鶴屋南北: 笑いを武器に秩序を転換する道化師 (日本史リブレット人 64)

著者 :
  • 山川出版社
3.20
  • (0)
  • (1)
  • (4)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 27
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (86ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784634548640

作品紹介・あらすじ

南北は我らの同時代人!近世は区別がきびしかった。士農工商、被差別民などの身分秩序、男と女、親と子などの人倫、死と生、善と悪などの信仰や倫理、思考の枠組みまで堅固な区別があった。南北は、「笑い」を武器にこの区別を突破した。微笑、苦笑、哄笑、軽蔑の笑い、黒い笑い…さまざまな笑いを駆使して境界を超え、固定した秩序を転換してみせた道化師南北。現代人にとっても、笑いは有力な武器。南北こそは我らの同時代人。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 年取ってから花開いた人というので鶴屋南北は個人的に好きなのではあるが、彼の書いた怪談のあらすじ読んでもちっとも笑えんぞ。ひたすらグロテスクで悲惨な話のような……。

  • 鶴屋南北についてということで、彼の作風・生涯についてその作品を紹介しながら書かれています。鶴屋南北といえば『東海道四谷怪談』がその代名詞と言ってもいいでしょうが、彼自身は怪談だけではなく「笑い」(滑稽だけでなく嘲笑や微笑、ブラックユーモアも含めて)を武器に狂言作家の頂点に立った人物として描かれています。『東海道四谷怪談』の解説に始まり、彼の出自と「出世」の関係、修業時代、道化師としての南北、南北と怪談、南北と生世話、そして自分の死までも滑稽としたその心意気、そして同時代の南北という形で結ばれています。アイドルプロデューサーとしての南北も面白かったですし、「笑い」を武器とした南北についても詳しく説明されていますが、私個人の興味としては(おそらく多くの人と同じく)怪談作家としての南北で、「(南北の作品に出てくる)小平次や幸崎の亡霊は、これまでの近世演劇史の亡霊に新しい性格を加えていた。まず可憐さを振りすてて怨霊化した。(恐ろしさは薄く、哀れさがまさっていた)女形や若衆形の美の範囲内にとどまっていた幽霊を立役や老女形の醜にまで拡大して、復習の怨念の恐ろしさを強調した。次に私の情念によってのみ行動し、正義の徳目や天下国家の政治の問題に関心を払うことがなかった亡霊を公の場に引きだし、権力の帰趨に貢献させた。このような南北劇の亡霊たちの終着点に『東海道四谷怪談』のお岩や小仏小平がいる。」(64頁)という指摘は新鮮でした。
    ただもう少し掘り下げて欲しかったのが、江戸後期という時代の中での彼の作風、もしくは文学史的特徴についての記述です。本の内容は南北個人に終始しており、「時代が一つの価値観や理念に統一されているときには、世間から容れられなかった作家」(81頁)「南北を時代を反映した作家としてとらえ、濡れ場と殺し場の独自性がたたえられる」(83頁)とするならば、レザノフやゴローウニンなどヨーロッパ人が来航し、林子平が『海国兵談』を著し、また間宮林蔵が樺太探検を行う、異国船打払令が発布されるなど対外関係の危機感が募る一方で松平定信が寛政の改革を行うなど時代の閉塞感ただよう時代を生きた鶴屋南北についてもう少し語って欲しかったと思います(南北の出世作『天竺徳兵衛韓噺』がヒットしたのも当時の外国への関心の高まりと無縁ではないような気がします)。とりもなおさず、山川出版社の「日本史リブレット・人シリーズ」は1,2時間で読める本なので、日本史が不得手な分時間を見つけて読んでいこうと思います。願わくば世界史リブレットでも同シリーズを刊行して欲しいものです。

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

1934年、新潟県新潟市に生まれる。新潟大学卒業、東京大学人文科学研究科博士課程修了、文学博士。学習院女子短期大学教授、学習院大学文学部教授を経て、現在学習院大学名誉教授。前国際浮世絵学会理事長。元日本近世文学会代表。大韓民国伝統文化研究院顧問。研究領域は近世文芸、浮世絵、比較民俗学、比較芸能史。

●主な著書に、『愛と死の伝承』、『近松世話物集(1)(2)』、『歌舞伎開花』(いずれも角川書店)、『元禄歌舞伎の研究』、『近世芸能史論』、『近松世話浄瑠璃の研究』、『親鸞の発見した日本─仏教の究極』(いずれも笠間書院)、 『忠臣蔵の世界』(大和書房)、『江戸その芸能と文学』、『近世の文学と信仰』、『心中─その詩と真実』、『出版事始─江戸の本』(いずれも毎日新聞社)、『日本王権神話と中国南方神話』(角川書店)、『大地女性太陽三語で解く日本人論』(勉誠出版)、『鶴屋南北』(山川出版社)、『日本の幽霊』(岩波新書)、『日本の祭りと芸能』、『北斎の謎を解く』(いずれも吉川弘文館)、『霊魂の文化誌』、『江戸文学の方法』(いずれも勉誠出版)、『安倍晴明伝説』(ちくま新書)、『日本人と遠近法』(ちくま新書)などがある。

「2017年 『能・狂言の誕生』 で使われていた紹介文から引用しています。」

諏訪春雄の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×