なぜシロクマは南極にいないのか: 生命進化と大陸移動説をつなぐ

  • 化学同人
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784759814637

感想・レビュー・書評

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  • 2012 1/21読了。ACADEMIAで購入。
    ちょうどこの本を買う前日に「なんでシロクマは北極に住んじゃったの? あそこ氷だよ? 陸ないんだよ? 間違っちゃってるよね?」という話をしていて、翌日に本屋でタイムリーにも見つけてしまったので「これは買うしかないよね」と衝動買いした本。
    生命の進化とプレートテクトニクス/地学の統一理論たる「生物地理学」の本。
    動植物がなぜ現在の場所に生息するのか、という単純な問いの答えが地球全体の理論につながっていくことを示していく。
    生物は環境ではなく地理的に結びついているので、同じような環境でも移動できなければ近縁種はいない、という話。
    シロクマが南極にいないのはシロクマは北米のクマの近縁種で、南極には移動できないし、もし南極に分布するとしたら間に幾層ものそこに住める近縁種が生まれていって、ホッキョクグマとナンキョクグマは最近縁種にはなりえない、ということでシロクマは南極にいない。
    そのあり得ない飛び地があったときに、奇跡的な確率で移動できたと考えるんではなく、昔は近かったんだと考えたことで大陸移動説へ。
    また、隔離された土地は進化が遅くなるので、ユーラシア大陸があって移動が容易な北半球と違い、大陸移動の結果各々が隔離された南半球、南米やオーストラリア/大陸島の方が古代種が残っていたりした、とか。
    それらが大陸変動等の要因で移動できるようになるといっきに北半球から移動してきた動物にやられていった一方で、非常に近い場所にも移動するのが困難なくらい鬱蒼と樹木が茂っている熱帯雨林はその限りではなかった、とか(そしてそれだけ移動が困難なので隔離が起きまくって種が多様化した、とか)。
    そしてヒトの種の一様性とか。
    あるいは南極の氷河が地球上有数の殺戮者で、始新世以前からの南極大陸の固有種で今に残っているのはコウテイペンギンだけだ、とか。
    シャチは種としては多様性はそれほどでもないのに文化的な(!)要因から交配しないグループがある、とか。

    書かれていて印象深かったことを列挙しただけって感じでもあるが、『銃・病原菌・鉄』を読んだとき以来くらいにわくわくした。超面白い(ちなみに同書も本書中ではかなり重要な研究として頻繁に引用される)。

  • 生物学の本かと思ったが、まさかの地理学!懐かしい!
    その名も「生物地理学」。どっちやねん。昔先生が地理学はどの分野ともくっつけられる学問だって言ってたっけなぁ。

    生物の進化と大陸移動説が密接に関わっていることを、多くの事例を踏まえて解説してくれる。ダーウィンがガラパゴス島に辿りついて本当によかったよね。進化論とかビーグル航海記をちょっと覗いてみたい。

    あとミクロネシアとかニューギニアにも興味を持った。
    学生のときはカヴァとかダンスの映像が怖くてひいてしまったから、もう一度勉強してみよう。


    日常生活には特に役立たないけど、新しい知識が色々増えた。
    ペンギンのすごさ。
    進化の輪っか。
    シャチのお遊び、種分化っぽい感じ。
    生物学ジョーク「あ、アシナガグモがいた」(爆笑)
    ヒトの人種の問題などなど。


    科学の世界にも、政治や社会、宗教なんかが強く影響することをひしひしと感じました。原因、結果、ハイ黒!白!って決着がつくのって、もうさんざん検証されている教科書の科学だけなんだね。
    実験が成功して論理に矛盾がなくても、認められないもんなんだなぁ。人間はややこしい。

  • 生物を地理的な観点から研究する、というお話。
    のっから、インテリジェンス・デザイン(創造論。神様が生物を造ったってやつ)に激しい攻撃を。。。まず大体の日本人には、なんで進化論に反対する「必要」があるのかすら、ピンとこないが、この先生はあちら様の主張に大変お怒りのようだ。
    このあと、「政治的に正しい」問題とか、進化の研究と人種差別の微妙なあれやこれやについても苦言を述べている。現代に生きるのはなかなか大変だ。

    肝心な内容だけど、大陸移動が生物の進化に与えた影響を軸に、分化や進化とはどのようなものなのか、丁寧に解説していて、かなり読み応えがある。
    というか、読み応えの半分以上は訳のせいかもしれないが。。。ちょっとこの訳とは気が合わない。

    パンゲア大陸だった頃、南極に氷はなく、普通に動植物のいる大陸だった。それが、大陸移動によって、南極は凍りつき、氷は容赦なく生物を絶滅させ、不毛の地となった。唯一生き残ったのは、ペンギンだけ。
    ペンギンって、実は超凄いじゃん!すっかりペンギンと南極についての考え方が変わってしまった。
    そしてその「考え方の変更」は、呑気そうな有袋類、獰猛な有胎盤類、不思議に見える爬虫類、愉快なシャチと残酷なシャチ、果てはパプアニューギニアや南米大陸の原住民、そこへ乗り込んで行って大きな危害を及ぼしたヨーロッパ人、不動に見える大陸に至るまで、様々なものに及んだ。
    こういう、シナプス経路の変更をさせられる体験こそ、読書の醍醐味。

