地方都市を考える 「消費社会」の先端から

著者 :
  • 花伝社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784763407559

作品紹介・あらすじ

現在、日本の人口の約4割が暮らす地方都市。
ショッピングモール、空き家、ロードサイド、シャッター商店街、「まちづくり」など様々な問題が去来している今、地方在住だからこそ見える在り方。東京発の空論を蹴散らす説得力。気鋭の社会学者による、地方発・地方都市論です。
地方に住み、移動し、働く=地方で生きることとはどのようなものなのか。東北にある中都市を舞台に、「地方消滅」「地方創生」の狂騒のなかで、この国の未来を先取りする地方都市の来し方行く末を考える。

感想・レビュー・書評

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  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/64706

  • 東京か田舎か、という議論があるけれども、日本の7割はどちらでもない「地方都市」である。東京都心よりも消費が旺盛で、自動車移動によってライフスタイルが個別化された社会は、ある意味もっとも先鋭化された場所と言える。

    データを精緻に追っていけば、現在の地方創生が目指すところからこのサイレントマジョリティと呼べる層がごっそりと抜け落ちていることに気づく。ある時はマイルドヤンキーと呼ばれ、自治体主催のワークショップなどには絶対に参加しない人々の暮らしこそが、豊かになった日本が見つけたユートピアなのかもしれない。

    それだけ人々は移動しなくなっている。高度成長期に比べて東京に流出する若者の割合は半減し、低学歴ほど地元に根付き、狭く限られた交友範囲での予定調和な幸福を好む。それは東京を中心とした鉄道網が利用されなくなり、縦横無尽に自動車で移動できるようになった地方都市の市街地形成とも無縁ではない。

    都心でもなく限界集落でもなく、地方都市を見ることで日本の現在が見える。教育や福祉といったライフスタイルのあらゆることが消費化され、学歴や収入によって階層化された社会。この巨大かつあまり研究対象とならなかった層に注目した点で、この本はエポックメーキングだ。

  • 空き家や高層マンション、鉄道や自動車、メディアや観光やまちづくり、ロードサイドビジネスやショッピングモール、労働などを対象に地方都市の消費に係る現状を教えてくれる一冊。「では地方に住む人はどうすればいいのか?」その問いに答えているわけではなく、あくまでも現在の姿を示し、表題そのままに「地方都市を考える」内容である。いかにも大学教授が書いた文章らしく、まどろっこしく小難しい表現が多く読みづらかった。『地方創生』が過熱化し莫大な予算が地方に与えられているが、地方都市の現状を鑑みれば徒労に終わるのかなぁ。

