和音の正体 ~和音の成り立ち、仕組み、進化の歴史~

著者 :
  • ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784636968910

作品紹介・あらすじ

音楽はとかくメロディが注目されがちだが、実は「和音」が果たす役割も大きい。和音によって「緊張」と「弛緩」が表現され、音楽の“表情”が一変する。和音がつくことで音の厚みが増し、音楽の響きが変わるのだ。和音とは音を重ねることだが、「1+1+1=3」にはならず、その魅力と快感は無限である。
本書ではその成り立ちや進化の歴史、国ごとの和音の特徴や違い、作曲家の和音の好みがわかる。

感想・レビュー・書評

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  •  クラシック音楽のレビューを時々書いていて、最近、プーランクやドビュッシーやバルトークやヤナーチェクなど、独特の響きを作る作曲家の曲を「面白い」と思って聴けるようになってきた。
    彼らの音楽の響きの秘密は「和音」にあるのだろう」と思いながら、その知識がないから、「独特の色彩」などと同じような表現で逃げている自分をもどかしく感じ、和音の勉強がしたいと思っているときに、この本をブックオフで見つけた。
     まずは、和音の基礎知識から。和音とは隣合わない高さの音が三つ以上同時に響くことをいう。基本中の基本の和音、ハ長調の「ドミソ」の和音でいうと、「ド」は和音の土台となる音、「ソ」は「ド」と溶け合う音、そして真ん中の「ミ」はその和音を正確づける音となる。
    例えば、「ドミソ」の和音は明るいが、真ん中の「ミ」を「♭ミ」にするだけで、途端に暗い和音に変わる。つまり、和音を明るくするか暗くするかの決定権は真ん中の音にあるという。
    フランスの作曲家たちが好んで使用した和音は、この決定権を持つ真ん中の音をあえて外したものだった。だから、「明るい」とも「暗い」とも言えない独特の響きがある。
    私が和音に興味を持ったきっかけの疑問は早くもこの本の序章の部分で解決してしまった。

     この本は音楽の専門家でなくても「和音」という入り口から音楽の理論が目から鱗が落ちるように理解出来ていく素晴らしい本だった。

     以下に、一部メモ。
    「ナポリの和音」
    イタリアのナポリ楽派が生み出した独自の和音。短調のIIの和音の根音を半音下げた和音のこと。それまでの調にはない音が出てくることで、一瞬ずれるような、少し別の方向へ行きそうな変化や意外な感じを与える。ベートーヴェンのピアノ、ソナタ「月光」やショパン「バラード」第一番にも効果的に使われている。

    「ドリアの和音」
    中世ヨーロッパの教会音楽で用いられてきた「教会旋法」に由来し、現在の長調、短調とは少し異なる音階。よく知られているのは、レの音から始まるドリア旋法。それは現在のニ短調の自然短音階と似ているが、第六音が♭シではなく、ナチュラルのままのシである。そのため
    ニ短調自然音階からは不安や悲観や荘厳、崇高さが感じられるのに対し、ドリア旋法からは民族的な響きや異国情緒が感じられ、懐かしいようなもの悲しいような雰囲気になる。イギリス民謡「グリーンスリーブス」でも一瞬、ドリア旋法が使われている。ドリア和音の効果は短調の中に一瞬だけ長調の和音が入りこみ、「寂しく暗い」雰囲気の中に光が差し込んだように感じられる。

    「悪魔の音程」
    ファとシの音の間隔、すなわち増4度音程を同時に鳴らした時の響きのこと。4つの音の間隔が、全て全音で、宙ぶらりんで安定しない、不思議な響きがする。バロック以前は忌み嫌われていたが、古典派以降はこの音響効果が逆に愛好され、積極的に使われるようになった。
    サン=サーンス「死の舞踏」やホルスト「惑星」の中の「火星」にも使われている。
    日本の「緊急地震速報」の音はこの「悪魔の音程」をアルペッジョで鳴らしたもの。

    基本の三和音
    ・長三和音→明るさ、喜び、楽しさ
    ・短三和音→暗さ、悲しさ、寂しさ
    ・増三和音→焦燥、不安、膨張
    ・減三和音→落胆、恐れ、侘しさ

