教養としてのグローバル経済

著者 :
  • 有斐閣
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784641165823

作品紹介・あらすじ

国境を越えて行き来するヒト・モノ・カネ・情報の実態と,それらを動かすメカニズムをやさしく,丁寧に,そして深く解説。「単純な競争」で格差拡大に突き進むのか,「多様な競争」で豊かさを分かち合うのか,岐路に立つグローバル経済の道しるべとなる一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 商業高校向けの科目「グローバル経済」の学習指導要領にそって著された書籍(検定を受けた教材としての教科書ではない)。

    グローバル化とはヒト、モノ、カネ、情報が地球規模で行き来すること(「国際化」は国境を意識しつつ国と国との間でやり取りが活発になることであり、地球規模で一体の経済圏を意識するグローバル化とは規模が異なる)であり、本書は経済学的な理論的背景からグローバル経済の実態と課題を解説する。

    財・サービス市場における競争のあり方には、単純な価格競争と様々な要素で強みを競い合うがゆえに勝者が並立しうる多様な競争があり、単純な競争は独占を生み社会全体の利益を毀損する。労働市場でも底辺に向かう低賃金での被雇用確保を競う単純な競争と、各労働者の特性を活かした多様な競争がある。金融市場としては銀行借入のほか株式や債券発行といった証券市場がある。
    これら市場が適切に機能するために、政府が役割を果たしており、財・サービス市場では独占禁止法と公正取引委員会が消費者の利益を守り、労働市場においては労働組合法と労働委員会が労働者の権利を守り、金融市場では金融商品取引法と証券取引等監視委員会が投資家の利益を守る。
    生産された付加価値の合計であるGDP(金額ベースの名目と数量ベースの概念である実質がある)により経済成長が測られ、好況期のインフレと不況期のデフレの波をできるだけ平準化するために財政政策と金融政策が動員される。

    以上を基本知識として、グローバル化の実態をみる。
    移民の増加で労働市場の供給曲線が右側移行することで国内労働者の失業率上昇と賃金下落が生じる理論的メカニズムが考えられるが、実態としては顕著な影響は出ておらず多様な競争が起こっているものと考えられる。不況の不安や不満が移民政策と短絡的に結びつけられた結果であると著者は言う。併せてパスポート(出国者に対して政府が身分や国籍を証明)とビザ(受入国の入国許可。パスポートに裏書きされる。多くの国で労働ビザが労働者移動の制限や管理のために運用されている。)の解説もあるのは「教科書」として面白い。
    日本では深刻な労働問題を抱える技能実習制度から、高度な外国人材を確保するための特定技能資格での適正な環境整備へと制度が拡充された。
    モノの移動として、貿易収支、サービス収支があり、国内産業保護のためのしくみとして関税があるが、GATTからWTOという他国間協定や特定国間でのFTAやEPAにおいて自由貿易が図られてきた。自由貿易のメリットに関する理論的説として明比較優位説がある。
    カネの移動に関して、外国為替相場が重要な指標であり、為替相場の理論的背景として購買力平価と金利平価がある。アジア通貨危機やリーマンショックといったグローバルな金融危機も生じている。
    デジタル情報もグローバルに展開され、ICTにより可能となったグローバルサプライチェーン越境ECのほか、3Dプリンターが普及すればモノの移動がなくなり情報の移動こそが経済活動であるという事態になることも想定される。また、新たな取引管理の手段として、ブロックチェーンがある。情報のグローバル化は、新たな価値を生み出す一方で、勝者総取の特性からGAFAのような巨大プラットフォーマーによる独占と、情報格差、個人情報保護や知的財産権保護の観点における問題といったマイナスの面もある。

    こうした中で企業活動はグローバル化しており、日本でも自動車産業をはじめ海外進出が推進されている。国内生産からの輸出という形態から、貿易摩擦や円高の影響を受けて、海外への生産移転が進み、国内産業空洞化や地域の衰退といった問題も生じている。
    企業の社会的責任も重要性が高まってきており、特にSDGsやESG投資の流れを無視すると企業にとって大きな損失となりかねない。
    国と国との役割分担は、原料生産→製品製造という垂直分業から水平分業へと移行してきており、特にメーカーを頂点とする上下関係からICTを活用して取引先を拡大したことによる部品メーカーの汎用品生産へとトレンドが変わってきている。

    最後に、学習指導要領にはない項目だが、これまでの実例解釈として、コロナ禍とグローバル化の考えが整理されている。
    当初はコロナ禍でグローバル化は止まり株価は下落し続けると予想されたが、カネと情報の移動は加速し、株価は持ち直し、ICT企業は業績が大きく向上した。一方で、労働基盤の弱い外国人労働者が真っ先に解雇される一方で、外国人労働者に頼っていた産業での人不足が生じるといった制度的矛盾が顕在化し、外国人労働者の労働環境の適正化という課題に真剣に取り組む契機とすることが求められている。

    経済のグローバル化は、私的利益の追求による行き過ぎをもたらしたとの批判もあるが、個人や企業が社会的責任と私的利益を両立させ、不平等や環境問題解消への貢献を自らの利益として享受するようなマインドセットの転換をしつつ、今後も引き続きグローバルな経済活動が進化していく姿こそが望ましいと感じた。

