ある行旅死亡人の物語

  • 毎日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784620327587

感想・レビュー・書評

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  • 行旅死亡人…知らない言葉でした。
    身元が判明せず、引き取り人不明の死者を表す法律用語だということです。
    共同通信社の記者が書いたノンフィクションなのですが、あまりにもドラマチックでミステリアスで、淡々と書かれた小説を読んでいるようでした。
    著者の武田さんは、ふとしたことから行旅死亡人の所持金ランキングが目に留まり、3400万円もの現金が金庫の中にありながら、40年間古びたアパートにまるで人目を避けるように住み続けていた75才の女性(タナカチズコさん)について調べることになります。
    遺品や残された写真などから、武田さんの妄想(?)はどんどん膨らんでいき、この女性はもしや○○だったのではないか?はたまたこの女性は本当にタナカチズコさんなのか?と色んな方向に考えが飛んでいくのです。
    読者もドキドキが止まらなくなってくるのですが、これが小説ならうまいこと話がまとまるんだろうけど、ノンフィクションだからモヤモヤしたまま終わることもあるんだろうな、と逆に先が気になって気になって…とこんな具合で読み進めました。
    読み終わってみて思ったのは誰の人生にも物語があるということ、この本のタイトル、これが正解だと思います。

  •  「行旅死亡人」‥初めて聞く言葉でした。法律用語で、身元不明で引き取り手のいない遺体を指します。日本では年間6〜700名の行旅死亡人情報が官報に記されるそうです。

     本書は、2020年に兵庫県で行旅死亡人と認定された高齢女性の半生を追ったノンフィクションです。彼女の周囲は謎が多く、警察・探偵も辿り着けなかった真実へ、共同通信の2名の記者が切れそうな細い糸を執念で辿っていきます。

     読み進めるほど、ミステリーと錯覚してしまいそうです。しかし、記者・読者に都合よく物語は進みません。ミステリー感覚で、本書のラストを期待するのは間違いでしょう。
     むしろ、一人の死者の人生を丁寧に追うことの意味と困難さを提示しているようです。かつてそこに生きていた痕跡・輪郭を、完全に再現したり理解したりは不可能に違いありません。だからこそ、一度しかない人生は、儚いけれどもかけがえのないものだと思わされます。

     フィクションのように、全てが解明されるわけではありませんが、ノンフィクションならではの重みが感じられ、2人の記者の熱量が伝わってくる作品でした。
     また、普段は考えない、人生とは? 死とは? という難解で正解のない問いを突き付けてくる一冊だと思いました。

  • 私には珍しくルポタージュの読書。
    官報の行旅死亡人記事に興味を持った記者が、その死者の身元を探す取材を始める。

    年齢75歳くらいの女性が古いアパートの一室で亡くなっていた。死因は病死で事件性はないが、部屋から3400万円という大金が出てきたこと、右手指が全て欠損しているという二つの事実が興味をそそる。

    担当した弁護士が雇った探偵も調べられなかった女性の身元探しに二人の記者が挑む。
    この過程は興味深く読んだ。残された品物の数々から彼女の足跡をたどる。だがすぐにその足跡は途切れてしまう。何しろ彼女は故意に足跡を隠していた節があるのだから当たり前だ。
    結局彼女が残した印鑑にあった珍しい苗字からついに…。

    彼女の身元が分かったのは良かったが、同時に残された謎も多い。
    タイトルにある『物語』については大して語られなかったような。一番知りたかった部分については全く分からなかったのが拍子抜けで残念。しかしそれだけ彼女がその部分を隠したかったということだろうか。

    逆に言えばこれほど彼女が隠したかったことを見知らぬ人間が暴いて良いのか、それをさらに見ず知らずの私のような人間が覗いて良いのか、という罪悪感もあった。これが小説なら面白おかしく読めるが、現実の物語で、彼女は現実に生きていた人なのだ。
    だから分からないままで良かったのだろう。

    どれほど注意深くひっそりと生きていても、長く生きればその人生の痕跡は残る。
    特にドキッとしたのはぬいぐるみ。名前まで付けて大切にしていた犬のぬいぐるみと彼女はどんな思いで共に生きてきたのか。
    写真、ペンダント、ぬいぐるみ、印鑑、年金手帳、彼女ではない部屋の借主男性の名前。
    彼女は誰にも見つかりたくなかったのか、それとも誰かに見つけて欲しかったのか。

  • 行旅死亡人。あまり聞くことのないことばだが、目にするのは新聞で…だろうか。
    病気や行き倒れ、自殺等で亡くなり、名前や住所など身元が判明せず、引き取り人不明の死者のことを表す法律用語である。

    これは、2020年4月。兵庫県尼崎市のアパートで女性が孤独死したことから始まる。
    たった数行の死亡記事が気になり警察も探偵もたどり着けなかった真実を記者が追う。

    アパートでの死亡だと身元はわかるだろうと誰もが思うはずなのだが、現金3400万を残したまま本当の名前がわからないという…。

    彼女が誰なのか?
    彼女を知るまで追う執念は、何なのか?
    たんなる興味だけではないものを感じた。
    それは、たとえば自分の最後はどうだろうか?と考えてしまったからだろうか。
    どういう最後にしろ、無名のまま誰にも知られないまま亡くなるのは辛いことである。

