ではない。儲けた金をいかに使うかだ。民の幸せと国の安寧のために使ってこそ、金は生きる。」
    贅の限りを尽くしてお上につぶされたのではなく、自分たちの地位と権益を守ろうとする政治権力に、勝てないケンカと承知で立ち向かい、市民や日本全体の利益を願う、高潔な“戦う商人”だった。

    それと実は淀屋は大坂だけでなく、伯耆国(今の鳥取県)倉吉にも大きな関連があったというのも新しい発見だった。
    著者の松本薫さんは鳥取県米子市出身。だから鳥取つながりで淀屋を調べたら、次から次と現れてとんでもないスケールにまで広がる“裏の歴史”に引き込まれたってところだろう。当時の歴史がお上から押し付けられて作られたんじゃなくて、理兵衛のような志熱い男がその志をお上に気付かれないように種子として残し、後々にそれが芽を出し花を咲かせ歴史に実を結んだのでは、と史料を読み解き気付いたと思われる松本さんの興奮がこの本から伝わってくる。

    実際この本では、商人の話という枠を軽く飛び越え、大石内蔵助や後の八代将軍吉宗まで加わっての歴史大河物語となっている。また、史実をもとにしてるものの、少ない残存の事実に縛られず、身辺警護をする忍者を登場人物に絡めてエンターテイメント性を持たせることも忘れていない。
    なるほど、南光師匠が言うようにページをめくる指が止まらなくなるほどの大活劇だ。
    (2013/12/13)

  • 実際の淀屋は、どうだったのかと思う。江戸時代の大阪の様子が、生き生きと描かれていて、自分もその時代に生きていたかのように入り込ませてくれた。

  • 2013/11 時代物というジャンルでは傑作だと思います。

  • 江戸時代の天下の豪商・丹生屋の5代目理兵衛が主人公。モデルは実在の大阪商人・淀屋三郎右衛門か。モデルの淀屋と同様、丹生屋は米商などで大儲けし、大名貸しをするほどの財を成し遂げるが、贅沢三昧の生活を幕府に目を付けられ、果ては闕所となる。

    それなりのボリュームであるが、スルスルと読めた。いずれ取り潰されるであろう将来を見据え、壮大な謀りを目論んだ豪商親子。果てはプロローグの倒幕へとどう繋がっていくか、興味深く読めた。ただ、忍びの設定がどうも緩い。「殺さない」のが信条の忍びってアリなのか?情報戦に活躍するのは間違いないが、ただ盗聴するだけで、特に反撃に出ることもなく、放っておかれているのももどかしい。まぁ、気になるところはいくつかあったが、実在の淀屋の闕所にもこんな裏側があったら面白いな、と思いながら楽しんで読んだ。

  • お見事!すばらしい。

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著者プロフィール

元柔道女子57kg級全日本代表

「2022年 『野獣・松本薫の罪なきスイーツ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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