ナイス・レイシズム なぜリベラルなあなたが差別するのか?

制作 : 出口 真紀子 
  • 明石書店
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750354224

作品紹介・あらすじ

黒人や先住民、アジア人などの非白人を日常的に差別するのは、敵意をむき出しにする極右の白人至上主義者ではない。肌の色は気にしないという「意識の高い」リベラルだ――善意に潜む無意識の差別を暴き、私たちの内に宿るレイシズムと真に向き合う方法を探る。

感想・レビュー・書評

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  • アメリカの反レイシズム社会学者が、「意識が高い」白人たちによる非白人への無意識の人種差別を暴く著作。題名の「ナイス」はもちろんレイシズムを称揚しているわけではなく、「善良な人々」(ナイス)によるレイシズムがいかなるものかを本書が扱っていることを表している。本文は300ページ弱、全12章。

    著者の反レイシズムの著作として、本作は二冊目とのこと。著者は貧しい家庭を出自とする白人女性である。対象の読者層は、本書で著者によって徹底的な批判にさらされる当の白人たちであって、何度となく「私たち白人は」という形で著者を含む欧米の白人たちのあり方に自己批判をくわえる。差別の対象として主に取り上げられるのは黒人やアメリカ先住民である。

    社会学者であり、かつ、反レイシズム活動を実践する著者による本書は、理論による抽象的な議論よりも、実体験からのフィードバックをもとにした具体的なアプローチに拠っている。本書のテーマは非常に明確で、一見して人種差別問題に積極的に取り組んでいるかに見える、高い人権感覚を自認するような白人たちによる偽りの人権意識を引き剥がすことにある。つまり、彼らは人種間の平等を願っているようでいて、彼らの言動をつぶさに分析していけば、そのような理解が誤りであることを白日のもとにさらすことが本書の目的となっている。

    著者の目を通すと、レイシズムの問題の根深さはあからさまな差別意識を誇示するレイシストよりも、自身がレイシズムに否定的だとしながらも、その実態は十分に差別的であるリベラルな人々によって裏付けられる。差別の対象となる人種の人々も、あからさまな差別主義者とは普段から付き合う機会がそもそもないのに対し、理解があるはずのリベラル派の白人たちとは交流の機会が多いうえに、言動の端々に差別意識を突き付けられるうえに当事者たちはそのことに気付かないために、嫌悪感を抱き、疲弊していくのだという。

    そのようなリベラルな白人たちが、私たちは平等だと言い募る根拠となる「個人主義」「普遍主義」「実力主義」といったイデオロギーは、平等を実現するためよりも、現在の格差を固定、強化するための源になっている。彼らが欲しているのは人種間の差別がない真の平等な社会ではなく、彼らの人権意識に瑕疵がないことを証明するための「免罪符」を入手することが秘められた目的であることが、著者の分析を通して透けて見えてくる。法律上の差別撤廃から長い月日が流れたいまになっても、このように人種差別意識が深く根を張っている根本には、次のように説明される差別の本質が底流しているのだろう。

    「レイシズムは初めから、少数エリートへの富の集中を覆い隠す階級的プロジェクトとして利用されてきた。この目的を果たすためには、白人の一般大衆に非白人に対する反感を抱かせるのが効果的だ」

    レイシズムに対しては意識的に反対し、それを行動に移さない限りは差別意識は決してなくならないことを、憤りも隠さずにアグレッシブに訴えているのが本書だった。意識されざる人種差別を扱った著作としては、同じく今年読んだ、アメリカの黒人女性による小説『もうやってらんない』が全く同じテーマだった。ただ、同じように無意識の差別に気付かない無神経な白人たちを扱う『もうやってらんない』がコミカルさも交えた微温的な要素もあったのに対し、本書は著者の強硬な姿勢が際立っている。著者が説く反レイシズムも、「反レイシズム道」とでも呼びたくなるようなストイックさと、自己犠牲的とすら呼びたくなる悲痛な雰囲気すら漂う。「ポリティカル・コレクトネス」という言葉に拒否反応を抱く人びとには徹底的に嫌悪されるであろう、読者の反応が別れる本だろう。同じ白人である読者に対して、何度となく謙虚さの重要性を呼びかける著者だが、個人的には著者自身の言葉の端々や過去のエピソードに傲慢さを感じてしまう部分はあった。

