対米従属の構造

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  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622089650

作品紹介・あらすじ

「国民から見れば明治期以来、天皇制も日米安保も、遠い存在という意味では、近代150年を一貫していることになる。」安保・憲法問題の第一人者による書き下ろし。日米同盟と言いながらそこに見え隠れする対米従属構造の諸相を、指揮権密約から安保・沖縄返還交渉での核密約、自民党の憲法改正案、安保を支える国体思想まで、政治・軍事だけでなく国民の深層や戦前との連続性のなかで論証する。

感想・レビュー・書評

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  • 従属という結論に向けて、サポーティングエビデンスで議論したというよりも、何でもかんでも従属に繋げて牽強付会の議論をしている名著ならぬ、迷著。

    最初の方の指揮権密約や再軍備の議論は新しい発見もあって面白かったので星2としました。

    後半の乱暴な議論ぶりは枚挙に暇なく、数例挙げると以下のとおり。右翼も左翼もそうだと思いますが、特定のレンズで見ると、何でもかんでもそのように見えるという好例です。

    ◯1980年の総合安全保障研究グループ報告書の、「自衛隊は三軍を総合的に指揮・統制するシステムを持っていない」自衛隊の総合指揮の弱さを指摘したものを、米軍指揮下にあることへの不満としている。149頁
    →単に三自衛隊がバラバラで統合運用が弱いということでは。

    ◯平成は新自由主義と安保法制で経済力が低下 188頁
    → ここまで来ると理解不能

    ◯ミサイル防衛は専守防衛に反する 200頁
    → 最も専守防衛的任務ではないか。

    ◯新ガイドラインの日米司令部間の要員交換や、陸上総隊に日米共同部を設置したことは、対米従属の証 201頁、208頁
    → 訓練・災害から有事まで日米連携の必要が高まったからではないでしょうか。

    ◯外務省北米局に日米安全保障条約課や日米地位協定室があるが、他の地域局にはない従属の例である 223頁
    → 単に仕事があるから課が置かれているだけではないか。

    ◯戦前の統帥権と今の指揮権は同じ。天皇から大統領に変わっただけ。アメリカンコントロール 299-300頁
    → とても興味深い指摘だが、日米はそもそも指揮関係に無いのではないか。

    ◯NSCは閣議より上位 325頁
    → 閣議より上位の閣僚会議がある筈は無く、閣議こそが内閣の意思決定機関。(内閣法)

  • 今年78歳になられる、この道の第一人者の手になる本書は、あとがきにある通り、実証研究を超えて、現状に対する危機感を反映し、たっぷりと思いの詰まった「私の作品」となっている。

    アメリカの側からは、日米安保や日本国憲法、憲法改正論議をどのように見ているかという視点に立つことで明らかになるものは多い。

    当初、米国政府は、戦力不保持を定めた憲法を持つ日本に、戦力保持を前提にした日米安保条約を作らせたのであるから、いつ日本が憲法を改正するかに強い関心を寄せていた。
    そもそも最初に憲法改正を提唱したのも、マッカーサーだった。

    立憲主義の米国人から見れば、日本が冷戦政策に基づく軍事力による安保条約を選択したのであるから、安保条約の上位にある憲法をまず改正するに違いないと考えていたのも、無理もない。
    ところが、非軍事の憲法を変えることなく、再軍備ができると考える日本政府の憲法観を知って、米国は大いに驚く。
    日本の方も、憲法改正に前向きだったが、世論の賛成が得られそうにないので、まず安保改正を第一に、憲法改正は第二という方針を立てていたのだ。
    なんとなんと、非軍事の憲法と、軍事を前提とする安保条約が、日本では矛盾なく両立しうるとは思ってもみなかったはずだ。

    やがて両政府とも、その後の条約の改正やガイドライン合意でも、憲法を変えることなく、度外視ししたままでも、安保政策の構築は可能と判断するに至る。
    最初は、国民の間に反対が根強かった日米安保も、世論の風向きは変わり、現実を生きるための必要な手段と評価されるようになった。
    そして、憲法9条は国の理想として看板に掲げて残しておくもの、こんな両立し得ない考えが定着していったのだ。
    多くの日本人にとって、憲法9条に対する支持は、日本国民の面目を保ち、実態としては対米従属下にある現状を見えにくくするためにむしろ好都合だった。

    実は、アメリカにとっても、日本が憲法改正をしないことは、この上なく好都合だとやがて理解する。
    もともと独立国家の必須の条件であるはずの開戦規定がない憲法を日本が持ち続けることは、日本は軍備増強しても開戦規定がないから戦争はできないと、アジア太平洋諸国に説明できるし、日米安保条約は、日本の軍事力が暴発しないように米国が蓋をしているのだと、自らがこの地域でプレゼンスを維持する方便にも利用できる。
    日米安保条約がビンの蓋であり、日本が再び米国の敵にならないよう、米軍の指揮下に置くことは日本に対する要求の根幹にあった。

    著者が繰り返し、対米従属とは対米軍従属である、と指摘するように、米国政府が日本に求める安全保障上の要求の第一は、在日米軍基地の絶対的確保であり、自由使用である。
    そして米軍による自衛隊の指揮権を確保すること、自由に核を持ち込めること、日本をコントロールして、アジア太平洋地域のヘゲモニーを維持することにある。
    結論として、対米従属の構図とは、同時に憲法の安保への従属でもあったのだ。

  • 東2法経図・6F開架:319.1A/Ko83t//K

  • 「国体」と「密約」によって生まれた近代日本の対米従属の構造を切り取る優れた著書。

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著者プロフィール

1943年東京生まれ、早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。獨協大学名誉教授。和光学園理事長。専攻 憲政史。著書『新憲法の誕生』(中央公論社 1989、吉野作造賞受賞、中公文庫 1995、英語版The Birth of Japan’s Postwar Constitution, Westview Press, 1997)、『「平和国家」日本の再検討』(岩波書店 2002、岩波現代文庫 2013)、『憲法9条はなぜ制定されたか』(岩波ブックレット 2006)、『日本国憲法の誕生』(岩波現代文庫 2009、韓国語版 2010)、『安全保障とは何か――国家から人間へ』(岩波書店 2013)、『平和憲法の深層』(ちくま新書 2015)、『日本国憲法の誕生 増補改訂版』(岩波現代文庫 2017)、編著書『GHQ民政局資料「占領改革」 第1巻 憲法・司法改革』丸善 2001)、豊下楢彦氏との共著に『集団的自衛権と安全保障』(岩波新書 2014)、『沖縄 憲法なき戦後』(みすず書房 2018)などがある。

「2020年 『対米従属の構造』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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