つぎはぐ、さんかく

著者 :
  • ポプラ社
3.40
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本棚登録 : 946
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  • Amazon.co.jp ・本 (287ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784591176122

作品紹介・あらすじ

「たとえそのつぎ目が不格好でも、
つながっていられればそれでいいと思っていた。」

惣菜と珈琲のお店「△」を営むヒロは、晴太、中学三年生の蒼と三人兄弟だけで暮らしている。ヒロが美味しい惣菜を作り、晴太がコーヒーを淹れ、蒼は元気に学校へ出かける。
しかしある日、蒼は中学卒業とともに家を出たいと言い始める。これまでの穏やかな日々を続けていきたいヒロは、激しく反発してしまうのだが、三人はそれぞれに複雑な事情を抱えていた――。

傷つきながらも身を寄せ合って生きてきた三人が、
懸命に明日を紡いでいくための物語。

感想・レビュー・書評

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  • 3人兄弟で暮らす春太、ヒロ、蒼。
    長男、長女が営むお惣菜とコーヒーの店、元気いっぱいの中3の次男。
    でも、3人の間に血縁関係はない。
    そんな3人がなぜ一緒に暮らしているのか、それぞれがどんな思いを抱えているのか。
    読み始めは、美味しそうなお惣菜とコーヒーの描写、仲の良い3人のやり取りに、あったかいほっこりした物語だと思っていましたが、読み進めるうちにそれぞれが、どれだけこの家族を大切に思い守りたいと思っているのか、そしてどれだけこの家族に執着し繋ぎとめたいと思っているのかが分かってきて、冒頭のあったかさやほっこりの裏にある哀しみがじわじわと伝わってきました。 
    それぞれがその思いを素直に出せず、それぞれが自分は独りぼっちなのでは、と思ってしまう。それは、そう思ってしまうほど、辛い経験をしてきたから。家族の温かさを知らずにいたから。
    そんな3人が、それぞれのやり方で家族の新しい形を作っていこうとする物語です。
    寂しいからと相手を繋ぎ止めようとするのではなく、誰のものでも誰のためでもない自分自身を受け入れて見つめることが大切なんだと気付いていく3人。
    良いお話でした。

  • とても温かくて力強い物語である。
    表紙のほっこりとした感じから優しさ漂うアットホームな感じかなと思っていたが、それだけではない重さと絆があった。

    惣菜と珈琲のお店を営んでいる晴太とヒロ、そして中3の蒼の3人きょうだいだけで暮らしている日常に変化が生じる。
    中3の蒼が高校に進学せずに家を出て寮のある専門学校へ行くということからこの3人の関係性が明らかになって…
    親との縁が薄く、両親と愛情のある家庭に育つという経験のない3人たちなのである。
    それぞれがとても複雑な事情を抱えている。

    だが彼らのことをよく知り手助けしている優子さんや常連客たちのそっと見守る姿勢にほっとさせられる。
    こういった見守りがあったからこそ、彼らたちは3人でも助けあって仲良く家族として過ごしてきたのだろう。
    愛情があってこそ、お客さんに喜んでもらえる惣菜が作れるのだから。
    家庭的=惣菜だと思う。
    蒼も将来のことを考えて調理師の専門学校を目指すというのにも納得できた。
    蒼の決断を知り、ヒロもまた過去と向き合って成長していく姿に勇気をもらえた。
    前向きに生きる姿勢に熱くなる。


  • コーヒーとお惣菜のお店「△(さんかく)」を営みながら、27歳の晴太、ひとつ年下の26歳のヒロ、中学3年生の蒼の3きょうだいが暮らしていた。地域の住民や常連客、通勤途中のお客さんから親しまれ経営も順調、3きょうだいの仲も円満だったが、蒼の進路について相談する中でそれぞれの抱える出自の問題や過去などが明らかになったとき、3人はどんな生き方を選択するのか…。

    そもそも、3人がどんな関係であるのか…読んでいくうちにすごく不思議な関係だけれど、それぞれ支え合って生きてきたことがわかりました。でも、3人だけの力ではない…優子さんは、小料理屋を営みながらこの3人を見守ってくれてる人で、私もこんな生き方をしたいなって感じました。3人の抱える事情は明るいものではないけれど、蒼の進路が契機になって、それぞれの明るい未来に希望が持てるような素敵なストーリーでした。晴太の淹れるコーヒーとヒロの作るお惣菜のお店「△(さんかく)」、近くにあったら間違いなく私が常連になると思います(^^)

  • 主人公の3人が支え合いながら生きている姿は美しいけれど、この設定はあまりに現実味がない気がする…著者は何を描きたかったんだろ?

