死と歴史 新装版: 西欧中世から現代へ

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622071938

感想・レビュー・書評

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  • アリエスの本は『〈子供〉の誕生』に続いて2冊目。『日曜歴史家』という著書を持つ著者は,大学の勤める歴史学者ではないところが共感を覚えるが,もちろん共感を覚えるのも失礼なくらいで,日曜歴史家でありながら,歴史に名を残す歴史学者である。そんな彼の大著の一つ,『死を前にした人間』(1977年)は15年来,著者が取り組んできたテーマの集大成。同じテーマで1975年に発表されたのが本書。でも,前半の英語版は前年に刊行されていたようだ。そもそもが,その内容は米国のジョンズ・ホプキンス大学での連続講演であり,フランス語版の本書では,その講演に加え,このテーマに関するそれまでに発表された論文や書評原稿などを収録したもの。
    テーマはいたって分かりやすい。アリエスは精確にはアナール学派に属していたとはいえないが,その後流行ることになる心性の歴史と位置づけられるようなもので,西欧世界における死に対する観念の歴史をたどったもの。しかし,もちろん『〈子供〉の誕生』もそうであったように,現代の私たちが自明視している意識がかつてはそうでなかったという史実を示すことによって,現代の私たちの意識を改善しようという意図を持っている。本書が書かれた1970年代からはもちろん,死に対する人間の意識は変わってきていてはいるが,本書の意義はまだ色褪せてはいないと思う。
    先日,ネットで面白い記事を読んだ。最近の日本人は癌に対する不安の第一位は「死」ではなく,「治療にかかる費用」だという。癌=死という意識から,早期の発見と治療によって克服すべき病であるとの認識が広まる一方で,治療のために仕事ができなくなり,その上に高額の治療費がかかるということによる家計の逼迫が大きな不安だというのだ。ちなみに,私の父は20年前に癌で亡くなった。結局は本人には告知せずに亡くなってしまった。まさに,この風潮がアリエスが現代社会における死に対する意識として出発点としたものだ。死は恐れられ,なるべく覆い隠される。もちろん,医学は進歩し,医者は死期を知り,親族にはそれを伝えるのだが,一昔前はそれを本人に伝えるのは「酷すぎる」といって,見送られてきた。その点に関しては21世紀の今日では事情は異なり,本人に告知することで積極的に治療に立ち向かわせるということになっているが,瀕死者が病室のベッドで,管に繋がれながら,一日一日と延命されるという状態は変わっていない。
    アリエスによれば,こういう状態というのはほんのここ数百年で現れたものだという。アリエスが挙げている事例の多くで,西欧の人々は自らの死期を誰よりも早く察知し,それを迎える準備をするのだという。つまり,多くの事象は近代以降に自然な状態から飼い慣らされるのだが(子どももその典型),死に関しては歴史を遡った方が,人間によって飼い慣らされていたというのだ。むしろ,現代の方が予測不能な自然として死は恐れられるようになったという。飼い慣らされていた時代の死は恐れられるものではなく,喜んで向かい入れるものだったという。ただし,本書は70ページ程度の講演録に,さまざまな形でこの説が発表される短文からなるので,この辺の歴史の推移が分かりにくい。やはりきちんとこのテーマを学ぶには『死を前にした人間』を読むべきだというのだろう。

  • 『読書の軌跡』阿部謹也より

  • これは早く読み終わりたい。結構役立ちそう。
    図書館で借りたのが最初だけど、自分用に買った。

  • 歴史学者アリエスの書。『死を前にした人間』を読む前に読んでみました。
    かつて死は長くの間、人々と親しく、友人、家族とともに濃密な環境にあった。しかし、20世紀の産業化・都市化の果てに死は隠され、管理下されたものへとなる。。。
    死という人間にとって必ず訪れるテーマを扱ったものだけに、その変化には衝撃を覚えました。当然と思っているものが当然ではないと知ることができる、というのが歴史を学ぶ魅力の一つだと思います。そんな魅力に触れたい人にオススメ!

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著者プロフィール

(Philippe Ariès)
1914年、ロワール河畔のブロワで、カトリックで王党派的な家庭に生れる。ソルボンヌで歴史学を学び、アクシヨン・フランセーズで活躍したこともあったが、1941-42年占領下のパリの国立図書館でマルク・ブロックやリュシアン・フェーヴルの著作や『アナル』誌を読む。家庭的な事情から大学の教職には就かず、熱帯農業にかんする調査機関で働くかたわら歴史研究を行なった。『フランス諸住民の歴史』(1948)、『歴史の時間』(1954、1986、杉山光信訳、みすず書房、1993)、『〈子供〉の誕生』(1960、杉山光信・杉山恵美子訳、みすず書房、1980)、『死を前にした人間』(1977、成瀬駒男訳、みすず書房、1990)などユニークな歴史研究を発表し、新しい歴史学の旗手として脚光をあびる。1979年に社会科学高等研究院(l’École des Hautes Études en Sciences Sociales)の研究主任に迎えられる。自伝『日曜歴史家』(1980、成瀬駒男訳、みすず書房、1985)がある。1984年2月8日歿。

「2022年 『死と歴史【新装版】 西欧中世から現代へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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