- Amazon.co.jp ・マンガ (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784592211457
作品紹介・あらすじ
平和な三国高校に、不穏な影!?
階段から落ちた操が記憶喪失に!
夏侯を筆頭に、あの手この手で記憶を取り戻そうとするけど!?
そして、ようやく恋心を自覚した関は徳子に告白を…?
学園転生☆三国志ラブコメ、感動の完結巻!
2020年3月刊
感想・レビュー・書評
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歴史を「再演」しようにも「時代」は様変わりしたからもうできない。
満を持して「魏」「呉」「蜀」の三君主が揃い踏み表紙を飾ることになる、ここ五巻です。
結論から言ってしまえば「偉人の女性化ネタ」というジャンルの宿命か、それとも少女漫画のフォーマットとの取り合わせか、恋の行方とその成就という意味で完結を迎えることはありませんでした。
けれど「前世」との向き合い方という意味で彼女たちの転機を演出し「これから」を想像させるという意味では申し分ありませんでした。
現代を舞台にした転生ものという手法は平穏な「現世」が良くも悪しくも業にまみれた「前世」に呑まれてしまう、そんな危機感がどうしても付きまとうわけですが、そこに一定の答えを出したことは確かです。
ここに来て高校生として現世を謳歌する三国の中で一番前世を引きずっていたのがこの作品中でも主役格を張っていた蜀サイドであることが明確にされました。
それも「平和」と「幸福」を享受し続ける象徴としてここまでの園芸という流れを汲んで学生手づくりの「桃園」が結実したのに、一度は折られることで因業に満ちた前世がフラッシュバックするという形で。
一巻で述べたころから、一貫してライト目なネタで進行している中のギャップに目をむかれました。
というわけで、完結を迎えるこの五巻の端緒を開くのが前世:曹操こと曹司操ちゃんの「記憶喪失」回です。
「記憶」というのは「人格」を支えるセンシティブな要素ですし、その辺が失われたことで「自己」とはなにかとかのシリアスな方向に舵を切るのもありだとは思います。
けれど、この一連の流れに関しましてはその辺はある程度危機感を抱きつつも大体コミカルに進行し、最も身近な人との「絆」をもって記憶を取り戻すという〆方になります。
この辺、ご都合主義というか、お約束的な記憶喪失ネタであることも確かなので雑なネタだなあと笑って見ていられたのもここまででした。人というものを信じられなかった乱世の肝雄がそれでも信じた最も身近な人という着眼は上手い。
また、ラストエピソードにつなげる布石も隠していたので読者の油断と侮りを誘う意味で相当に巧みでした。
記憶を失うってのも、最終巻だからこそできるネタということもありますが、これを引っ張るわけでなく呼び水にする判断も冴えているのかもしれません。
あと、傲岸不遜な生徒会長としての要素を取り去った操ちゃんの現世における素の顔も明らかになりましたが、今までの巻でも度々出ていた恋に臆病な乙女の一面でもあったので違和感はあっても納得はできました。
私の場合、別に前世における偉人要素だけで「彼女」の人格は形作られていたわけではなかったという解釈をしましたが、さすれば前世の延長線上で乱世の論理を通そうとしていた黒幕へのカウンターになったと思います。
ここまで「三国志」関係者だけで話を回していたからこそ、完全に一般人目線になった彼女の視点は貴重でした。
「前世」うんぬんってオカルト・スピリチュアルは、今という現実を過ごすうえでは不要と言えば不要で、か弱い女子高生に乱世の肝雄の面影を見ることが異常だという常識を読者に与えてくれた意義は大きいです。
で、黒幕との対決パートに移行するわけですが、一巻でさらりと(ネタで)触れられた有名キャラを荒事要員として本編に持ってきた辺りで驚かされました。
彼、一対一なら絶対勝てない上に、武力にパラメーターを全振りで会話が通じない怖さがありましたから。
野心を取り払って、第三者から利用されるだけのよく切れる刃として彼を解釈したのもありと言えばありかもしれません。
黒幕自身に関しては原著からして様々な感情が想起される人物ってのがわかってしまって、だからこそある意味雑で捨て鉢な計略を練って破滅していく姿がなんとも切なかったです。この作品が少女漫画であること、あくまで現世を生きる高校生の敵であることを活かした演出と、現世に馴染めなかった存在ということが重かった。
どうしても、彼のすべてを分かった気にはなれなかったんですが、原作と歴史へのリスペクトを考えればそれはそれでよかったのかもしれません。彼自身、正史と演義でギャップがあることを考えれば、彼の内心の最奥に踏み込みきれなかったのも解釈として働いている、そんな気がしてなりませんでした。
そんなわけで、本作の特徴としましては「転生」にともなうギャップを悩み続ける路線と、あくまで恋愛を軸とした「少女漫画」であるという路線のふたつの要素が並立して走らせたと言えます。
題材の「三国志」抜きにしても親和性のある要素を組み合わせて事故なく走り切っていただけたと思います。
とまれ「三国志」というコンテンツにはまだまだ膨大なキャラクターが眠っているわけで、とりあえずひと段落着いたこの段階で終わり、出し切れずに終わってしまうことに作者ともども名残惜しい部分はあることも確かです。
ただ、今までの巻で述べたとおりに蜀の義兄弟の話は恋愛で語ると、嘘になってしまいそうなので余韻を残した終わり方も決して嫌いではありません。
「ネタ」という意味では尽きる気配はなくとも、その場限りの笑いに留まらずストーリーラインの中に織り込み終わらせ、長すぎず短すぎず、ひとつの解釈を提示し続けたこの物語のことを私は好ましく思うのですから。