- Amazon.co.jp ・本 (127ページ)
- / ISBN・EAN: 9784761531799
作品紹介・あらすじ
地方都市の「中心市街地」を魅力的な「テーマ地区」へと導いた計画、事業、デザイン、多様な街づくり組織に迫る。
感想・レビュー・書評
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職場の図書館で、べたなタイトルだなと思いつつ、市街地の再生の組織について勉強しようと思って借りてきた。
最初の印象は、米国では、市街地の修復、再利用以外にも、結構、高層のビル建築がまだあるんだなということ。日本だと、東京都心以外に、高層ビルがうまるような需要が期待できないので、ちょっと意外。まだ、住宅バブルでおどっていたときの米国の情報かもしれない。
再開発、地域開発組織について、学んだことなど。
(1)米国は、州法で自由に地方政府がつくれるので、TIFとかBIDとか、地区単位の課税ができる。これに対して、日本は、地方政府は、地方自治法で縛られていて、市町村の下のレベルの課税権のある自治体というのは、法律上つくれない。このため、街路を整備したり、一定規模の開発をしたあとの、地区管理主体の財源不足になやむ。
そこで、アイディアだが、街路や面開発をする場合に、その周囲までを超過収用(例えば、都市施設の一団地制度の拡充)して、民間に再分譲する、その時にその後の管理費の地区管理会社への支払いを義務づける、あるいは、第三者効のある協定制度を創設して第三者にも管理費支払いを義務づける、とうのはどうか。
実質、街路の周辺にペンシルビルがたったりして、デザイン的にも問題があるし、開発利益がたまたま街路に接した地権者だけにいってしまう、これを関一の御堂筋のように、デザインも統一しつつ、将来の地区管理費もきちんととる仕組みはどうだろう。
単に、BIDとかTIFとか紹介する本はやまほどあるが、日本の法制度の中でどうできるかを考えたい。
(2)第3章のセントポールのロウアータウン再開発会社の事例で、いわゆるギャップファンディングもよく聞くが、これは民間事業者に対して、きちんとした融資をすることへのdisincentiveにならないのだろうか。
この本から理解する限り、ギャップファインディングは、民間事業者が資金をかきあつめて足りない部分を融資すること(p52)のようだが、これを別途メザニン融資というとも書いてある。
しかし、メザニン融資は、資本の劣後部分あるいは債権の後順位の融資であって、別にギャップファインディングに限定されないので、よくわからない。
メザニン融資を一定の限度でして、民間の資金調達をすることは、荒廃した地区の再生のために必要だが、たらずまいをファンディングするという意味であれば、なんか、民間事業者がまじめに銀行まわりをしなくなってしまうような気がする。
このあたりは、米国のギャップファインディングに詳しい方、情報をお願いします。
(3)デザインコードについては、横浜のMM21でも問題になっているが、景観法ができているので、きちんと開発にあわせて計画地区を決定して、市町村長の認定(景観法第63条)の際にデザイン審議会のような手続をかけるような、制度的仕組みを活用した方がいい。
開発した際になかよくやっていた大規模地権者の譲受人が、市町村のデザインに対する意向を十分配慮してくれるとはかぎらないから。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アメリカのダウンタウン再生の背景には、急速なモータリゼーション化、新規住宅需要の拡大、黒人、移民の都心部への大量流入などの社会的な変化があった。
社会のモータリゼーション化は距離的制約を緩くし、人の移動場所を拡散させることとなり、新規住宅需要に対応するために、比較的郊外の(自動車移動を前提としたような)広い土地に大量の住宅を建設し、黒人、移民の都心部への大量流入から治安やセキュリティーへの不安が増し、白人の中産階級の郊外への移住を促した。このように、さまざまな原因により住人がダウンタウンから離れ、それに伴って産業も郊外へと移動した。そうして、ダウンタウンには空洞化による都市部の荒廃と税収の減少という問題が浮上した。
ダウンタウンの再開発によって、このような課題を解決するために、それぞれの街区に特色をつけ、ビジネス街としての再生、都心観光、都心居住の拡大を目標として街づくりの制度が作られた。
アメリカの都市開発においては、証券化とも言える事業スキームが制度化されている。そして、開発に必要な費用の負担を地元住民や地権者も負っているという点が特徴である。開発資金をデベロッパーからだけでなく、TIF制度という自治体が債券を発行し、開発利益をその債券の償還財源とする制度がある。
米国の再開発は日本と比べて規模が大きく、隣接した地区で連鎖的段階的に開発を行い、それらの開発のデザインコントロールを行う組織を設けることで、各地区と全体の統一性を維持している。その組織は開発完了後も施設の改修や建替えの計画を審査し、街づくりの戦略を永続的に担当する組織となっている点が特徴と言える。
1970年代までの開発方法は市・公社が土地を取得し、既存建物を撤去、整地して民間デベロッパーに安く売り開発を行わせるというものが一般的なスキームだった。しかし、1980年代のレーガン政権の時代に、都市計画法改正が行われ、インセンティブ・ゾーニングによる容積ボーナス型の制度が設立された。
続いて、再開発会社による資金調達が困難になると、特定地区における不動産税に加え、開発税を徴収しそれによって資産価値向上のための事業を行うという制度も設立された。
このように住人が事業費用を負担するという形は、日本の開発ではあまり見られないが、自ら負担をしているからこそ、街づくりに対する関心を持ち、積極的に関わりたいという動機につながると言えるのではないか。
しかし、各州が独自の法律を持ち、良い意味で競争的な関係となっている国においては、どこに住まうかという選択は自己責任を伴う自由の中にあるものであり、住む場所は常に主体的に選択されるものである。
街づくりにおけるリスク負担の考え方は、自由の意識が根付いているアメリカだからこそかもしれない。