蛍と月の真ん中で

著者 :
  • ポプラ社
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本棚登録 : 522
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591171707

作品紹介・あらすじ

息苦しい日常から逃げ出した
僕が出会ったのは
亡き父の愛した景色と、君だった。


『流星コーリング』で広島本大賞を受賞した著者による、
自分の居場所を求める若者たちの葛藤と足掻き、その先にある確かな一歩を描いた、
瑞々しい傑作青春小説。



あらすじ

何者にもなれていない自分を、恥ずかしがらなくていい。


小さな地方都市で写真店を営んでいた父の影響で、カメラマンを目指すようになった匠海。父の死後、母との関係性が悪くなった匠海は、逃げるように東京の写真専門学校に入学する。しかし、待っていたのは、学費と生活費を稼ぐだけで精一杯の毎日。これを乗り越えれば、きっと夢に近づける――。そう信じ込み、なんとか自分を奮い立たせていた匠海だが、ある出来事をきっかけに、大学を1年休学することを決める。
実家にも帰れず、衝動的に向かった先は長野県・辰野市――かつて父が蛍の写真を撮影した場所だった。なんの計画もなく訪れた匠海を出迎えてくれたのは、父が愛した美しい景色。そして、それぞれの事情で辰野に移住してきた人、訳あって辰野を離れらない人との出会いが、彼の心を変えていく――。

感想・レビュー・書評

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  • 舞台となる長野県の辰野が美しく描かれている。匠海が滞在したのがちょうど1年なので、四季の景色が目に浮かぶよう。
    辰野で出会う人々もみんな個性的でいい人ばかり。こんな村でなら自分をしっかり見つめ直せそうだし、移住もありだなと思いながら読んだ。
    田舎では一人で生きていくことは出来ないとあったけど、どこで暮らしていても頼り頼られ生きていくことが自然とできたらいいなと思う。
    真の豊かな暮らしとは、辰野の人々のような生活なのかも。

  • 装丁に惹かれ、手にした本。東京で大学とバイトに追われていた匠海が大学3年の夏に休学し長野県辰野市で過ごした1年間の物語。辰野の人々は、日本各地を転々とした末、移住してきた人、地元から出たくても出られない事情のある人、一度外に出て戻ってきた人など様々で皆、人はそれぞれの辛さや痛みを抱えていることをよく理解している温かく優しい人々。素晴らしい自然とそのような人たちに囲まれ匠海はかけがえのない1年間を過ごす。休学前は人生の「正解」に拘っていた匠海。休学して一度立ち止まらなければ、見えてこなかった景色、考え方を得た匠海を通じ、人はそれぞれのペースでそれぞれの信じた道を進む大切さを改めて実感した。そして、作中、登場人物の一人が言っていたが、選んだ道が違うと思えば、後戻りだってできる、ということ。私も視野を広く持ち、日々過ごしていきたい。

  • 大学を休学中の主人公が地方を訪れ、自分を見つめ直していく青春小説。主人公は、将来のことや家族のことに思い悩み、微かな記憶にある辰野を訪れる。そこで様々な価値観をもった人達と出会い、自分を見つめ直していく。

    若い頃、華やかに見える人達との交流やアグレッシブさに憧れるのはよくわかります。控えめな主人公が、自分にできることをコツコツと行動していくことで、道が開けていく展開は読んでいて微笑ましい。都会にはない人との距離感や助け合いが温かく描かれているのもよかった。

    アレルギーや地方再生の事も盛り込まれていたけど、きれいにまとまっていて違和感なく面白かったです。

  • 大学で写真を学んでいる匠海。勉学とバイトで忙殺される日々。そんな中、大学へ行く意味を失ってしまう。休学し、亡き父の思い出がある辰野へ。自然に合わせた暮らしや辰野の人々との関わりの中で、匠海は自分と向き合っていく。

    匠海が辰野で出会う人達が皆、ありのままを受容してくれるようなところがあり、自分もそんな人に出会いたいし、なりたいと思った。
    読後、Googlemapでストーリーに出てきたお店や景色を調べてみた。匠海はこんな風景を見たのだなと、自分も辰野を旅した気分になった。とくに「月」の窓からの景色は素敵だと思った。諏訪湖にも行ってみたい。

  • 父の影響により、写真家の道を志した匠海。写真専門の大学に進むのだが、友人の影響や自身の環境に飲み込まれ、毎日が辛くなっていった。そして1年間休学することになった。
    母とはあまり仲良くなく、実家にも帰れないので、父がかつて撮影した印象的な写真の舞台である長野県の辰野へ向かった。お金も少ししかなく、特に何も考えていなかったが、そこで出会った女性に導かれ、辰野で住むようになった。
    辰野で暮らす人々との出会いを通じて、匠海の心は段々と変化していく。


    作家の河邉さんは音楽バンド「WEAVER」のドラマーとしても活躍されているだけでなく、作詞家としての顔もあります。

    その影響なのか、河邉さんの書く表現が、短い文なのに奥行き感があって、歌詞を読んでいる感覚がありました。
    一つの文で多くの文を語っているので、ちょっとした充実感がありました。全体の雰囲気は、青春ならではの瑞々しさがあって、綺麗でした。