  •  行旅死亡人とはいわゆる行き倒れを指すが、法律的には名前や身元が分からず、引き取り人不明の死者をいう。
     
     尼崎市のアパートで高齢女性が孤独死した。部屋の金庫には約3400万円の現金が残されていた。数十枚の写真と星型マークの付きのペンダント、珍しい姓の印鑑等も残されていた。だが身元を特定できるようなものは無かった。本人は「タナカチヅコ」と名乗っていたという。本籍地や相続人もわからない。警察や相続管理人の弁護士が雇った探偵でも調べることが出来なかった。

     共同通信の二人の記者が、残された資料をもとに身元の調査に乗り出した。苦労の末に身元は判明するのだが、未解明の部分も残った。夫と思われる「田中竜次」と名乗る人物は一体誰なのか? 3400万円もの現金の出所は?

     本書は二人の記者の執念が実を結んだルポルタージュと言える。ページをめくる手が止まらなかった。

  • ※まず最初に、この本は「実話」です。
    普通は見逃してしまいそうな老人の孤独死の記事。ここから、不可解な状況や謎が提示され、その謎を実際の取材を元に真実を解き明かしていくという流れです。
    粘り強い取材を通して、ちょっとした小さな情報から、警察でも調べられなかった事実を繋ぎ合わせていくところは流石だなと思いました。

    行旅死亡人という聞き慣れないワードですが、身元不明で引き取り手のない死者を指す法律用語とのこと。
    また、以下のWEB配信記事が元になっているとのことなので、興味ある方はまずはこちらを確認してみるとよいでしょう。
    https://nordot.app/861908753767972864?c=39546741839462401

  • 2020年4月、兵庫県尼崎市で孤独死した女性の身元を、二人の新聞記者が解明して行くルポルタージュ。警察も探偵もたどり着けなかった真実に迫っていく記者の執念に、心動かされた。死亡した女性が何者であったか、が解明されて良かったと思った。

  • 何よりも驚くべきことに、本書は実話である。もし未読だったなら、何をおいてもまず読むことをオススメしたい。下手なミステリよりも、いや、もしかするとちょっとしたベストセラーミステリよりも、よほどおもしろく、かつミステリアスなのだ。

    タイトルにある「行旅死亡人」は聞き慣れない用語だが、身元不明で、亡くなったあと遺体の引き取り手もない方を指すという。遊軍記者だった著者は、いいネタがないかと何気なく眺めていた官報の行旅死亡人記事に目をとめる。それは70代女性の行旅死亡人に関するものだった。女性は身長133cm、右手の指がすべて欠損しており、所持金は3500万円近く…。何かがにおう。この数行の記事から著者の壮大な探索行が始まるのである。

    未読の方の興をそぐのは本意ではないので、詳しくは書かない。しかし、調べれば調べるほど次々と明らかになる謎、解けたかと思えばさらなる大きな謎へとつながっていく展開に、陳腐な表現だが、ページをめくるのがもどかしくなった。先へ先へと読みたくなるのだ。私は何度もつぶやいてしまった。「これホントの話なの?」と。

    著者のお二人は新聞記者。書くことにかけてはプロなのだから、文章が巧みであるのは言うまでない。流れるように読み進められるのが、本書の魅力を増している。おそらく普段の彼らは没個性的な文章を書くことが多いのだろうが、本書では、語弊を恐れずに言うならば「人間的」である。

    真実はどこにあるのか。この謎はどこに行き着くのか。本書を読むと、不思議と人に勧めたくなる。だから、ブクログ仲間の皆さんにも強く勧めたい。本書はおもしろい!

  • 尼崎で女性が3482万円を残して孤独死した。年金手帳には田中千津子と書かれているが本籍が見つからない。右指が全て欠損しているにもかかわらず、労災の受け取りを中止しているうえ、保険証を持っていないため自費で歯医者に通っていた。公示でこの女性の死を知った新聞記者が、女性の身元を探っていく。

    警察にも分からなかった身元を遺品の印鑑と写真をヒントに聞き取りをし、身元とを割り出してゆく作業。面白くて一気読みしました。推理小説よりも推理小説っぽかったです。武田氏の真っすぐで熱い文と、伊藤氏の人の心に入ってくる文。この違いも良かったし、協力してくれた人々の優しさがとても伝わって、身元の判明にはホッとして涙しそうになりました。

    結局、本当の本当は何人姉妹なの?子供は?など、いろいろあるけれど、なんらかの事情があった千津子さん。きっと千津子さんはそっとしておいて欲しいんだろうな、と思うと、この結末でいいのだと思います。

  • 行旅死亡人、病気や行き倒れ、自殺などで亡くなり名前や住所がなど身元が判明せず引取人不明の死者のこと。
    誰にでも起こりうるこどだと思う。
    警察、弁護士、新聞記者の方が、家族を探すためにこの女性の人生をたどる。
    そして、家族にたどり着く。
    本人はなくなっていて、どんな最後を望んでいたかはわからない。
    でも新聞記者さんと関わりを持った親戚縁者の皆さんの温かさが伝わってきて、人から見たら孤独だったかもしれないけど、本人は幸せだった、いいこともあったよって思ってたらいいな。
    自分は必ず人生の途中に足跡を残している。
    必ず誰かと繋がってるんだなと再認識した。

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