完全改訂版 バイリンガル教育の方法 (アルク選書)

著者 :
  • アルク
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757426986

感想・レビュー・書評

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  • 「英語を学ばせると母語が遅れる」または「乳幼児期に英語に触れさせておけば耳が良くなる」など、英語教育の意見は二分することが多々あります。どれを信じるかは宗教みたいなもので、家庭の方針次第であり、不正解はないと私は思っています。

    ただし、子どもが犠牲になってしまう〝やってはいけない事〟について、本書からいくつかわかりました。
    ①子どものストレスになりそうなこと。
     (当たり前ですが)
    ②子どもには非効率な翻訳型学習
     (例:この文を英文にしなさい、和訳しなさいなど)
    ③ 〝ルー語(例:トゥゲザーしようぜ!)〟のような、
    英語でも日本語でも誤っている言葉を使うこと。

    私には5歳と3歳の子がいます。幼児期は母語はしっかり学ばせたいと思っていますが、駐在帯同で英語圏に暮らすことになった為、言葉を覚えていく上でストレスにならないか心配になり本書を手に取りました。
    脳の発達は年齢と関係していると述べられており、適切なタイミングで母語と二か国語目の比重を調整する点や親としての関わり方について、とても興味深い内容でした。
    私のような悩みを持つ親には、こういうデータもあるのだという一つの参考として、役立つ本かと思います。

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    【本書より一部要約】
    ・母語の基礎が完成する2〜4歳頃までに、母語の発達が阻まれると言語発達全体が遅れる。英語を教える場合、だんだん毎日少しずつ新しい環境に慣れされる。一日中、いきなり英語環境になると、情緒不安定になり反応を示さない「ぼうふら現象」が起こる。

    ・母語とは親のことばである。親が親子の交流に使うことばであり、親子の絆の土台になるもの。英語が苦手な親による、不自然なコミュニケーションは言葉の発達を妨げる。

    ・日本語の絵本を読むのに加えて、英語の絵本の読み聞かせをするのは良い。日常生活以外の語彙を学べる。読む際は、日本語へ翻訳せずに一緒に絵を見て楽しみ、英語で読む方が良い。
    (※本書で「非ネイティブの親が読むと子どもの発音が悪くなるからやってはいけない」とも書いてあった。親子で楽しむのを優先するか、どれくらいの親の英語レベルが悪影響になるか詳細が分からなかった。)
    ---------------------------------

  • バイリンガル教育研究者による本で、カナダのイマージョン教育を骨子にバイリンガル教育の実践が語られている。
    ※カナダはマイノリティの仏語圏:ケベック州を抱える多言語国家で、国の分裂を防ぐという社会的要請のもと、英仏のバイリンガル教育の大規模な社会実験がなされた。多くの国で外国語教育が失敗していた中、初めての成功事例と国際的に目され、各国に方法論が輸出されている。また、多文化主義国家であるため、移民の継承語の維持にも熱心で取り組みが参照できる。

    内容は以下の通りで、「バイリンガル教育」が要求される想定場面の射程範囲が広い。

    <目次>
    バイリンガルとは?
    子どもの母語の発達と年齢
    バイリンガル教育の理論
    家庭で育てるバイリンガル
    イマージョン方式のバイリンガル教育
    年少者英語教育とバイリンガル教育
    マイノリティ言語児童生徒とバイリンガル教育
    海外児童生徒とバイリンガル教育
    海外日系児童生徒とバイリンガル教育
    バイリンガルと文化の習得
    バイリンガル教育への疑問
    バイリンガル教育の日本お言語教育への貢献

    1998年初版、増補・改訂をしながら増刷を続けているロングセラーの本のようだ。網羅性が高いため参考になる本だと思うけど、言葉の使い方が専門的なのか、若干読みにくさもある。

    *****

    子どもへの英語教育熱の高さに触れ、驚きと違和感を感じ、本書を手に取ってみた。

    私の驚きと違和感の正体は、以下二つで
    ①「え、バイリンガルに育てるの大変じゃない?!」という単純な驚き
    ②自分のバイリンガルコンプレックスの発露

    本書を読んで向き合った結果、
    ①バイリンガルを育てるのは確かに大変。20年かけてバイリンガルにするものと親は長期的構えを見せるのが重要、と本書に記載があり、「そうだよね…」と納得した。
    ②「バイリンガルとレッテルを他者から貼られるのが苦手なだけで、言語を学ぶこと自体は好きだったな」という自己理解を深めることができた。バイリンガルの実像と他者からの期待値がずれがちな理由について、本書の冒頭で早くも明記されている。

