国際租税訴訟の最前線

  • 有斐閣
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  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784641130784

感想・レビュー・書評

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  • 積読・読みかけ退治キャンペーンでこんなものまで片付けてしまった。

    2009年頃の講演などをまとめた本なのだが、それからのあいだに国際税務の世界ではずいぶん動きがあった。まず欧米企業の行き過ぎたタックス・プランニングへの批判や、ネット企業の所得捕捉についての問題意識が沸き起こった。それがOECDによりBEPSになり、さらにはピラー1・2になり、大きな枠組みが変わるのではないかとの予感がある。

    で、そのような時代にこの本を読む意義があるかというと、ないでもないんじゃないかと思う。この本は税務の本ではなく、租税訴訟すなわち法務の世界の本だからだ。編著者も租税法学者に西村あさひの弁護士である。寄稿者には国税OB(西村あさひの顧問)もいるが、全体の構成からすればあくまで添えもの的あつかいと言ってよい。

    もともとワタクシが本書を手にとったきっかけは、税務の仕事をしていた際に専門誌上でこの本の編著者の一人である太田洋が移転価格の裁判例を分析した論文を読み、「弁護士はこんな考え方をするのか!」と、目からウロコの思いをしたことだ。企業がふだん決算をしたり申告をしたりする税務の現場は基本的に会計の世界での出来事になる。企業の担当者も、国税の調査官も、みんな会計のアタマで物事を考える。しかし、稀なことであるが、国税による更正処分が不服であるとして裁判所(お白州、と言うらしいですな)へ行くとなると、そこでは裁判官が法律のアタマでもって事件をさばくことになる。

    ふた昔くらい前までは、お上を相手取って租税訴訟で勝つという事例は極めてまれだったのだが、徐々に納税者勝訴の事例が増えつつある。これは弁護士にしてみれば「きちんと法律のアタマで武装すれば、会計のアタマでなされた課税処分を裁判でひっくり返せますよ」というセールストークにつながる。逆に言えば、そういう弁護士やそれを利用する納税者が増えてきたから、納税者の勝率が上がっているとも考えられる。

    BEPSの動きがあろうが、ピラー1・2が現実のものとなろうが、私法と租税法の関係やら、租税条約を国際法上の文脈で解釈するなどの基本はあまり変わらないものと思え、そのあたりに今なお本書を読む価値がある、ような気がしています。。。

    仕事関連の本などふだん滅多に読みはしないのだが、法学者の先生が「租税法なんてのは法律の素人(=立法府のことね)が作ったのに過ぎないのに対して、私法(民法とか。もちろん定めるのは国会だが)にはローマ法以来の伝統がある」云々などと気炎をあげるのを読むと、知的好奇心が満たされるものはある。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2023年 『課税理論の研究  租税法論集Ⅲ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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