    物語の舞台は、長野県の辰野でしたが、そこでの自然や出会った人との温かみが伝わってきて、自分も行ってみたいなと思わせてくれました。

    何かを目指そうとは思うものの、理想と現実に阻まれます。誰しもが通る道ですが、匠海の心理描写が丁寧に描かれていて、共感する部分もありました。

    辰野との出会いによって、心の変化が垣間見られる匠海。突然行ったところで急に移住⁉︎という展開は、小説ならではでしたが、人との出会いで運命が変わるかもしれません。
    ネットとは違う「生」の体験があるからこそ、感じるものも大きく変わります。

    匠海の体験は、この先の色濃い人生にさせてくれるものばかりで、羨ましくも感じました。
    自分も若かりし頃に戻って、色んな体験をしてみたかったなと思いました。

    過去には戻れませんが、「これから」として、「写真」のために頑張る主人公の姿に何か頑張ってみようかなと思いました。

    全てがハッピーに描かれていましたが、個人的に匠海の大学の友人は、ちょっと不幸要素が欲しかったなと感じてしまいました。何となくイラつかせてくれる部分もあって、最後は出会った団体が怪しげなところだった!といったオチがあったら、何となくスッキリがより際立って面白かったのですが・・・。
    そんな黒い気持ちをクリアにするために、どこか旅してみようと思いたくなりました。

  • 【読んだきっかけ】
    河邉徹さんの小説5作目

    【心に残った要素】
    タイトル『蛍と月の真ん中で』と、カメラマンを目指す主人公·匠海の撮る写真。
    自然の刹那と一瞬の人の心を捉える。
    瞬間という儚さに温度を与えてゆく。じんわりする。温かい後味がたまらない。

    実在する地名を用いたり、辰野の人たちの細やかな描写があったりする今作は、これまでの作品と同じく人生の苦楽に揺らぐ人の心を描きながら、これまでになかった要素・視覚的な色彩がはっきりと描かれていてフィクション小説なのにドキュメンタリー映画を見ているかのようなリアリティがある。

    やりたいことよりも、やっておかしくないもの、たしかに。そうやって取捨選択している自分がいる気がした。

    大学生が東京から突然地方に移住?そんな作り話みたいな、と思うかもしれないけれど移りゆく季節の中に描かれる暮らしのグラデーションには違和感がない。
    特に印象的だった言葉は「灯」。

    【ここが好き!】
    夏の色、夏の光。冬の温度、冬の光。
    写真家としても活動する小説家だからこそ、ファインダーから見える世界、カメラで切り取った世界を文字に起こしたときの言葉に美しさがあると思う。

    明里ちゃんの宿いってみたいな~

    今作は音の描写が多くはなかったけれど〇〇のような声ってところが私好みでよかった!


    ──著者紹介──
    河邊徹(かわべ・とおる)
    1988年兵庫県生まれ。3ピースバンド・WEAVERのドラマーとして、2009年メジャーデビュー。バンドでは作詞を担当し、2018年に小説家デビュー。『流星コーリング』で第十回広島本大賞を受賞。その他の著書は『夢工場ラムレス』『アルヒのシンギュラリティ』『僕らは風に吹かれて』。

  • バイトと勉強に追われ疲れた大学生が、休学して亡き父の縁の地で過ごす1年間のお話。
    優しくてほわっとした作品でした。
    現実問題、ここまで恵まれることはないかと思いますが、自分の固定観念を打ち崩してもらう経験って本当に貴重だなぁ、と思います。

  • 写真家を目指し東京の大学でがんばってきた匠海は、学費のことだけを考える毎日、人間関係、思うように写真を撮れない日々にすり切れてしまう
    休学し、わずかなお金を持ってたどり着いたのは、亡くなった父が蛍の写真を撮った長野県辰野市。
    思わぬ出会いから過ごした1年間の日々。

    〇「僕はこの町で、僕の知らない答えを持っている人とたくさん出会いました。」
    この言葉が良いなあと思った
    〇写真の奥深さに少し触れた
    〇クマの子ウーフを思い浮かべずにいられない
    〇実際のお店や宿や人に取材をしているよう。行ってみたいな!
    ・古民家ゆいまーる
    ・月のもり
    ・アトリエ和音
    ・甘酒屋an’s
    ・ 0 to &

  • 自分の立ち位置や将来や存在に不安を抱えた青年が、長野県辰野の人達との生活で変わる…そんな物語だけど、私は本当に好き、というか、こういう物語を読むと心が浄化される。実際にモデルになった場所があるみたいなので、辰野に行ってみたいなぁと思った。

  • 自然に囲まれた辰野での日々でさまざまなことを学び、成長していく一人の男子大学生の話。

    将来に不安を持つ大学時代。自分は本当は何がしたいのかがよくわからなくて。同じ時を生きている友人のはずなのに生きている世界が違う、と劣等感を感じてしまうこと。
    主人公の境遇に同感なことが多く、主人公の気持ちに寄り添いながら読み進めることができました。
    作中では辰野の自然やお人柄など、優しくて暖かくて素敵な要素が詰め込まれており、柔らかい気持ちで読了できました。

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著者プロフィール

河邉 徹(かわべ・とおる)
1988年6月28日、兵庫県生まれ。関西学院大学文学部文化歴史学科哲学倫理学専修卒。ピアノ、ドラム、ベースの3ピースバンド・WEAVERのドラマーとして2009年10月にメジャーデビュー。バンドでは作詞を担当。2018年5月に小説家デビュー作となる『夢工場ラムレス』を刊行。2作目の『流星コーリング』が、第10回広島本大賞(小説部門)を受賞。

「2020年 『アルヒのシンギュラリティ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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