超限戦 21世紀の「新しい戦争」

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784764104983

作品紹介・あらすじ

「ルールのない戦争」が始まった。中国現役軍人による新戦争論。

感想・レビュー・書評

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  • 中国軍人による戦略論。現代戦は、軍事のみならず経済、科学技術、文化など、軍事に分野を限定することなく、あらゆる分野をグローバルに取り込んでなされることから「超限戦」と呼び、超国家的、超領域的、超手段的結びつきの重要性を強調する。研究は精緻で、特に前半における従来の戦略論と最近の紛争について詳しい。分析も納得できる。ただし、やや分析が陸戦に偏っており、16世紀以降の蘭、西、葡、英、米、日など重商主義や植民地運営等の海洋戦略的な視点に欠ける。10年以上前の著作ではあるが、サイバー戦やテロ活動の重要性を強調しており、その先見性には驚かされる。印象的な記述を記す。
    「単価13~15億ドルのB2爆撃機は同じ重量の金より3倍も高い」p37
    「今日の世界では、度の強い近視眼鏡をかけた色白の書生の方が、頭が単純で筋肉の盛り上がっている大男よりも現代の軍人にふさわしい」p59
    「理想的な条件下で行った戦争は教訓とするには不十分」p79
    「21世紀の戦争に勝ちたいと思う国は、どの国でも「改組」か、さもなくば敗北かという二者択一の選択に否応なく直面することになり、ほかに道はない」p87
    「勝利の法則を知ったからといって、必ずしも勝利を確実に手中に収めるとは限らない。これは、長距離ランニングの技巧を学んだとしても、必ずしもマラソンで優勝するとは限らないのと同じだ」p223

  • 1999年2月に出て本土だけでなく香港などでもよく売れた。アメリカが「一強」の座を手放すことは無くテロ、サイバーテロがそれに向けられる兵器となるだろうと指摘していたのが「戦争の新時代を予言していた」と2001.9.11のあと評価されこの日本語版も同年12月出版され英語版も近日中とある。中国らしく孫子の兵法などの引用もあるがナポレオン、クラウゼヴィッツなども挙げられ「新兵器」「戦争哲学」の分析が主にアメリカが行った1991年湾岸戦争の動機、推移、結果についてなされる。中国の狙いはインターネット閉鎖ではないか
    著者は“政権の正当性”=国家のための戦死も肯定する神話構築について触れない。民主主義のアメリカと軍事独裁の中国では中国に西欧の帝国主義への恨み、中華思想=差別感情があっても対等ではない。“民主運動家”が出現する必然である。中国本土でしているようなインターネット検閲は自由主義国に強要するのは不可能だろうから(反米活動家、冷戦時左翼の残党などに交ぜ返させて相対化するのが精々)、サイバー攻撃をお手上げになるまで仕掛けて情報空間を遮断させる、以外に長期的に共産党政権は存続できないという冷厳な認識か。

  • 今の戦争の形の可視化。
    この視点は今も世界をおおっている。

  • 戦争の慈悲化とて、フローが変わるだけで目的や残酷な結果は変わらない。

    戦争は政治の継続である。クラウゼウィッツ

    変わらない友というものはなく、変わらない利益だけがあるのだ。

    現代の戦争と過去の戦争との最大の区別は、公の目標と隠されている目標とがいつも別である。

    兵器所有する国家の軍隊よりも、クラッカーのほうが脅威である。個人的なのか、国家なのか、非国家の組織なのかの区別がつかない。クラッカーに留まらず、ジョージソロスでさえ金融テロリストではないと、誰が言えようか。

    未来(現代)の戦争方式
    ・統合作戦…これまでの戦争
    ・精密交戦…GPS、ステルス
    ・情報戦
    ・非戦争の軍事行動…非戦争状態における軍隊の任務と行動→非軍事の戦争行動…戦争状態を人類の全ての活動領域に拡大すること。

