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- / ISBN・EAN: 9784634700383
感想・レビュー・書評
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構成がヨーロッパ中心に偏りすぎ、非ヨーロッパの叙述が貧弱でバランスが悪い。ヨーロッパ中心の世界史像の見直しがいわれて久しいし、そういう先進的研究に通じた執筆者も並んでいるのに、何故なんだろう。かつて、東大論述対策の定番という扱いだったが、使われなくなったのも納得する。
非ヨーロッパにも、執筆者の得意分野なのかイスラム近世のオスマン朝など詳しいところもあるが、全体的にみれば端折りすぎている。
ヨーロッパでも、詳しく示唆に富む部分もあるものの、通常必須と思われる項目が欠落していることもある。
たとえば、フランス革命でヴァレンヌ逃亡事件は立憲王政派から共和派へ主導権が移り、オーストリアが革命の妨害者として浮かび上がるターニングポイントとして、ほとんどの教科書に出てくる。ところが、新世界史では落とされているので、オーストリア宣戦し、国王をギロチンにかける経過が理解しにくいのではないか。
第2インターナショナルについては、当初、帝国主義戦争に反対していたことは載っているが、戦争が始まると「祖国擁護」を口実に戦争容認に転じるグループがでてきて崩壊したことは載っていない。これでは、受験にも不十分ではないか。
良い部分では、ドイツ帝国では議会が弱体だと指摘したことで、ドイツ社会民主党で議会による漸進的改革に転じた主流派が修正主義といわれる所以が示唆されている。ただ、ドイツ社会民主党が戦争容認に転じ、決裂したドイツ共産党のローザ・ルクセンブルクらが革命蜂起で殺害された経過は出てこない。
現代史で、ベトナム戦争は、ニクソン訪中が単純な和平模索ではないことが示唆されて良かった。訪中後、中ソのベトナム支援が弱まったところで米軍が戦線を拡大させた流れも書かれている。
しかし、カンボジアでポル・ポト派を書かずに、ベトナムの介入を書いているのは経過を理解できないのではないか。
最大の疑問は、湾岸戦争の評価だ。
湾岸戦争を国連の成功例としているが、その後イラク戦争に続く経過からしてそう言えるだろうか。
まず、イラクのクウェート侵攻に対して、国連安保理は経済制裁を決めたが、この経済制裁の実施がすすまないうちに、米国が多国籍軍を組織して武力制裁に突入した。多国籍軍は国連管理下とは言い難い。劣化ウラン弾やクラスター爆弾など問題になる兵器が使用され、環境破壊の面からも課題を残した。米国が唯一の軍事大国として見切り発車で行動を繰り返すターニングポイントになった。日本にとっても、これを機に派兵を求められるようになった。
その後、イラク空爆は繰り返され、9.11同時多発テロ、アフガニスタン戦争、イラク戦争、テロ国家IS台頭まで続くわけで、果たして成功だったのか。
2020年初頭に米国がイラン司令官を殺害した際、国連事務総長が「新たな湾岸戦争」の懸念を表明した。湾岸戦争を完全にネガティブなものと捉えている。
歴史的評価を間違っていないか。詳細をみるコメント0件をすべて表示