    四和音の使用例
    ・属七の和音→欲求、従属、不安定
    ・減七の和音→苦悩、不安、恐怖

    和音の始まりはピタゴラスの発見から
     ピンと張った一本の糸を弾いた時に響く音に対し、弦の長さが2分の1になる位置で弾くと、元の音の1オクターブ上の音が出る。最初に弾いた音をドとすると弦の長さが三分の1になる位置で弦を弾くとソの音が出る。このように弦の長さを分割していくと音階が出来た。ピタゴラスが発見した「ピタゴラス音階」ではオクターブや完全5度などの単純な整数比でできる音程は綺麗に響くが、転調するとその美しい響きが崩れるというデメリットがあるため、現在では1オクターブ間の間隔が12の半音に等分された「平均律」が使用されている。

     クラシック好きの人もポップス好きの人も音楽を聴いていて痒いところに手が届くような本。音楽って決して感覚だけで作られているものではなく、数学的な理論に裏付けられていると分かる。だけど、この本の帯に書かれているように「1+1=2」とはならない和音の素晴らしさ。
    私は利用していないが、QRコードがついているので、実際の音を聴きながら読むことも出来る。




    • goya626さん
      Macomi55さん
      TOTO、ボストン、イーグルス、J.D.サウザー、ケニー・ロギンス、リンダ・ロンシュタット、カーラ・ボノフ、カーペン...
      Macomi55さん
      TOTO、ボストン、イーグルス、J.D.サウザー、ケニー・ロギンス、リンダ・ロンシュタット、カーラ・ボノフ、カーペンターズ、ジャニス・イアン、デビー・ギブソン、ハート、U2、エリック・カルメンなんてとこですかねえ。他にも、あると思いますが。みんな、懐かしい思いがする響きです。
      2023/11/06
    • Macomi55さん
      goya626さん
      色々聴かれるのですね。
      ハードロックもありますね。
      goyaさんとはクラシックのお話ばかりさせていただいていたので、新鮮...
      goya626さん
      色々聴かれるのですね。
      ハードロックもありますね。
      goyaさんとはクラシックのお話ばかりさせていただいていたので、新鮮な感じです。
      歌上手い方ばかりですね。
      とくにリンダ・ロンシュタットさんの声はキュートですね。J.Dサウザーさんの声も素敵です。
      ジャニス・イアンさんはユーミンの「いちご白書」を英語で歌っているですが、すごく雰囲気がいいです。
      2023/11/07
    • goya626さん
      Macomi55さん
      J.Dサウザーは5,6年前に新アルバムを出したのですが、渋いおじさんの声になっていて、いやはやいいですよ。私のライン...
      Macomi55さん
      J.Dサウザーは5,6年前に新アルバムを出したのですが、渋いおじさんの声になっていて、いやはやいいですよ。私のラインナップは、なんかウエストコーストに偏っている感じがあるかな。最新のダンスミュージックもたまに聴きますが、あのうるささが悪くないんですよ。うーん、チャーリーXCXとか。女房にはうるさがられますが。
      2023/11/08
  • 『和音の正体 ~和音の成り立ち、仕組み、進化の歴史~』|感想・レビュー - 読書メーター
    https://bookmeter.com/books/19125004

    和音の正体 ~和音の成り立ち、仕組み、進化の歴史~ 舟橋 三十子 | 合唱楽譜のパナムジカ
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    舟橋三十子『和音の正体 和音の成り立ち、仕組み、進化の歴史』YAMAHA|YAMAYA
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    Ma co Miさんの本棚から

  • 和音について全くの音楽初心者でもその概要がつかめるよう、技術的、理論的見地はもちろん、作曲家ごとによる使用和音の特徴や、時代、地域、国や言語による影響等まで幅広い見地からその「正体」を明らかにしようとしている。

    加えて一部譜例については、QRコードから音源も聞けるので、より具体的なイメージつかめるようになっている。ただ、個人的には全ての譜例に音源を付けてほしかった。

    たった12音を使った組み合わせにもかかわらず、非常に奥深く、幅広い和音を知るとっかかりとしてとても参考になった。

  • QRコードより和音を聴けるのが良かった。今回は和音にとって重要な2音と、和音の組み合わせ方と呼び方を知った。ぜひ読み返したい。

  • 正体というよりは招待かな、やりたい事は解るが…

  • 序章 和音ってなんだろう?