  • 美味しそうで、優しい色使いの装丁と書名に惹かれて手に取った作品。
    美味しい惣菜屋を営む三きょうだいの話。
    きょうだい三人だけで暮らしていて、それぞれがかなり重い事情を抱えていて、だいぶ変わった家族の形をしている。
    物語を読み進めると、それぞれの事情が明らかになるのだけれど、登場人物の描かれ方のお陰なのか、重苦しくて辛くなる箇所でも深刻にならずに読めました。
    きょうだい三人が自分以外の二人のことをとても思いやっていて、少し切なくなるけれど心温まる物語でした。
    作品の中の自家製マヨネーズでのポテトサラダは美味しそうでした。

  • 家族構成の謎がわかった時、実はみんながしっかり人を想っていて感動した。

  •  3人で肩を寄せあって生きるきょうだいの葛藤と決断を描いたヒューマンドラマ。全10話。ポプラ社小説新人賞受賞作。
             ◇
     街かどにある小さな惣菜屋。イートインコーナーがありコーヒーも飲めるこのお店を切り盛りするのは、24 歳のヒロという女性だ。コーヒーを点てたりヒロを手伝ったりするのが兄の晴太。2人には蒼という中学3年生の弟がいる。

     実は3人には血の繋がりはない。そしてヒロだけ姓が異なる。そんな3人が家族として肩を寄せ合うように暮らしている。それはまるで、別個の端切れをつぎはぎして1枚の布に仕上げたような家族だ。
     そうなったのには複雑な理由があるのだが、今のままの関係ではダメなことに3人とも気づいていた。

     ある日、中学卒業後は専門学校に進むため家を出たいと蒼が言い出し……。

         * * * * *

     「家族」とはどうあるべきなのか。考えさせられる作品でした。
     
     3人は誰もが他の2人を必要としています。それは間違いありません。だから互いに思いやり合いながらひとつ屋根の下で暮らしているのです。その気持ちは美しい。けれど……。
     
     親とのつながりが希薄なほど自分の立ち位置が覚束ないのでしょうか。

     家族というものに対し、最も希求し、細心の注意を払ってでも保とうとしているのが親の顔を知らずに大人になった、最年長の晴太だったのが印象的です。
     母親に捨てられたヒロも、3人で作る家族の形態が崩れることに神経質なほどの恐れを感じています。
     大切な家族だからこそ、相手のことをきちんと理解したいと行動に出たのが、親の顔をよく知っている末っ子の蒼だったということが、説得力がありよかったと思います。

     蒼に触発され、ヒロが、そして晴太が行動を起こし、心の内を吐露する。このクライマックスも感動的でした。

     心に空虚を抱えたままでは自分というものが確立できません。自分を確立できずして本当に家族を信じ思いやれるようにはならないのだなということが伝わってくる作品でした。

  • 複雑な事情を抱える三人が、家族の形を探しながら繋がっていく物語。
    家庭環境には恵まれていないのに、三人とも優しくまっすぐ育っていて、無条件に応援したくなる。
    でも、設定がやや強引というか、現実的にこういうことが起こるか?と思うところがちょこちょこ出てきて、物語に入り込むことが出来なかった。

  • いい話だった!
    中学3年生の蒼の兄と姉は、2人で惣菜屋を営んでいる。
    不思議な繋がりの3人兄弟。
    お父さんに子供ができなくて、晴太は養子になる。優秀な子で後継として育てられるが、
    お父さんの奥さんとは別の女の人の間に蒼が生まれて晴太はいらなくなった。
    でも、そのすぐ後に本当の奥さんとの間に子どもができて、蒼もいらなくなった。
    血の繋がっていない3人兄弟。
    そしてヒロはなぜ?
    会社の社長の財力あっての生活かもしれないけど、子どもだけでずっと生活してきたんだね。
    晴太が優しくて立派。
    抱えている悩みや不安は本人のもので、たとえ兄弟でも、わからないこともある。
    それをわかろうとして、絆は強くなるのだと思った。
    美味しいものを美味しそうに食べる2人が、とても良い。
    いい話だった。

  • 26歳の晴太、25歳のヒロ、そして中学3年の蒼。三兄妹弟が暮らすお惣菜とコーヒーの店「△」。
    何か理由があるのだろうけど、なんとも温かい時間が流れる兄弟の物語、と思いながら読み始める。
    温かさの中にある切実さが少しずつ露になっていく。
    三人がそれぞれに抱える寄る辺なさ。肩寄せ合って協力し合って暮らしている三人の、三角形のつなぎ目が少しずつずれていく。その隙間から見えるのは、彼らの過去。
    自分の居場所が欲しくて、自分がここにいていいんだという理由が欲しくて、見ないふりをしていた一人ずつの思い。
    誰もが一人じゃないんだ、誰もが誰かに支えられ守られているんだ、誰もが自分のいたい場所にいればいいんだ。
    一緒にいても、今そばにいても、知らない記憶がそれぞれにはある。その知らない記憶もまるごと受け入れてそれでも明日もここにいる。そう思える場所があるってとても素敵なこと。
    そして若い三人の暮らしを、絶妙な距離で見守る大人たちのまなざしが優しい。
    私も誰かに守られて生きているんだ、と心の温度が少し上がった。

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