  • よくある、地方活性の手段や成功例が書いてある本ではありません。
    この本は、地方都市の構造的特質を教えてくれる本です。

  • 地方創生の具体策をあれこれ考える前に、まずは地方都市の在り様を詳細に見てみるという筆者の姿勢に好感をもった。『消費』という観点から地方都市を見直す作業も、伝統文化を掘り起こして観光に結びつける作業よりもよほど現実的だと思う。地方都市の盛衰にかかわるものとして、とても勉強になった。
    <以下印象に残った内容>
    ・戦前に都市に向かった人々は、あくまで故郷の家とつながりを保つことが多く、故郷に錦を飾る可能性が捨てられなかったから、戦前の都市部での借家率は高かった。
    ・空き家問題の直接原因は個人のライフスタイルを尊重し、親との居住を忌諱し、結果継ぐ者がいないということであるが、新築住宅が毎年作り出されるという問題もある。景気浮揚などを目的に生み出されたこの問題は、住宅が人のステータスを示す商品とし、新築住宅を消費したがる感性の貧困さも問題となる。
    ・自動車は単なる移動の手段だけではなく、園中で音楽を聴いたり、珈琲を飲んだり、携帯でネットサーフィンをしたりと、私的な自由を確保するための貴重なシェルターとなっている。
    ・街なかが衰退した地方都市では、地権者が分解したことで、戦前より計画していた都市計画が再燃している。人口減少により新規道路開発の需要は減っているが、地方に金を回す手段として道路開発が頼られている。
    ・過去は都市に出ることは地方で固定された人生からの脱却を意味した。しかし現代は地方も一定の豊かさを持ち、リスクをとって地方から出ることは、学歴の高さなど、自身の自信を持つ一部の者に限られるようになっている。(移動の階層化)
    ・地方ではインターネットの発達により、潜在的には選択可能な情報が急増しているが、実際には情報摂取は進んでいない。情報の発信者は依然大都市にとどまっており、地方に受け入れられる情報は新たなものを生まないパッケージ化された情報である。
    ・観光は、旅行者を地域の支配者へと変え、何が価値を持ち、そうでないかを選別する主体とさせる。結果、住民は観光客をもてなす主体として純朴かつ気前よく自分たちをもてなす「原住民」であることを望まれる。ゆるキャラなどは、自身をピエロとし、都市市民から消費し選ばれる対象となれるように振舞う行為となる。
    ・自治体が示す観光客数に情報の正確性は薄く、それでもその情報の正確性を高めないのは、観光客の数が地方の価値を示す指標にされており、補助金等にもつながるからである。
    ・大店法の悪影響とオーダーリース方式により出店が進んだ、ロードサイドビジネスは、衰退していく地方都市で本質的には消費から遠ざけられる人々の代替として消費の機会を与えている。
    ・ロードサイドの代わり映えのない風景に対する不満の受け皿として、現在は快適な環境の中で、多数の店舗を見比べて歩き商品を見比べて購入できるショッピングモールが広がる。
    ・都市計画法の改正で市街化調整区域での出展は困難になったが、企業と自治体が協力しあらたな街を構成し、造成した街を中心市街地としてモールを出店させる方法もでている。これは隣接市から客を奪うこともできる。
    ・ショッピングモールは本質的に多数かつ多様で飽きの来ない店舗がそろう必要があるため、時代にキャッチアップしテナントの入れ替えや、リニューアルをする必要がある。失敗したモールは廃墟になるため、テナントとは、定期建物賃借契約を結ぶようになる。ただし、ネット小売の発展やテナント獲得競争の激化は、モールの廃墟化を容易にしている。加えてモールを提供する業界側も短期のうちに投資を回収することを前提としている。モールは借地に立てられ、建造物も単純な構造で作られているため、10-15年で回収が可能となっている。そのため、90年代に立てられたモールはすでにいつ業界側の都合で廃墟となるのかわからない。モールの進出により近隣の中小店を駆逐されており、去った場合の影響は大きい。
    ・地方都市における商店街はシャッター街が目立つものの、店主は商業から関心を失っているが、新たな人に店舗を譲る(貸す)ことはせず、補助金支給などもあいまって、賑わいのない商店街が残存する。ショッピングモールは都市本来の新陳代謝を維持し、税収面で地方都市を支え、賑わいを維持するという面もある。
    ・地方ではこれまで家族経営の企業が中心であり、雇用市場は開かれていなかった。モール等の商業施設や需要の進む介護施設・医療施設は雇用の場を広げているといえる。しかしながらその雇用は非正規雇用が中心であり、結果、地方都市内での格差がすすみ、安定は崩れている。経済的な不安定さから未婚化もすすむ。(企業や雇用に依存しない、社会保障の提供が必要となる。)
    ・消費社会の進展はどのような消費者も公平にもてなすことを求めており、結果として労働者の不自由を招き、雇用から誇りや尊厳を減らす。
    ・地方に暮らす人は労働者として尊厳をすり減らしつつ、担保される消費の場で労働の空虚さを癒すという構造になっている。
    ・柳田邦男は戦前に都市への人口の流出を批判した。その批判は都市への移動には個人としての合理性があるが、家という人を幸福に死なせ、生きさせる根拠を与えるものを衰退させるという点で批判した。この議論に賛否はあるが、根底的なライフスタイルを問い詰めなおし、理想の暮らしのあり方を考える姿勢は意識すべきである。理想の暮らしに地方都市の存続が関係ないならば、地方都市の存続に税金をつぎ込むことは正当化しがたい。理想の暮らしは何かを考えた地方政策が必要となる。

  •  官製「地方創生」ブームに違和感がある。
     「地方都市について、できるだけ「邪念」なく考える(p5)」ことを目的とするこの本は、その理由を明らかにしてくれる。
     「地方都市は近年、伝統を創造し、または架空のキャラクターを捏造してまで、みずからをより「消費」される街とすることに余念がない(p134)」や「地方都市は商店街とモールというふたつの「廃墟」に向かう商業形態に挟まれつつ、見通しのつかない消費の現在に立ちすくんでいる(p182)」など、どきっとしながら、地方都市のあり方を考える機会となった。

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著者プロフィール

立教大学教授

「2024年 『社会学の基礎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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