    第1章 和音の基礎知識
    そもそも和音とは何か?
    和音の力は「1+1+1=3」ではない
    和音の役割は「立体感」「サポート」「陰影」
    メロディの表情を決めるのが和音の仕事
    「ドミソ」で見る和音の仕組み
    名前は一生変わらない
    和音を知るための基礎知識:音程
    和音を知るための基礎知識:度数
    和音を知るための基礎知識:♯♭
    和音には省略してもいい音がある?
    楽器ごとの和音の表現
    第2章 和音の文法と性格
    三和音の性格を理解する
    音楽の文法を理解する
    和音はまわりの音が大事
    「和音」と「和声」の違い
    「基本文型」のカデンツを知る
    和音の性格は3つだけ
    お辞儀の和音とカデンツ
    代理和音の使い方を知る
    第3章 時代と共に変化する和音
    西洋音楽の作曲家の分類
    バロック時代の和音
    数字付き低音(通奏低音)の登場
    数字付き低音の「数字」の読み解き方
    現在とは異なる作曲家の在り方
    古典派の和音
    通奏低音から機能和声へ
    ロマン派の和音
    近代・現代の和音
    和音や調性の崩壊から無調へ
    ロマン派からの脱却と12音技法の登場
    音の塊「トーン・クラスター」の登場
    第4章 作曲家による和音の好き嫌い
    作曲家たちが好んだ音楽表現
    スクリャービンの「神秘和音」
    巨大な手の持ち主ラフマニノフの和音
    定型を避けた「ナポリの和音」
    安心感を与える「ドリアの和音」
    希望をもたせる「ピカルディの3度」
    短調から長調で暗から明へ
    人々を魅了する「悪魔の和音」
    和音の革命児「トリスタン和音」
    永遠のライバル、ヴェルディ vs. ワーグナー
    第5章 国ごとの和音の進化
    邦楽には和音がない?
    邦楽の五音音階とヨナ抜き音階
    邦楽は西洋音楽とはまったく異なるもの
    世界の音楽は国民性と関連する?
    オペラ文化で理解するイタリアの和音
    ドイツ三大Bとともに歩んだドイツの和音
    絵画や文学で読み解くフランスの和音
    地味だけど気品のあるイギリスの和音
    ジャズとともに発展したアメリカの和音
    重く厚みのあるロシアの和音
    言語が音楽に与える影響
    国別の和音の特徴
    第6章 さまざまな和音
    基本の三和音:長、短、増、減
    三和音の使用例
    進行によって変わる三和音
    4つの音を重ねた四和音:長、短、属、減
    四和音の使用例
    5つの音を重ねた五和音
    付加6の和音
    付加4・6の和音
    増六の和音
    第7章 音楽に広がりを与える和音
    調和の協和音と不調和の不協和音
    アメリカ生まれのコード・ネーム
    流れるような響きを生み出す分散和音
    “ちょっとだけ”借りて豊かにする借用和音
    物静かな準固有和音
    第8章 音楽の基礎知識
    西洋音楽の出発点
    音の三要素
    主役にも脇役にもなるメロディ
    音階とは何か
    音律とは何か
    第9章 和音のはじまりと進化の歴史
    和音のはじまり:ピタゴラスの発見
    倍音と和音の関係
    クラシックの原点は単旋律の音楽
    和音の進化(1):オルガヌムからポリフォニーへ
    典型的なポリフォニー音楽のカノン
    和音の進化(2):ポリフォニーからホモフォニーへ
    言葉の語源を知る
    作曲のお勉強
    和音の広がり:無意識の中の効果
    最近チェックした商品

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1404844

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著者プロフィール

東京藝術大学卒、同大学院修了。日本大学芸術学部講師、名古屋芸術大学大学院教授を経て、現在、浜松学院大学短期大学部特任講師。作曲を三善晃氏に師事。
著書に『フォルマシオン・ミュジカル 名曲で学ぶ音楽の基礎 Ⅰ、Ⅱ』『名曲で学ぶ音大入試の楽典』(音楽之友社)、『ミュージック・トレーニング』全2巻(全音楽譜出版社)、『形式から理解するクラシック』『クラシックのからくり』(ヤマハミュージックメディア)等がある。

「2020年 『フォルマシオン・ミュジカル ジュニアのための 名曲で学ぶ音楽の基礎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

舟橋三十子の作品

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