捨て猫のプリンアラモード 下町洋食バー高野

著者 :
  • 角川春樹事務所
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本棚登録 : 267
感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758413558

作品紹介・あらすじ

オリンピックまで2年、昭和37年の東京。
17歳の郷子は、2年前に集団就職で上京したものの、劣悪な労働環境から工場を逃亡した。
そのまま上野駅でうろうろしていたところを、浅草にある「洋食バー高野」のおかみ・とし子に拾われ、そこで働くことに。
工場での食事のトラウマからずっと食べられなかったカレー、初体験! 揚げたて熱々カツサンド、心に沁みわたる感動のプリン……。
美味しく温もりあふれる絶品料理と人びとに出会い、郷子は新しい“家族”と“居場所”を見つけていく。
平日の昼間から多くの人が集う、下町の社交場「洋食バー高野」を舞台に描く、少女の上京物語

感想・レビュー・書評

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  • 東京オリンピックを二年後に迎える浅草を舞台に、集団就職先の工場から逃げてきた郷子が『高野バー』という洋食屋で働かせてもらいながら少しずつ自分の生き方を見つけていく話。

    数年前に放送された朝ドラで主人公が集団就職する設定があったが、あの会社は実に良心的だったのだなと分かる。
    実際のところは郷子の就職先のように少年少女たちを人間扱いもせずに奴隷のように扱っていた職場も多かったのだろう。
    それはこの時代に限らず現代に至るまで続いているわけで、勿論良心的な会社もあるが、そうでない会社も一定数あるということだ。

    郷子が一人あたりの国民所得が戦前の水準を上回ったことを称える新聞記事を読んで反発を感じるシーンがある。
    『国民所得とざっくりとした言葉でまとめているが、その数字を支えているのは大人だけではない。勉学を諦めるしかなかった子供たちだって、多くの部分を貢献しているはずだ。それなのに未成年の子供たちが就労後どうなったのか、どう貢献したのかについては触れられることはない。高度成長の一端を支えているのは、若い時間を奪われた彼らのはずなのに』

    集団就職先で働いていたころから常に小さなバールを持ち歩き、毎日磨きながら時に大声を上げてしまう郷子。
    まだ十七歳の郷子がそれまでの短い人生の中で、戦争を経験し、終戦後は親に売られる形で集団就職をし、そこで様々な少女たちの不幸や彼女たちを食い物にする大人たちの姿を見てきて、ついには逃げ出した。彼女のその目にはこの世の中のどれほど厭な部分ばかりが映っていたことだろう。

    しかし郷子にそこまで悲壮感はない。元々押しが強く鬱陶しいほどで、積極的に関わりたいタイプの子ではない。
    『高野バー』のおかみさんにもしつこく付き纏ってついに働かせてもらうし、コック見習いの勝に煩わしがられても何かと口を出すし、仕事で失敗して先輩ウエイトレスに冷静に指摘されて一時的に落ち込むことはあってもすぐに気を持ち直す。逃げ出した就職先の工場長らがいつ追いかけてくるかとビクビクしながらも、いざとなれば逃げ回り立ち回るだけの行動力もある。
    また両親に対する怒りと悲しみはあっても叔父は優しく見守ってくれているし、集団就職先は酷かったが『高野バー』では仕事には厳しくも良い職場だ。また盲目だが明るく前向きな小巻という友人も出来た。

    東京オリンピックの頃の東京というと華やかできれいで、戦争の爪痕など一掃されたイメージだがそんなことはない。
    先輩ウエイトレスは戦災孤児で家族の死といまだ向き合えていない。だが彼女のようにきちんと働ける場所がある人は幸せな方で殆どは苦しい境遇にあるのだろう。また勝の兄は徴兵され戦後帰ってきたが人が変わってしまった。郷子の逃亡を助けてくれたロクさんのようなホームレスも溢れている。
    『もやは戦後ではない』という言葉が郷子には違和感を以て響く。

    それでも郷子の、時に強引で時に真っ直ぐで、時に冷静に俯瞰も出来る姿勢で自分なりに居場所を作っていく。
    表題作のプリンアラモードをはじめ、『高野バー』のメニューはどれも丁寧で美味しそうだった。

  • 集団就職で、親から身売り同然に上京してきた郷子。過酷で劣悪な環境に耐えかねて寮を逃げ出し、浅草の洋食バーのママに拾われ、そこで働くことになる。
    オリンピック前の、高度経済成長のきざしが見える日本。その下で、こうやって文字通り血の滲むような思いで働いていた子供がいたんだ、と気付かされる。
    テーマは重いけれど、文章は軽く、郷子もたくましく生きているので暗くはない。
    洋食バーのごはんも美味しそう。まだまだ物語は始まったばかりのような雰囲気なのでシリーズ化するのかな。
    郷子や郷子を取り巻く人たちが幸せになる話になっていく展開になるといいな。

