- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784760155569
作品紹介・あらすじ
1946年夏。朝鮮から日本へ、男は「密航」で海を渡った。日本人から朝鮮人へ、女は裕福な家を捨てて男と結婚した。貧しい二人はやがて洗濯屋をはじめる。【本書の内容】朝鮮と日本の間の海を合法的に渡ることがほぼ不可能だった時代。それでも生きていくために船に乗った人々の移動は「密航」と呼ばれた。1946年夏。一人の男が日本へ「密航」した。彼が生きた植民地期の朝鮮と日本、戦後の東京でつくった家族一人ひとりの人生をたどる。手がかりにしたのは、「その後」を知る子どもたちへのインタビューと、わずかに残された文書群。「きさまなんかにおれの気持がわかるもんか」「あなただってわたしの気持はわかりません。わたしは祖国をすてて、あなたをえらんだ女です。朝鮮人の妻として誇りをもって生きたいのです」植民地、警察、戦争、占領、移動、国籍、戸籍、収容、病、貧困、労働、福祉、ジェンダー、あるいは、誰かが「書くこと」と「書けること」について。この複雑な、だが決して例外的ではなかった五人の家族が、この国で生きてきた。蔚山(ウルサン)、釜山、山口、東京――ゆかりの土地を歩きながら、100年を超える歴史を丹念に描き出していく。ウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』初の書籍化企画。【洗濯屋の家族】[父]尹紫遠 ユン ジャウォン1911‐64年。朝鮮・蔚山生まれ。植民地期に12歳で渡日し、戦後に「密航」で再渡日する。洗濯屋などの仕事をしながら、作家としての活動も続けた。1946-64年に日記を書いた。[母]大津登志子 おおつ としこ1924‐2014年。東京・千駄ヶ谷の裕福な家庭に生まれる。「満洲」で敗戦を迎えたのちに「引揚げ」を経験。その後、12歳年上の尹紫遠と結婚したことで「朝鮮人」となった。[長男]泰玄 テヒョン/たいげん1949年‐。東京生まれ。朝鮮学校、夜間中学、定時制高校、上智大学を経て、イギリス系の金融機関に勤めた。[長女]逸己 いつこ/イルギ1951年‐。東京生まれ。朝鮮学校、夜間中学、定時制高校を経て、20歳で長男を出産。産業ロボットの工場(こうば)で長く働いた。[次男]泰眞 テジン/たいしん1959‐2014年。東京生まれ。兄と同じく、上智大学卒業後に金融業界に就職。幼い頃から体が弱く、50代で亡くなった。
感想・レビュー・書評
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当たり前のことだけど、私たちは生まれたくて生まれてきたわけではない。いつ何処に生まれてくるかは、ただの偶然‥のはずなのに、なぜこの時代に生きた人々はこんなにも運命の神様に弄ばれるような人生を辿らなければならなかったのか。
立場と時期は違うけれど、私の両親もほぼこの家族と同世代。多くは語らなかったが京城での生活や帰国時に可愛がっていた犬を置いてきた話などが唐突に思い出され、読んでいる間ずっと「戦争だけはしちゃいかん。得をするのは遠くから指図する人だけ」と話す母の声が聞こえてくるようだった。今、世界で起こっている戦争は日本にいる私達と一直線に繋がっている。無関心、無関係ではいられない。
資料も多く、きちんと整理された写真、ご家族の話等、最後まで圧倒された一冊。 -
時代や戦争に翻弄されながらも、今より少しでも現状が良くなるようにともがきながらも必死に生きてきた家族のお話。在日在朝関連の本は何冊か読んだけど、今までにはない視点で貴重なお話を読ませてもらいました。戦争をしても誰も幸せになれないのに、その時だけでなく何世代にも影響を及ぼすのに、何故繰り返すのだろう。
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装丁からは想像もせぬ壮絶さだった。敗戦時の密航やコレラ船。日本に住むことになってからの差別と困窮。記録されていないだけで、その当時の人の数だけ絶望があったんだよな…と思いを馳せる。描かれている、白人が黒人を蔑む冷たい目、米や露が東洋人を蔑む目、日本人朝鮮人が互いを憎み合う感情、そして徳永ランドリーでも男が女に手をあげる惨状。それで苦労したはずの登志子さんも、後年のボランティアではハンセン病のボランティアでは偏見があったようで…。少し手に障害がある娘の逸己さんが、全てを悟ったような印象で、影ながらこのご家族を支えてらしたように思えた。怒涛の時代の家族の記録。自分の中にもある無意識のうちの差別や偏見と、どう向き合っていけば良いのか、とても考えさせられる。
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残ってるものの赤裸々さと、残っていないもの、わからないことの重たさが、そのまま丁寧にまとめられていて、ここはわからないんだな、ということの方にむしろ締め付けられるような気持ちになりました。
家族には、記憶装置としての機能があると聞いたことがあります。お兄ちゃんは麻疹にかかったことあるよとか、おばあちゃんはコーヒーが好きなんだよとか、そういう、他の人にはどうでもいい記憶を、家族は価値判断せずに持っていられる、という意味だったと思います。
シンプルな幸せとは対極にあるように見える家族が、これほどの記憶を残し整理してきた事実が、意外でもあり、救いのようにも感じました。
ひとくくりにした属性ではなく、ひとりに注目する意味も、周辺化された人や物事に注目することの意味も、改めて感じました。おかしいなという感覚を、押さえ込まずにいようと思う本でした。 -
出版社(柏書房)のページ
https://www.kashiwashobo.co.jp/book/9784760155569
推薦の言葉、内容、目次
「難民支援協会」のページ
https://www.refugee.or.jp/fukuzatsu/book01
本書出版までの詳しい経緯と作品の構成
「毎日新聞」書評(20240217 中島京子評)
https://mainichi.jp/articles/20240217/ddm/015/070/027000c
「朝日新聞」書評(20240504 安田浩一評)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15926949.html