  • 著者はこれでもか、というほど白人に染み付いた差別の根を深く赤裸々に暴いていく。途中、まるで自虐だと感じて一旦は読むのをやめたが、少しずつ少しずつ読み進めるうちに、ようやく著者の言いたいことが分かってきた。そうして初めて、レイシズムの恐ろしさにようやく気付いた。出口氏の解説がまた、私たちの隠れた部分を適切に指摘されていて、はっと気付かされます。

  • 【書誌情報】
    『ナイス・レイシズム なぜリベラルなあなたが差別するのか?』
    原題:Nice Racism: How Progressive White People Perpetuate Racial Harm
    著者:Robin DiAngelo
    訳:甘糟智子  翻訳。
    解説:出口真紀子  文化心理学。
    ISBN:9784750354224
    判型・ページ数:4-6・344ページ
    出版日:2022/08/20
    定価:2,500円+税
    ジャンル:社会 > 社会問題・人権問題

     黒人や先住民、アジア人などの非白人を日常的に差別するのは、敵意をむき出しにする極右の白人至上主義者ではない。肌の色は気にしないという「意識の高い」リベラルだ——善意に潜む無意識の差別を暴き、私たちの内に宿るレイシズムと真に向き合う方法を探る。

     本文より一部抜粋
    「私たち白人の進歩主義者こそが、微笑みを浮かべながら、把握されにくく、否定しやすい方法で日々黒人を貶めているのだ。そして白人の進歩主義者は、自分のことを「レイシストではない」と思っている分、あらゆる指摘に対して非常に自己防衛的になる。しかも自分たちは問題の外側にいると思っているので、さらなる行動の必要性を見いださない。この自己満足は、拡大する白人ナショナリズム運動に対抗する組織化や行動を確実に妨げている。」 (第I章 善良なレイシストとは?)
    [https://www.akashi.co.jp/book/b611079.html]


    【目次】
     はじめに

    Ⅰ 善良なレイシストとは?
    Ⅱ 白人を一般化して語ることはなぜ良しとしていいのか?
    Ⅲ 聖歌隊はいない
    Ⅳ 優しさの問題
    Ⅴ 進歩的な白人の言動
    Ⅵ 宗教は信じない、けれどスピリチュアル
    Ⅶ 「恥」について語ろう
    Ⅷ 「私にもトラウマがあります」という白人
    Ⅸ 私たちは実はそんなに善良ではない
    Ⅹ 「私もマイノリティです」について――人種差別以外の抑圧を経験する白人でもいかにレイシストたり得るか
    Ⅺ 進歩的な白人こそが、より有能なレイシストとなる落とし穴
    Ⅻ 優しさは勇気ではない――反レイシズムの価値観をいかに言行一致させるか

     スタディガイド
     解説[出口真紀子]

     註

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著者プロフィール

批判的言説分析と白人性研究の分野で活躍する研究者、教育者であり作家。ウェストフィールド州立大学、ワシントン大学などで教鞭をとる。25年以上にわたり、人種問題と社会正義に関するコンサルティングとトレーニングを実施。ベストセラーとなったWhite Fragility(邦題『ホワイト・フラジリティ 私たちはなぜレイシズムに向き合えないのか?』)をはじめとする関連分野の著書がある。その活動はイブラム・X・ケンディ、マイケル・エリック・ダイソンなどアメリカの著名な反レイシズム活動家、研究者、作家、ジャーナリストらから高い評価を受けている。

「2022年 『ナイス・レイシズム なぜリベラルなあなたが差別するのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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