リルケ詩集 新装

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (152ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622049210

感想・レビュー・書評

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  • 気高き人間の眼に触れることは、
    自らの血の純な流れの所在を
    確かな感触を以て掴むこと。

    【冬の朝】

    滝が凍って流れない。
    鳥らは 池の水ぎわにうずくまり
    わが佳き人の耳は紅い、
    かの人は工夫している、何か面白い悪戯を。
    太陽が僕たちに口づけする。夢みがちに
    短調のひびきが樹々の枝間を流れている。
    そして僕らは前進する。―からだ中が
    朝の力の芳香でいっぱいになって

    【夜となりて】

    プラーハの都の上に 大きく広く
    夜は早や咲き出でぬ、花のごとく
    昼の光は蝶のごとく その輝きを舞い納めて
    夜の涼しき花のふところに隠しぬ。

    空高き月は 狡き小人のごとき歪なる笑いを洩らし
    銀の光の金屑の
    房のかずかずを
    モルダウの流れに撒く

    やがてにわかに腹立ちし身振りをして
    月は 光の筋を回収す、
    そは 己の敵手に気づきしゆえに、
    ―塔の時計の 明るき円板に気づきしゆえに。

    【夜が薫りに重く】

    夜が薫りに重く 公園にひろがり
    夜の星々は ひっそりとながめている、
    早くも月の白い小舟が
    菩提樹の梢に上陸しようとするさまを

    噴水のひびきが遥かに歌っている、
    永いこと忘れていたお伽噺をうたっている、―
    それから林檎が かすかな音を立てて落ちる、
    揺れ止んでいる 丈の高い草の中へ。

    夜の風が 近くの丘から吹いて来て
    碧い蝶のつばさに載せて
    若い葡萄酒の重たい香りをかこんで来る、
    立ち並ぶまつやにの老樹のあいだを抜けて

    【静かな家の】

    静かな家の窓窓は 夕日の色に照り映えて
    庭いちめんに 薔薇の薫りが充ちていた。
    白雲の数々の裂け目の上に、高々と
    「夕暮」が、不動の大気の中に
    翼を張り拡げていた。

    鐘の一声が 水郷の上にそそがれた…
    大空からの 呼びかけのように穏やかに。
    そして私は見た、葉のささやきに充ち満ちた白樺の上に
    照り初める星々を、ひっそりと、「夜」が
    蒼ざめた世界へ送り出すのを。

    【不思議に白い夜な夜な】
    不思議に白い夜な夜なが在る、
    そんな夜には すべてのものが銀色だ。
    そんな夜には 星々の淡い光がほんとに優しい。
    まるでそれらの星々が、敬虔な牧人たちを
    新しい幼な児イエスへ導いてでもいるように。

    金剛石の濃い粉をいちめんに
    振りこぼされているようだ、草原も、水の面も。
    そして夢みがちな人々の心の中へ
    礼拝堂の無い或る信仰がさしのぼって来て
    秘蹟をしずかに行うのだ

    【※】

    遠い以前のことだ―遠い以前のことだ…
    いつだったかは もう判らない、
    鐘の音が鳴りひびき ひばりが一羽啼いていた、
    そして一つの心が幸のため 高鳴っていた。
    若葉の森の丘の上に 空がきらきら光っていて
    リラには花が咲いていたー
    ほっそりとした一人の少女が晴着を着て
    その眼なざしは 問いの思いに充ちていた…
    遠い以前のことだー遠い以前のことだ…

    【わが戦いとは】

    わが戦いとは、
    憧れに捧げられ浄められつつ
    日々をさまよいて進むこと。
    かくて 強くまた広く
    数知れぬ我が根もて
    生を深くつかむこと-
    悩みによりてまことに実り
    生より
    時より 遥か立て出ずること

    【●】

    憧れの心は一羽の蝶となって
    はるばる旅に出かけて行き
    遠い遠い星々に 我がふるさとを
    ひそかに探して飛びめぐった

    【外(と)の面(も)にて君に逢わば】

    五月来て うるわしき驚きのつぎつぎに重なりて
    ありとある花の枝より
    もの皆の心ことほぐひそかなるゆらぎは ※ことほぐ=言祝ぐ
    しずくのごとく降り落ちて

    道のべの たけ高き十字架に
    ジャスミンの花の腕は雪のごと白くとどきて
    十字架の上なる神の額に漂う

    はてしなき悩みの色を そこはかと包むとき
    外の面にて 君にし逢わば嬉しきものを

    【私は一つの園】
    私は一つの園でありたい-その泉のほとりで
    かずかずの夢がかずかずの新鮮な花を咲かせるような。
    それらの花はそれぞれが 自分の思いに耽りながら
    無言の会話の中に一致する。

    そして夢たちが彷徨うとき、その夢たちの頭の上に
    私は 梢のざわめきのように自分の言葉をざわめかしたい。
    そして夢たちが憩うとき、うっとりとしている彼らの声に、
    私は自分の沈黙をもって聴き入りたい-夢たちの まどろみの中にまで

