鉄腕アトムと晋平君: ロボット研究の進化と自閉症児の発達

著者 :
  • ミネルヴァ書房
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623029778

作品紹介・あらすじ

行動をプログラム化すること、そのプログラムにもとづいて単純から複雑へといたる訓練・自閉症児にそのような訓練は有効だったのでしょうか。自閉症児が「人間らしく」育つとはどういうことか「人間らしい」ロボットとは何か、を求めていくとその交点に「人間」とは何かという問いが浮かび上がる。人間が生きていくことを支えるこれからの障害児教育を考える確かな一歩-。

感想・レビュー・書評

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  • ロボット開発がすべてのことをプログラムすることで人間と同様のものをつろうとしたことを断念した。すべての環境は複雑多岐であり、それをすべてプログラムすることは不可能である。一見、無駄のように見える失敗や試行錯誤を繰り返すことで「複雑で曖昧な日常」を生きていくことができると考えるようになった。そのことを障害者教育にも応用できると考えたのが筆者だ。今、障害者教育でパラダイムとなっているスモールステップの教育の考え方をシフトさせる時期ではないかと提案する。

  • 新たな職場になり,忙しかったので久しぶりのレビュー。

    子育てをきっかけとした勉強の一環で,同僚に借りて読んだものです。うちの子は自閉症ではないのですが,ロボット研究と絡めているということで,僕にもわかりやすいかと思って読みました。

    自閉症の概念うんぬんを知るには別の本が必要だと思いますが,障害児教育のあり方が,今の常識はそれが絶対視され,そのやり方がロボットや人工知能研究で行き詰まったことと同じ事をやっているのではないかという問題提起がなされています。表現は違いますが,(障害児)教育は粗野である方がいいのではないでしょうか。ロボット研究では「ロボットの人間化」を目指し,新たなパラダイムに進んでいる一方,教育では「人間のロボット化」に向かっているのではないか,そんな警鐘を表していると深読みしました。(本当はもっと論の柔らかい内容ですが)

    障害か個性かという認識の問題もありますが,その捉え方で対応を変わってきます。これは親だけでなく先生,広くは社会がどういう認識を持つのが,良い意味での人間らしさに通じるのか。研究者だけの問題ではなく,社会の問題だと思います。

    *****

    晋平ママ  私の頭の中で,晋平の発達とか,いわゆる知的な発達とかそういうのがなくなるっていうことはもちろんないですし,ことばも「出てくれたらうれしいな」っていう気持ちは正直いってあります。でも,三歳くらいで自閉症とわかって,八年間ですかねえ,つきあってきて,普通のお母さんが困るとか「あ~,どうしよう」とか「こりゃあ大変だ,将来のこと考えたら」って思うところを,何か「おもしろい」って言ったら変だけど,そういう風に……見ようと努力したわけじゃないけど,自然と晋平のおかげで見られるようになってきたし,そう見られることで,本当は「そんなことでいいの」って思わなきゃいけないことを,私が逆に見られることで晋平は何かすごく気が楽になってると思うんですよ。(pp.177-178)

    それに,ルールとかそういうものって一定じゃないでしょう。社会の価値観だって必ず変わっていくものだから,大人が今,親の価値観でこの子を育てようと思って育てたことが,果たして晋平が一生過ごしていくうちで本当に絶対的なものなのかどうか,作業所での価値観とか作業所の中での優等生とか良い子とか扱いやすい子というのが,本当にずっと晋平が年取っていくまでで本当にそんなに大事なのか……それよりもさっき言ったように,自分がどんな場にいても,生活する,生きていく楽しみを見つけられることの方がもっともっと大事なんじゃないかなって思うんです。(p.197)

  • 人間を限りなく目指すロボット工学に目をつけて、自閉症研究と結びつけた、心理学者。すごい視点だと思う。

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著者プロフィール

2020年6月現在 東北大学大学院教育学研究科 教授

「2020年 『AI時代の教師・授業・生きる力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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