作家の本音を読む (大人の本棚)

著者 :
  • みすず書房
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本棚登録 : 9
感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622080756

作品紹介・あらすじ

原民喜や伊東静雄の詩から『ハムレット』『荒地』『ユリシーズ』さらに『モリス』や『蠅の王』へ。古今東西のテキストを肴に「読む愉しみ」を共有する饗宴。

感想・レビュー・書評

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  • 作品の意図が分かると読む方も楽なのに、作者はなぜか隠したがる。
    その方が売れるとでも思っているのだろうか。
    むしろ反対で、思わぬ方向を向いていたことが分かると裏切られたような気持になる。

    こんなことを言うのは、つい最近そういう本に出会ったからだ。
    『タイトルにある「あの本」とはパステルナークの「ドクトル・ジバゴ」のことです。でもその本にまつわる話ではなく恋愛小説です。』
    ・・始めにそう書いてほしかった。読まれた方はお分かりかと思う。
    失望の大きさに唖然とした私のような者もいるのだ。

    しかし著者の坂本公延さんは、「おや?」と思う小さなつまづきを大切にする。
    あからさまには書きたくないがそれでも伝えたい本音がある時、言葉のパズルになるという。
    パズルを素通りせず、立ち止まって解きにかかると作者の本音に迫れるということだ。
    本書では、古今東西の詩や小説などに仕掛けられたパズルを解きながら、作者の本音を読む楽しみをともに味わっていく。

    三好達治の「郷愁」という詩。
    フランス語のダジャレのような言葉が並ぶのはなぜか。
    10人兄弟の長男だった達治は6歳で他家に養子に出されたことを突き止め、人に知られたくない母への甘い思慕を、ダジャレの中に込めたのではというのが、著者の見立てだ。フランス語の解釈が美しい。

    面白いのはシェイクスピアの「ハムレット」。
    劇の上演がエリザベス朝のロンドンなのに話の舞台がデンマークとはなぜか。
    なんと、元になる話が12世紀に書かれていたのが明かされる。
    ラテン語による「デンマーク人の事績」という話で、驚くほど酷似した王宮の復讐劇だ。ちなみに当時は復讐劇が大人気だったそうで。

    不足しているのは、導入であらわれる亡霊となった父王の存在。
    いきなり亡霊が父の暗殺死を告げるという悲劇の幕開けのために、創作したのだろうという。確かに類をみない話の入り方だ。
    レアチーズもオフェリアも、別名だが元になる話にも登場している。

    主人公ハムレットは元とはかなり違うタイプであるらしい。
    知的で機知に富み武芸に秀でていたが、激しい憂鬱症で狂気じみている。
    これも面白い結末で、ごく傍にモデルとなる人物がいたらしいのだ。
    天才シェイクスピアは、意外にも手近できっちり取材していたのね。

    漱石の「こころ」の解釈と、ヴァージニア・ウルフの「オーランド」の日付の謎。
    カフカの「変身」のラストやジョイスの「ユリシーズ」も非常に興味深い。
    蛇の道は蛇で、私が真似ようとしても出来ることではない。
    外国の詩にいたっては、翻訳ということもありあまりに謎めいている。

    それでもタイトルや冒頭のエピグラフ、ひとつの言葉の違和感などを躊躇なくとらえて宝探しのように掘り当てていく愉しさを味わった。
    時をはるかに越えて理解者があらわれたことに、作家たちも満足しているに違いない。
    内心ではいまだ、作品の意図ははじめに書いてほしいと願っているが(笑)。
    大人の本棚シリーズ3冊目は、いぶし銀のような魅力ある一冊となった。

    • 夜型さん
      こんばんは。
      装幀もタイトルも味わい深いシリーズですね。
      長田弘さんの「本についての詩集」と吉田健一さんの「友と書物と」も、かなり味わい...
      こんばんは。
      装幀もタイトルも味わい深いシリーズですね。
      長田弘さんの「本についての詩集」と吉田健一さんの「友と書物と」も、かなり味わい深げです。
      版元の紹介文もノスタルジックで美しくて…。
      2021/03/20
    • nejidonさん
      夜型さん♪
      おはようございます。
      大人の本棚シリーズはラインナップが美しいですね。
      書店には並びそうもないタイトルばかりで、そこがまた...
      夜型さん♪
      おはようございます。
      大人の本棚シリーズはラインナップが美しいですね。
      書店には並びそうもないタイトルばかりで、そこがまた良いのです。
      湯川さんの本もこちらで読めば良かったかなぁ。。
      長田さんも吉田健一さんも読んでみたいですね。
      みすず書房をはじめて知ったのは神谷美恵子さんの「生きがいについて」でした。
      以来20年、私を支えてくれています。
      2021/03/20
  • 大人の本棚

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