- Amazon.co.jp ・本 (788ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622036630
感想・レビュー・書評
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1-7 地学
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「第8章人の安全保障」は、民間防衛と重ね合わせた防災への備え。
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当時、「戦後最大の被害」をもたらした「未曽有の災害」と呼ばれた阪神淡路大震災から、この社会は何を学ぶべきなのか。関東大震災を参照項に、政府の対応、メディア報道、救命活動、復興などを幅広く検討した本書、そのうち読もうと思っているうちに、こういう日を迎えることになってしまった。
15年前の災害について書かれた本書を読みなおすと、この間の社会変化の大きさをあらためて思わずにはいられない。インターネットメディアやNPOの発達などは、その最たるものだろう。だが一方で、おどろくほど変わっていないことも多い。「災害は常に社会の盲点をつく」と著者はいう。社会システムのほころびとして災害を見つめようとした本書の価値は、今も少しも減じてはいない。
たとえば、「『安全神話』の崩壊」とは何を指すのか、という問題をあつかった第4章において、著者は、「世界一厳しい」と自負されていた日本の耐震基準が、実際にはどのようにして空虚な言葉として築き上げられたのかを歴史的にたどったうえで、「今回の災害は千年に1回程度のきわめて例外的なものにすぎない」「より近代化を進めれば安全になる」といった言説を通して、ひとつの安全神話の終わりが、新しい安全神話の始りとなることを、すでに指摘していた。基準の設定と同様に、基準の実施も、社会的政治的制約の中で行われる。コスト削減を金科玉条とし、下請けにしわよせをおしつけたことが、新建築基準下で施行されながらそれを満たさないずさんな建築をもたらしたことは、この時も指摘されていた。足りないのは、それを社会システムの問題として認知する能力だったのだ。
永井荷風をはじめ多くの文学者の言葉も引用しながら、土地の記憶までをも視野に入れる記述手法は、社会科学書としてはやや不思議な気もしたが、著者は社会システムを決して政治システムと同一視はしていない。むしろ、この国の歴史的開発過程を踏まえたときに、上からの統治にもとづく災害対策とは異なる視点に立つ「人間の安全保障」の基盤として、コミュニティの力を積極的に見出そうとしている。