- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784622080671
作品紹介・あらすじ
第一次大戦に出征したマイナー・ポエットたち。夭逝、長生を問わず、戦地で傷つき、故郷を想った彼らの内なる叫びをすぐれた歴史家が繊細な筆致で伝える。
感想・レビュー・書評
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マイナー・ポエット。詩があらゆる芸術の頂点に立つ英国では、二流の詩人という意味にはならない。テニスンなど大詩人ではないが極めて優れた詩を残した詩人たちをこう呼んだ。
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19世紀末に生まれ、20世紀前半、特に第一次世界大戦の前後に詩作を行った英国詩人たちについてのエッセイ。取り上げられているのは、エドワード・トマス、ルパアト・ブルック、ウィルフレッド・オーウェン、シーグフリード・サスーン、エドマンド・ブランデン、ロバート・グレイヴズ、アイヴァ・ガーニィ。
これらの詩人は戦争詩人と言われたりマイナー・ポエットと呼ばれることが多い。マイナー・ポエットというのは二流、無名の詩人ということではなく、詩があらゆる芸術の中でも最も高い位置にあり、多くの偉大な詩人を輩出してきた英国においては、それらの大詩人ではないが、極めて優れた詩を残した詩人を指す言葉であるという。
彼らは20代の早い時期に第一次世界大戦に従軍し、人生に大きな影響を受けた。トマスやオーウェンなどは戦死し、またガーニィのように精神に大きな傷を負った者もいる。そうではなくとも、彼らの多くが戦争によって人生や社会に対する考え方を大きく変えられた。
しかし筆者は、彼らの詩を戦争を描いたものという観点だけから見るのではない読み方を提示している。
例えば彼らの多くが自然や故郷の風景を愛し、それらを詩に読んだ。彼らが自然や風景から感じ取ったものが戦争の前後で大きく変わったのは事実であるが、彼らの中に大切なものとして在り続けたということは確かである。
そのような感性は英国詩人の伝統の中にも深く根付いており、戦争は結果として、彼らの詩のテーマを変えたというより彼らが自然や風景を見たり感じたりする感受性を変化させたということが言えるのではないかと感じた。
もう一つの時代背景として、彼らが育った時代がヴィクトリア朝時代の末期から徐々にイギリスが新しい時代に移っていく時代と重なっていたということも、彼らの詩を読むときに重要な点ではないかと感じた。
文化の面では非常に絢爛な時代から、戦争の時代へと移っていくこと、イギリスが世界の中で圧倒的な地位を誇った時代が徐々に終わりを告げていったことなどが、彼らの中に見られる厭世観や静かである意味では醒めた視線に繋がっているのではないかと思う。
本書では、各詩人の人生を振り返りながら、多くの詩が取り上げられており、これらの英国詩人の人生とそこから生まれた詩の世界を照らし合わせるように読むことができ、大変興味深かった。
筆者自身が文学者ではなく英国史の研究者であることから、本書のエッセイも文学としての詩の分析より、社会と詩人の関係を綴ることで、その時代の若者の感じていたものを知ることができるという内容になっていると思う。
それと同時に筆者自身のこれらの詩人に対する思い入れも感じられ、詩の世界の豊かさを知ることができる本でもあると感じた。