白雷の騎士 (1) (ガンガンコミックスONLINE)

著者 :
  • スクウェア・エニックス
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  • Amazon.co.jp ・マンガ
  • / ISBN・EAN: 9784757567535

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  • 叫ぶ! 走る! 戦う! カオスな戦場!!!

    傑物とされた「賢王カーリガ」が魔法の力を持って周辺国に覇を唱えようとした大国「ティメリア」。
    それに抗した「英雄ジャック」はかの国に屈した諸国を糾合し正義を謳う国「トゥーナ」を立ち上げる。

    そういったわけで物語は剣と魔法のファンタジー世界、魔物もいるし精霊もいます。
    そんな世界のどこかにて。「賢王」と「英雄」の両雄が相討ちに終わり、幾年月が流れてからが本編の幕開けです。先の大戦の功労者たちが国家の重鎮として座し、それに憧れた新鋭たちも育ってきました。

    すなわちひとつの世代を重ねた「戦後」もしくは「戦間期」のことです。
    「次」を見据えかつて「英雄ジャック」が振るった「聖剣」を巡って二大国が争奪戦をはじめようとする中、主人公の女盗賊「ゼティ」が「トゥーナ」に巻き込まれます。読者ともども振り回されます(?)

    以上は紹介文にあることの後追いですが、この前提はまず押さえておいた方が良いかと。
    上記二国が本格衝突に至らないまでも非正規の遭遇戦、工作戦を繰り広げる過程を追うことになるので。

    第三国が舞台なことが多く勢力が込み合うため、流れの把握に悩むことあまたとなればなおさらです。
    ただし、全体としてはトゥーナとティメリアの二陣営のどちらについているか、第三勢力が登場したとしても立場としてはどっち寄りなのかを押さえるだけで当初の状況は整理できると思います。
    対立と無縁のところで好き勝手に立ち回る連中の動きが楽しかったりするのも確かですけどね。

    なお作者の「山内泰延」先生は代表作の『男子高校生の日常』で名を挙げた通りにギャグに定評のある方ですが、本作に関しては骨太なファンタジーが根幹を占めるので新境地として楽しんでいただければ。
    開幕がコメディチックなノリなので当初は「ジャンル:ギャグ」だった!? などと面食らってしまうかもしれませんが基本はシリアスです。コミカルな面も多いですが全体的に重厚な雰囲気が漂っています。

    たとえば、かちあう敵が初見殺しじみたギミックを繰り出してくることが多く、その上、相手が戦槌や大剣などを持ち出してくる場合は一撃がかなり重いです。
    よって当たったら即死と思わせる絵の説得力は高く、間の抜けたコマが挟まろうが緊迫感は保たれます。

    勢いある叫び芸や一ページ後一コマ後がどうなっているかわからない落差はもちろんギャグとしても機能しますが、戦場における混沌としたムードを盛り上げる一助になっているといえるのかもしれません。
    バトルとコメディが一体になって相互切り分けが難しい作風は「ガンガン」の系列にふさわしいのかも。

    また、この漫画は話数ではなく章の区切りで進んでいくため仕切り直しといわず、連続した状況下で戦闘が続行します。場違いに思えるシュールなコマが緊迫の合間に挟まりますが、慣れれば癖になります。
    山内先生の既存作におなじみの方はギャグに慣れているのでどうしても思い出し笑いをしてしまうかもしれませんが、それらを飲み込んで読み進めていけば唯一無二の感覚が味わえるかもしれません。

    ただ一応、難点を挙げておくと特に個人の紹介もないままに、結構な数のネームドキャラたちがいきなり乱戦を繰り広げる場面が多めです。
    かつ多くの面々のフルプレートメイルが堂に入っているので誰が誰やら判別がつかないかもしれません。

    この人誰だっけ、初登場? 再登場? 
    という感覚に襲われると思いますが、あまり気にせずライブ感に身を委ねて多方面で同時展開される戦いの行方を追っていけばなんとなくでも楽しめると思います。

    ちなみに全身甲冑こそ多めですが、作品全体としての男女比は体感イーブンくらいでしょうか。
    女性陣もかわいいはかわいいんですが、戦場で火花を散らすだけあって色気はなくて土埃や生活感の漂う感じ、加えて山内先生の作風なのか、全体としてはイカれたというか、かっ飛んでる女が多めです。

    そもそも主人公のゼティからしてふてぶてしくて場慣れした女ですからね。
    前歴は現時点では不明として、ヤバい手で金を稼いだと思いきや戦いの場数を踏んだ風にも見て取れる謎の女ですが、彼女についての話はまた追々。

    ちなみに本作は章立ての構成になっており、ここ一巻から二巻にかけては第一章「虹の下の甲獣」と銘打って展開されます。その上でバトル尽くしなのに、しっかりセリフを回して話を進めてくれます。
    章ごとに特徴的な舞台に河岸を変え敵味方の配置も一新されるため、その都度で頭をリセットして新章に臨んでもいいかもしれません。そういった構成も本作を楽しむうえでのポイントのひとつでしょう。

    たとえば、この「第一章」。目当ての聖剣は巨大な怪獣の背に刺さっており、怒らせでもしようものなら大暴走というステージギミックになっています。加えて言うなら周辺は渓谷地帯、高低差は激しいです。
    怪獣はまとわりつく人間の思惑なんて知ったことではないので、彼をどう利用するかも見どころですね。

    さて。
    四巻まで(四章の途中までを収録)出ている現段階で思うことを語らせていただくと、ヒロイックというにはどこか錆びついていて疲れた感覚が味わえる、地に足ついた本格派ファンタジー・バトル漫画です。
    そこに追いかけっこを軸にした、ギャグ・コメディ風の味付けがふんだんになされているのが異色です。

    結果的に、ジャンル混合、無法で自由な漫画といったところが正直な感想でしょうか。
    体制の中で足掻くものや、自由なもの同士の相克も描かれていて全体としては真面目なんですけどね。

    ちなみに単行本ではファンタジーならではの固有名詞、人名などについて軽く補足を行う「用語解説」が一巻につき十前後ほど載っています。キャラクターの解説を介して各国の裏事情がみえてきたり、魔法の武具にまつわるおとぎ話が皮肉に満ちたものだったりと、テキスト面でのセンスを感じるものばかり。
    セリフ回しの面白さからもわかっていたことですが、オマケとわかっていても楽しめると思います。

    ああそれと最後に。見てくれは重厚なのに、シュールな笑いが時折挟まるのはなぜかでしょう? きっと答えは本作が軽薄な余裕を保った強者の立ち姿に似ているからなのかもしれません、と。
    一見噛み合わないふたつの要素がその実は、双方を引き立てるのだと。そうも考えた私でした。

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