- Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
- / ISBN・EAN: 9784764104068
作品紹介・あらすじ
封印された和田心臓移植。札幌地検の捜査報告書を基に、社会部記者が数々の疑惑を解き明かし、将来の医療を問う渾身のルポルタージュ。和田心臓移植30年目の真実。
感想・レビュー・書評
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嗚呼、和田事件
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「一九六八(昭和四十三)年八月八日未明、札幌市中央区の札幌医科大学付属病院。胸部外科教授の和田寿郎ら二十人の移植チームは、午前二時五分から三時間三十二分かけて、日本初の心臓移植手術を終えた。」
臓器移植法施行を機に、日本初の心臓移植手術について新たに取材をした本。
手術直後は、もてはやされた心臓移植手術だったが、レシピエントが手術から八十三日目に死亡し、批判が噴出。ドナーに対する殺人罪等及びレシピエントに対する業務上過失致について、捜査が開始される。そこでは、杜撰な脳死判定、不自然な点について既に死亡した研修医にへの責任転嫁、関係者の口裏合わせや、医学界の和田への批判と、捜査時の擁護が交錯し、起訴するに足りる証拠は得られない。
医師が新たな手術を行う際の倫理、法律が医学にどこまで踏み込むべきか、といったテーマを、本件に関する起訴を断念した検察官の捜査報告書や当時関わった者らのインタビューを元に浮き彫りにする。共同通信社の記者が執筆しているため、難しいテーマを上手にまとめつつ、記者の見解を示している。
印象に残った点:
「特に証拠隠滅をめぐっては『大学教授という社会的身分があるので、逃亡の恐れがないことは当然として、証拠隠滅の恐れもまずあるまいと見込まれた。・・・証拠物については、機先を制して捜索、差し押さえの手段を講じ保全の途を講ずべきであったと反省している』と検事を嘆かせた。」
権威に弱すぎでしょう。証拠隠滅しないわけないし。
手術から30年近くたった後の執刀医和田の言
「人命というものに、政治が介入するのは間違い。この三十年近く、日本の外科医たちは刑事告発におびえて何も出来ず、結局、命の問題を政治家に押し付けてしまった。人間の生と死を決めるのは法律ではなく、医師の医の心だけ。臓器移植法は日本の医の心が地に落ちたことを知らしめる、世界に恥ずべき法律だ。」
これが一部の医師の本音なのだろうか。
本件について取材した作家吉村昭
「マスコミは善か悪かだった。最初はバンザイ、バンザイと和田さんを英雄扱いした後、一斉に反発した。百家争鳴だった。『心臓移植は悪』と徹底的にたたき、一度も現場を訪れたこともない評論家や法律家が便乗した。マスコミはもっと冷静じゃなければ困る。失敗すると、全部をたたこうとする。もう少し本質はどこにあるかを考えるべきだ。」
本質を見ずにたたくマスコミとこれに便乗する人々という構造は、現在も共通する。ネットが普及したことで、評論家や法律家だけでなく、一般人も参加するようになったが。 -
ご存知。和田移植の本。当時の日本の心臓移植で何がおこっていたのかが書かれている。臓器移植/脳死の問題を考えるのに参考になる一冊。
この間初めて和田さん直筆のアンケートを見ました。やっぱりおかしい人と思わざるを得ない内容でしたが。。。