  • キョーちゃん逞し。こういう話しもあっても良いな。朝ドラになって欲しい。

  • 昭和37年、浅草。
    高野バーで働く畠山郷子。まだ17才。
    集団就職で川崎の工場で働いていたけど、理不尽なツラい日々に嫌気がさし、上野まで逃げてきた。
    そして高野バーの店主に助けられたのだ。
    はい、ここで従業員や盲目の少女と交流しながら成長していくという、よくある話でした。
    でも、こういうの好きですよ。

  • 「捨て猫のプリンアラモード」麻宮ゆり子著|日刊ゲンダイDIGITAL
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/280474

    捨て猫のプリンアラモード 下町洋食バー高野|書籍情報|株式会社 角川春樹事務所 - Kadokawa Haruki Corporation
    http://www.kadokawaharuki.co.jp/book/detail/detail.php?no=4898

  •  集団就職先はとんでもないブラック企業、川崎から脱走して来た郷子(キョーちゃん)は今更群馬にも帰れず、上野であわや殺されると死の覚悟をしたところで運命の出会いをする。これだけでなかなか今までに類を見ないストーリーだと思った。
     そんな行動力の化身の如き主人公、キョーちゃんの下町浅草での成長記。いろんなことを知ってしまったキョーちゃんがあっけらかんと社会の闇の部分を話すのに少し悲しさを感じた。小巻ちゃんもあの時代じゃ、相当進んだ人って思われていたろうけれど、今生きてたらとっても生きやすいんだろうなあ。それぞれの人たちにストーリーがあって、でももっといろんな登場人物たちのストーリーが見たかったなあ。続いてるのかなー。

  • 集団就職、戦争孤児、後天性の失明…それぞれの抱える事情にフォーカスすると、きっと重たい重たいお話になってしまうと思うのですが、キョーちゃんのキャラクターで何とも希望に溢れたお話になっていて楽しく読めました。

    小巻ちゃんの、「一つひとつ小さな『できる』を増やすの。でも私は何もかも1人でできるわけじゃないから、お母さん以外の協力者も探すのよ。」と言う言葉が、胸に残りました。
    小巻ちゃんなら本当に萩之助と結婚しちゃいそうで、そんな姿も微笑ましかったです。

  • 表紙とタイトルから、よくありそうな戦後昭和のレトロ洋食バーを舞台にしたライトな読み心地の謎解きエンタメものかな?と勝手に判断して読み始めたら、めちゃくちゃ直球で現代に問題提起してこられて、ライトとか思ってすみませんでしたという気持ち。「大人にとってなんと都合のいい話だろう。大人の欲望を満たすために子供は生きているわけではないのに。」
    それでいて文章にうっすらユーモアがあって軽やかで読みやすいのもすごい。
    復員した長男とそれによって追い出された次男問題により、相手の背景を知ることなくいま見えている面だけで相手を叩くことの浅はかさを描き、戦争孤児の描写で反戦を思い出させ、集団就職に「売られ」逃げ出してから独身の女主人の下で働き学び仕事が面白くなってゆく様は、親ガチャにはずれた家庭に生まれてきた者でも自らの生きやすさを求めて飛び出し掴み取ることができる、精神を自立させ見極めて学べばいいのだと訴えてくる。そして女主人とし子や常連たちの姿から、大人は血縁関係なく、皆でそもそも子どもを守り応援する義務があると思わされる。
    目が見えない少女との関わりから、見た目で判断せず感じとる大切さを匂わせ、東京育ちのお嬢と田舎育ちのタフな女の子という組み合わせにより、足りない機能と経験を補いあい、足りない故にわかり感じられることを生かしあい、無用なわだかまりを避け、存分に楽しむことを描く。
    作者は、大人に強く訴えたいことがある人なのかなあ。。。2020年7月の発売、書き下ろし。時期的にもそうだろうなあ。。。

  • 実際にいたら苦手なタイプだけども
    キョーちゃんキュート。
    もっと読みたかったな。

  • 終戦後の集団就職から逃げ出した主人公を助けた女将さんが働いている、洋食バー(今で言うレストラン)のスタッフと新しい人間関係を築きながらそれぞれの家庭環境や生まれ育った環境などについて知り、仕事をしながらも主人公が成長していく物語。

    集団就職や戦争孤児、終戦の頃の全盲の子どもなどについて色々知ることができた。
    集団就職は、ブラックで過労死ラインを優に超えている工場を15歳以上の女の子たちが働いて、バブル時代を支えていたことを知った。集団就職は決して良いものではなく病院奨学金と同じ仕組みだったことを学んだ。
    太平洋戦争で両親や兄弟知り合いなど自分以外が全てなくなった、戦争孤児が町をさまよっているのは、いかがなものかと思った国は、トラックに戦争孤児を乗せて、山奥に大量に子供を捨てたという話を知って、すごくショックを受けた。
    戦争を起こしたのも終わらせたのも大人や国なのに、戦争の被害を受けた子どもたちを支援しようとはせず排除しようと動いていたことを知り、大人や国は本当に自己中だと思った。

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