    (引用)3p とかくバイリンガルというと、理想的な2言語話者を想像しがちであるが、実際には不完全なバイリンガルがたくさんいるし、むしろ不完全なのがノーマルだとも言えるのである。

  • アメリカへ引っ越すことになり、子供達の英語と日本語の教育について参考になることがあれば、と思い読んでみた本。とても参考になりました。

    この本は、かなり昔に書かれたものがベースで、2016年に完全改訂版として出版されたもの。参考文献は古いものも多いが、様々な学術的研究をもとに書かれているので、とても説得力がありました。

    特にバイリンガルの発達と年齢、母語がマイノリティ言語の場合の脆弱性、バイリンガルを育てる上での母語の重要性については読んでよかったです。

    以下この本を読んで学んだこと、思ったこと。

    バイリンガルは、3つに分類できる。バランスバイリンガル、ドミナントバイリンガル、ダブルリミテッド。

    バイリンガル教育は、年齢的には9歳頃が臨界期で、9歳以前に始めるのが良い。7〜10歳でアメリカに入国した場合、2年半から3年で、日常会話、授業ともにこなせるようになるが、個人差が大きい。8歳以前の来米者の場合は、日本語より英語への移行が起こりやすいが、9歳以降の場合は日本語が保持される。

    アメリカに引っ越す際、いかに英語を習得するかにフォーカスしがちであるが、バイリンガルを目指すのであれば、英語習得以上に、どうやって日本語を育てるかが大事になってくる。在米期間が2年程度であれば、英語にフォーカスしてもいいと思うが、それ以上、特に4〜5年かそれ以上滞在するのであれば、渡米と同時に家庭での学習は日本語をメインに、英語は宿題をこなす程度にしたほうがよさそう。英語習得を急ぐよりも、母語を育てることはとても大切で、ここをしくじると、ドミナント・バイリンガル、もしくはダブル・リミテッド・バイリンガルになってしまう可能性がある。

    おそらく、アメリカで数年現地校に通えば、誰でもバランス・バイリンガルになれると思っている人が多いと思われる。しかし、自分の経験からも、2年ではバイリンガルとはほど遠いし、それ以上滞在すれば、日本語がおろそかになっていたと思うので、バランス・バイリンガルを目指すには、家庭での日本語教育がとても重要になってくる。

    我が家の場合、息子10歳、娘8歳で渡米することになる。息子は英検3級レベル、娘は英検は受けていないが4級が受かるかどうかというレベル。息子の方は日本語もかなりしっかり学習し、9歳以前に英語教育を始めたという点では、バイリンガルを目指すには理想的かもしれない。一方娘の方はまだ日本語が危ういので、3年以上の滞在となると日本語はかなり注意してみてやらないといけなさそう。

    文化については、娘の方が性格的にも年齢的にも早いうちにアメリカ文化に馴染んで好むようになる可能性がある。息子の方は日本人としてのアイデンティティは確立している分、現地で馴染むまでに時間がかかると思われる。

    子供達をバイリンガル、バイカルチュラルに育てるというのは、今まで思っていた以上に親のケアが大事になりそうだ。

  • 難易度高い

  • 5年間夫が海外赴任することになったが、ちょうど子どもが産まれる時期のため参考になればと思い読んだ。

    様々な研究結果を参考に書かれているため、裏付けのある内容で読み応えがあった。

    カナダのフランス語教育内容の部分は専門的で1回では把握しきれない部分もあったが、知らなかったことばかりで外国語教育のあり方についてとても参考になった。

    読んでみて、5年間という限られた時間で現地の言葉を習得させることは難しいと感じたが、せっかくの機会なので母語をしっかり育てつつ2歳〜3歳頃からは現地の言葉にも触れて、帰国後も学習できるような環境が準備できればと思った。