  • 言われて気がつくということがあるものです。

    ウェゲナーの大陸移動説により、どのように大陸が分断されたのか。それによって生物分布が大きく分けられたのか。

    この本を読んで、「あっ、そうか」と思いました。

    印象に残ったのはシャチの話。
    シャチにはアザラシを襲うグループと襲わないグループがあるそうです。
    アザラシは、シャチのグループを見分けていて、襲わないグループの側はゆうゆうと泳ぎ、襲うグループの声が聞こえると、逃避行動をとるそうです。

    生物分布の観点で生き物をとらえる、ということの楽しさが少し分かってきました。

  • 知識の広がりをつくるために、手にとったけど
    完全に専門書への入門書といったところ。

    論理的な展開に、読み進めるのがすごく気持ちよかった。

  • 推薦理由:
    進化論とプレートテクトニクス(地球表面を構成するプレートが水平運動をすることにより起こる地質現象を説明する学説)を結びつけて考察することで地球上の生物の進化と分布の謎を解き明かす「生物地理学」が本書の主題である。本書は、我々の身近な生物が、なぜそれが今ここに生息しているのか、または、なぜここには生息していないのかなどを、生物地理学の見地から様々な例を挙げて説明しており大変興味深い。

    内容の紹介、感想など:
    ホッキョクグマとコウテイペンギンは双方ともに厳しい極寒の地で生きていくための適応力を備えているが、ホッキョクグマは北極とその周辺、コウテイペンギンは南極とその周辺のみに生息しており、両者が自然な形で共存することがありえないのは何故か。ハワイ諸島とアマゾン川流域はどちらも熱帯雨林気候だが、多様な生物が生息するアマゾンとは異なり、ハワイには原産の陸生脊椎動物が(両生類も爬虫類も数種類の蝙蝠以外の哺乳類も)全くいないのは何故なのか。著者は、自然環境が似た場所では、生息する動植物も似ているはずだと思いがちな我々の誤解を、生物地理学の手法で鮮やかに解いていく。
    ダーウィンやウォレスの進化論、ウェゲナーの大陸移動説などを紹介し、地球上の生物の分布が、ゴンドワナ大陸の分裂と移動やパナマ地峡の隆起、海底の地溝の変動という出来事に由来することを述べ、それらがどのように地球上の生物の構成全体の変化に影響をあたえたのかを解説している。
    また、大陸の配置と生物の分布が人間社会の発展にも大きく影響する事を示したジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』を紹介し、生物の歴史を形作る上で大陸の配置が重要な役割を果たしている事を説いている。
    本書は、進化論とプレートテクトニクスを結びつけた生物地理学という学問分野を紹介するもので、その研究は我々の生物多様性への本質的な理解を深めると共に、「地球と生命は共に進化している」という事実を示している。
    大陸の配置の変化を表す地図や生物の分布図などを使って、生物進化上の変化と地質学上の現象との関係を分かり易く説明している本書は、まるで生物分布の謎を解くミステリーを読んでいるようでわくわくするほど面白い。

  • まるで新書のようなタイトルとペンギンとシロクマの可愛げな装丁ですが、中身はなかなかにハードでクールな生物地理学の本です。
    ペンギン好きだから、などという軽い気持ちで読みはじめて少々後悔しました。大陸移動による生物の進化、多様化が大きなテーマです。動物だけでなく人類の発祥も含めた長い時間のことを取り上げていますが、一方で、私たちの身の回りで起こっているちょっとした開発などでも、生物の変化は起こりうることを印象づけられました。
    人類も、工業化以前は生物資源由来を主に使って暮らしてきたわけなので、そこにどんな生き物がいるのか、あるいはどうやって移動してきたかということは、民俗学とも通じる面白さがあります。

  • シロクマは南極にはいなかったり、ペンギンは北極にはいなかったり、カンガルーは日本にはいなかったり。秘密は大陸移動にあります。何千万年ものダイナミックな大陸移動を、地球上の生き物の分布を調べることで見つけ出す、生物地理学って面白い!

  • 生物地理学の本。全ての生物には遺伝的に繋がりがあり、移動能力を使って地球の表面を動きまわったという単純な考え(=生物地理学)の発見が、生物学・地質学・人類学を発展させたと書いてある。つまり、例えば大陸は移動するという理論は、離れた大陸にそれぞれ存在する生物の遺伝的繋がりを足がかりにして生まれたと。ほほう、なるほど。
    という生物地理学を、具体的で興味深い事例とともに解説する本。ああそうだったのかと都度都度納得しながら、楽しく読んだ。
    南極はもともと今ほど寒くなくて多様な生物が生息していたものの、アフリカ・南アメリカ・オーストラリア大陸が分化した結果、発生した海(海流)の関係で寒くなり、散らばった有袋類もアフリカ・南アメリカ大陸なんかでは死滅したが、オーストラリア大陸では今も残ってる、なんてくだりも面白かったなあ。
    「生命と地球はともに進化する」

  • 地理的な位置づけと生物の進化から見えてくる今の動物の生態が書いてあり、比較的面白く読むことができた。同じ動物でも、遺伝子配列が違えばそれは別の種だと見なされる一方で、それを超えてなおその環境に適応し、うまく生きていくことこそが種の繁栄につながることを再認識した。印象深かったのは、2種類のシャチの話であり、アザラシが警戒すべきものとそうでないものがいることなどは、ただ単にシャチとしてしか捉えていない人には驚きであるに違いない。海を通して見えてくる生物の進化はまだまだ謎に満ちていると同時に、きっとその分だけ驚きが隠されている。そのことが読者をより引きつける要因なんだと、ページを閉じてふとそんな風に考えてしまう。

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