    【ときとして夜の底いに ※底い=果て】

    ときとして夜の底いに
    風はめざむ 幼な児の目ざむるに似て。
    ただ独り 風は 並木の路を進み
    静かに静かに村に吹き入る。

    まさぐりて(※てさぐりで探す) 池に至れば
    たたずみて 風は窺う-
    家はみな 雪に白く、
    樫の樹ら 声もなし…

    【或る少女が歌う】
    わたしたちは みんな互いに姉妹です。
    けれど、ときどき夕暮に、わたしたちは戦いて
    おもむろに 互いを見失うことがあります。
    そしてわたしたちのひとりびとが
    友達に そっと言いたくなるのです -「心配なの?」

    母たちは私たちに言いません-私たちが何処に居るのかを。
    そして私たちをまったく私たち自身にまかせます。
    たぶん私たちは 今 居るのです
    不安が終わり 神が始まるような場所に…

    【少女の憂愁】

    心に浮ぶ 若い一人の騎士のこと、
    まるで一つの古い諺が思い出されるように。

    その騎士が来ると、ちょうど森の中で
    ときどき大きな嵐が来て わたしを包むときのようだった。
    騎士が行ってしまった。ちょうど、ときどきお祈りの最中に
    大きな金の祝福の音が早や鳴りやんで
    一人取り残されて祈っているときの  あの気持ち。
    するとわたしは、静寂の中へ泣き叫びたい、
    けれど唯だひっそりと忍び泣くのだ
    自分の冷たいハンケチの中へ、深々と。

    心に浮ぶ 一人の若い騎士のこと。
    その人は見つくろいして遠く征く。

    あの人のほほえみは やわらかく気高くて
    古い象牙の輝くようで
    故郷を慕う心のようで、暗い村の
    クリスマスに降る雪のようで、
    真珠ばかりにとり巻かれているトルコ玉のようで、
    好きな本を照らしている
    月の光のようだった。

    【私に成りたい】
    ほんとうの秘やかなものらのように私は成りたい、
    私の韻律の中へ私のすべての郷愁がすっかり含まれること以外には
    自分の額の下にいろいろな考えを形づくることをもう私はしたくない。
    自分の眼なざしの中に、芽ぐむ優しさだけを私は示したい-
    私の無言が携えさせる優しさだけを。

    もはや決して心を裏切って洩らすまい、
    そして自分の孤独を
    最も偉大な人々がしたように一つの城砦としたい。
    しかし、多くの槍の眼も昏む一閃に撃たれたように
    立ち騒ぐ群衆が あの最大の人々の前にひれ伏すとき
    最大な彼らはその胸から一つの秘蹟のように
    彼らの心を取り出して掲げ、そしてこの心が群衆を祝福する

    【夕暮れ】
    そして(定かには解きほぐせない)君の生を
    不安なままに、途方もなく大きいままに、そして
    実りつつあるままにして置きたまえ。
    そうすると君の生は或いは他から限られ 或いは他の物を捉えつつ
    君の内部でそれは 或いは重い石となり或いは光る星宿となる。

    【予感】
    私はかずかずの遠さに取り巻かれている一つの旗のようだ。
    来る風を私は予感する。その風を私は生きないでいることができない、
    下のほうでは多くのものがまだ少しも身じろぎをしないときにも。
    扉はまだ静かな閉り方をしているのし、壁の暖炉の中にはまだ静かさがある。
    窓々は、まだ震えはせず、塵もまだ重い。
    そのとき早くも私は嵐を覚り、海のように激動する。
    そして自らを拡げ、それから自らの中へ落ち込み
    そしてまた自らを投げ出して、まったく孤独だ
    大きな嵐の中で

    【自分の生の矛盾を】
    自分の生のいくたの矛盾を
    和解と感謝の心をもって 一つの象徴としてつかむ人は誰しも
    自分の生の宮居(みやい…神が鎮座するところ)の中から から騒ぎする者たちを駆逐して
    新しく別な 祝祭の用意をする。すると、神よ、おんみが客(まろうど)としt来る
    そして彼はおんみを 彼の穏やかな夕べ夕べに迎える。

    おんみは 彼の孤独の 第二人者、
    彼の独言の 静かな中心。
    そして おんみを中心にして廻り引かれる一つ一つの環のために
    彼のコンパスは張り伸ばされる-時を超えるほどに

  • リルケの訳はこのくらい硬質な方がいい。

  • 詩集が好き。

  • 片山敏彦訳でしかリルケの詩を読みたくない…、と勝手に思っています。所持しているのは、昔古書店で買ったみすずの旧版。『マルテの手記』や『ドゥイノの悲歌』は読まなかったので詩しか知りませんが、森有正訳の『フィレンツェだより』はいつかページを繰りたいものです。

  • 一番好きな詩☆アドヴェント(降臨節)☆風は 一人の牧者であるかのように/冬の森で 雪片の羊群を駆けたてる、/そしてかずかずの樅の樹は予感する、もう間もなく/自分たちが 敬虔になり クリスマスの灯に神々しくなることを。//そして彼らは 外へ聴き入る。/雪に白いいくたの路へ/彼らは枝々を差し伸べる―用意して。/そして風にさからいながら 成長する、/輝かしい一夜をめざして。

  • 私が持っているリルケの詩集の中ではあまり開かれることがない本。時トウ詩集の『たとえあなたが私の眼の光を』とかに関しては、新潮文庫のよりこちらの訳の方が好きだけれど、収録数は文庫のが多いし。むぅ。

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