    心に留めようと思った内容
    ・母語をしっかりと育てることが、バイリンガルになるためには大切。
    ・絵本の読み聞かせは効果的
    ・言語形成期は5歳〜15歳頃
    ・2歳〜4歳頃のゆりかご期は母語を育てつつ外国語に触れることも可能
    ・4歳〜6歳頃の遊び友達時代は2つの言語をバランス良く接触すると良い
    ・8歳頃までに話してた言葉も、その後触れる機会がないと消失していく
    ・小学校5年生頃からは読解力もつき抽象的な考えができるようになるため、海外旅行やキャンプなど体験すると効果的
    ・母語の基礎が出来上がる前に無理に第二言語を習得させると、どちらも不十分なダブルリミテッドに陥りやすい
    ・カナダのある地域では英語話者にフランス語での教科教育プログラムを取り入れたイマージョン方式を取り入れている
    ・バイリンガル話者の方が、モノリンガル話者よりも物事を柔軟に、また偏見等もなく考えることが出来る傾向にある

  • 帰国子女から純粋な外国語教育、母語がマイノリティ言語の子と、様々な立場があり得るバイリンガル教育について、幅広くかつ体系的にまとめられている。
    興味深かった点を幾つかメモすると、
    ・第二言語の習得には母語の基盤が重要
    ・言語の発達には幼少期の読み聞かせが効果的
    ・カナダでは英語母語の子をフランス語漬けにするイマージョン教育が取り入れられている
    ・外国語教育には言語を切り分けて混ぜないことが重要
    ・別の言語に触れ始めた年齢によって言語発達の仕方が微妙に異なる
    事例が米国カナダや英語に偏ってるようにも思えたが、読者のニーズや著者のバックグラウンドを考えれば仕方ないのかもしれない。

  • 「バイリンガル」と一言でいっても、その到達度合いに応じてバイリンガルにも種類があること、バイリンガルであることでの認知面でのメリットなどをよく理解することができた。また、母語の重要性については強調しすぎることはない、とでもいうように繰り返し主張されていた。年長者のほうが習得効率がよいというのも意外だった。幼少期の方が抵抗が少なく、身に着けやすい一方で、読解力の裏付けのない語学力のもろさもあることが分かった。今後の英語教育を考えるうえで大いに視野を広げてくれた本。

  • 子どもの母語発達が伸びてきたので、方針を見直すため再読。


    備忘録
    ・バイリンガル化成功の最大の決め手は、子の母語・母文化がどのくらい育つか
    ・ 社会言語学者 柴田武氏が提唱した概念において、言語形成期は5-15歳、0-5歳で言語の骨組みを身につけ、言語形成期で肉付けして固める
    ・2-4歳は耳作り程度、4-6歳は毎日15-30分程度の母語を中心とした読み聞かせに重点
    ・5言語話者の方言学者 グロータース神父、2つ目の言語を始めるのに適当な時期は4歳から、成功のピークは8-9歳。

  • 中島和子(1998)『バイリンガル教育の方法』アルク
    第1章 バイリンガルとは
    第2章 子どもの母語の発達と年齢
    第3章 バイリンガル教育の理論
    第4章 家庭で育てるバイリンガル
    第5章 イマージョン方式のバイリンガル教育
    第6章 アメリカのバイリンガル教育
    第7章 海外子女とバイリンガル教育
    第8章 日系人子女とバイリンガル教育
    第9章 バイリンガルと文化の習得
    第10章 バイリンガル教育への疑問
    第11章 バイリンガル教育の外国語教育への貢献

    日本が「モノリンガル神話」から脱却すれば、この本に書かれているバイリンガルの意味がわかると思う。

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著者プロフィール

トロント大学東アジア研究科名誉教授。カナダ日本語教育振興会名誉会長、母語・継承語・バイリンガル教育(MHB)学会名誉会長、バイリンガル・マルチリンガル子どもネット(BMCN)会長。
著書に『言葉と教育』(海外子女教育振興財団、1998年)、『バイリンガル教育の方法――12歳までに親と教師ができること』(完全改訂版、アルク、2010年)、『マルチリンガル教育への招待――言語資源としての外国人・日本人年少者』(編著、ひつじ書房、2010年)、『新装版 カナダの継承語教育――多文化・多言語主義をめざして』(共訳著、明石書店、2020年)ほか。

「2021年 『言語マイノリティを支える教育【新装版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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