  • 高校生向け?と吃驚させられた!~1経済のグローバル化2市場と経済3グローバル化の動向・課題-1人材のグローバル化-1国境を越えて移動する人々-2経済のグローバル化と労働市場-3人材のグローバル化を支えるさまざまな制度-4人材のグローバル化とビジネス-2財とサービスのグローバル化-1拡大していく国際貿易-2自由貿易を守るための国際ア的な協定-3-4比較優位と国際分業-5財とサービスのグローバル化とビジネス-3金融と資本のグローバル化-1国境を越えて移動する資本-2-3外国為替相場の決まり方-4グローバル化の中の金融危機-5金融と資本のグローバル化とビジネス-4情報のグローバル化-1国境を越える膨大なデジタル情報-2-3-情報のグローバル化とビジネス4-情報のグローバル化の光と影4企業活動のグローバル化-1企業の海外進出-1なぜ、企業は海外進出するのか?-2日本企業の海外進出の現状-3日本の自動車メーカーの海外進出-2グローバル化に伴う企業の釈迦的責任-1企業の法的責任と社会的責任-2企業の市民社会への責任-3企業の国際社会への責任-3世界との関わり-1-2-3企業と世界との関わり(地域・市民・自然環境、外国人・女性・シニア、先端と伝統)5コロナ禍と経済のグローバル化-1コロナ禍と金融・情報のグローバル化(株式市場の風景)-2コロナ禍と財・サービスのグローバル化-3コロナ禍と労働力のグローバル化(外国人労働者の大量解雇と人手不足)-4コロナ禍値の対応における公と私(企業の社会的責任)~大学生(名大生)向けの教科書を書いていて、有斐閣の編集者から「高校生向けも!」と懇願され、高校学習指導要領の商業のグローバル経済を調べるとは60歳になる先生、真面目だねぇ。総てをコロナ禍を理由にするのは危険だというのは分かるし、コロナで問題が浮き彫りになってきたってのもよく解る。例えば、技能実習生という名の外国人労働者が犠牲になって良い筈がないって部分、ステークホルダーには外国人労働者も含めるべきだよね、確かに。そこまで、深掘りできる高校生もいるだろうけど、歪な人だよ、それは

  • 高校生向けの教科書として書かれたものだそうだけど、大人が読んでも非常に得るものが多かった。
    今年一番読んでよかったと思った本。

    • ミーコさん
      購入しようと思います。
      ご紹介、ありがとうございます!
      購入しようと思います。
      ご紹介、ありがとうございます!
      2021/11/14
  • 【琉球大学附属図書館OPACリンク】
    https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC07410370

  • ▼福島大学附属図書館の貸出状況
    https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/TB90359127

    (推薦者:経済経営学類 沼田 大輔 先生)

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    http://carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00614540

    国境を越えて行き来するヒト・モノ・カネ・情報の実態と,それらを動かすメカニズムをやさしく,丁寧に,そして深く解説。「単純な競争」で格差拡大に突き進むのか,「多様な競争」で豊かさを分かち合うのか,岐路に立つグローバル経済の道しるべとなる一冊。
    (出版社HPより)

  • 基山図書館

  • 多くは理解が追いついていない部分も多かった。ただ、市場の種類やそれに伴う法律や経済成長の考え方、景気動向の歴史や企業の責任、そしてITとグローバル化とのつながりなど、大まかに経済に関する用語やその意味を学べたと思う。コロナがグローバル経済にもたらした影響も書かれていた。1番印象に残ったのは、グローバル化(global)と国際化(international)の違い。こういった経済動向や考え方について人に説明したり、自分の意見を述べられるくらい深く学びたいから、経済に関する本を中心に読む機会も作ってみたい。

  • 東2法経図・6F開架:333.6A/Sa25k//K
    東2法経図・6F指定:333.6A/Sa25k/J.Ishikawa

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著者プロフィール

1960年愛知県生まれ。1983年京都大学経済学部卒業。1992年マサチューセッツ工科大学経済学部博士課程修了(Ph.D.)。住友信託銀行調査部、ブリティッシュコロンビア大学経済学部助教授、京都大学経済学部助教授、大阪大学経済学研究科助教授、一橋大学経済学研究科教授などを経て、2019年より名古屋大学大学院経済学研究科教授。
日本経済学会・石川賞(2007年)、全国銀行学術研究振興財団賞(2010年)、紫綬褒章(2014年春)。

著書
『新しいマクロ経済学』(有斐閣、1996年、新版2006年)
『金融技術の考え方・使い方』(有斐閣、2000年、日経・経済図書文化賞)
『資産価値とマクロ経済』(日本経済新聞出版社、2007年、毎日新聞社エコノミスト賞)
『原発危機の経済学』(日本評論社、2011年、石橋湛山賞)
『震災復興の政治経済学』(日本評論社、2015年)
『危機の領域』(勁草書房、2018年)
Strong Money Demand in Financing War and Peace(Springer, 2021年)他

「2023年 『財政規律とマクロ経済』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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