    非軍事の戦争行動
    ・貿易戦…アメリカがイラクに対して8年禁輸したとか、関税障壁の恣意的な設定や破棄、経済制裁やスーパー301条
    ・金融戦…ジョージソロス、西ドイツのコール首相、李登輝、モルガン・スタンレー、ムーディーズ。金融戦はその動作の隠蔽性、利便性、破壊力の強さという特徴を持っている。
    ・新テロ戦…オウム真理教のサリンテロ、ハッキングするイタリアンマフィア。従来の、爆破、誘拐、暗殺、ハイジャックだけではない、最新技術を用いたテロリストの攻撃。
    ・生態戦…川、海、大気圏、地面への人工的な干渉で、降雨量、気温、海面高度、日照を操作する。地震。別の地域生態状況を作り出したりすること。
    ・その他、デマや恫喝で相手の意思をくじく心理戦や、視聴者を操り世論誘導するメディア戦、恩恵を施し相手をコントロールする経済援助戦、当世風を持ち込み異分子を同化させる文化戦、先手を取ってルールを作る国際法戦などなど。→ルールを作るのがやはり強い。

    戦争の目的は「武力をもって自分の意志を敵に強制的に受け入れさせる」だけでは満たされず、「武力と非武力、軍事と非軍事、殺傷と非殺傷の手段全てを利用し、敵を強制して自分の利益を満たす」ことになる。

    組み合わせは戦争手段をほぼ無限に増加させ、これまで人々が考えていた戦争の定義「現代的兵器と作戦方式で戦う戦争」を根本的に変えてしまった。言い換えれば、手段の増加が兵器の役割を縮小すると同時に、現代戦争の概念を拡大したのである。

    3000年前の戦争であれ、20世紀末の戦争であれ、「組み合わせ」の良い方が勝つ、という共通した形跡を残している。

    ピタゴラス0.618
    →こじつけ?

    大戦・戦策
    戦争・戦略
    戦役・戦芸
    戦闘・戦術
    各レベル内での対策では解決せず、また、違うレベルの対策がなされるのが現代戦。ハッキング(戦術?)レベルでも戦策レベルの攻撃が可能であったりする。

    超限組み合わせ戦
    ・全方向度…超限戦の設計。軍事・非軍事、戦場・非戦場等々、動員できる戦争資源を組み合わせること。
    ・リアルタイム性…同時、ではなく同一時間帯。
    ・有限の目標…目標は手段よりもできるだけ小さく。逆に言えば、目標にあわせた手段は大きくする。
    ・無限の手段…手段の選択範囲と使用方式を絶えず拡大していく傾向のこと。手段は目標から離脱してはならない。
    ・非均衡…戦力差がある場合、相手の予測できない領域と戦線を選び、相手に大きな心理的動揺をもたらす打撃を与えるなど。
    ・最少の消耗…三原則。節約より合理化。作戦様式が戦争の消耗の大小を決める。多くの手段をもって、少ない消耗を求める。
    ・多次元の協力…多種類の領域、力のこと。非軍事・非戦争の要素を直接的に戦争の領域に導入。具体的目標に向けて、異なる次元の協力。
    ・全過程のコントロール…開始、進行、収束の状況管理。全過程に対しフィードバックと修正を行う。

    われわれの祖先のように、武力による解決が最終手段でなく、政治・経済・外交、どの手段も軍事手段の代用品になる十分な力を持っている。
    流血の戦争に代えて、できるだけ流血を伴わない戦争をやろうとしているだけ。狭義の戦場空間は縮小したが、世界全体が広義の戦場に代わった。この戦場では、かつてと同じように、奪い合い、略奪し合い、殺し合う。手段はさらに巧妙になり、血なまぐささは多少減るが、残酷さは相変わらずだ。

    これが現実であり、人類の平和は幻のままである。戦争が忽然と後を絶つことはありえない。当然、起きることは結局起きるのだから、私たちのできることとしては、いかにして戦争に勝つかである。

    広義の戦争において、軍隊と兵器に頼るだけでは、国家の安全、国家の利益を維持することは不可能である。戦争は軍人・軍隊・軍事を超え、政治家、科学者らひいては銀行家の仕事になってきているり。戦争をどう遂行するか、という問題は軍人だけの問題ではなくなった。

    ロッカビー航空機墜落事件
    ナイロビ・ダルエスサラーム爆破事件
    東南アジア金融危機
    これらこそ、グローバル化時代の戦争である。

  • 本書は、「911を予測した」とかどーとか、そんな下らないレヴェルではない。中国人民解放軍現役空軍大佐2名による本書は、米国防大学において“分析対象”としても“テキスト”としても高い評価を受ける。彼らは、湾岸戦争からいくつかの重要な示唆をする。例えば、「非軍事の戦争」(テロ、サイバー等の非正規戦)、「非戦争の軍事行動」(≒MOOTW)、技術論、三軍統合運用、「霧の如き同盟」(現在の有志連合)等である。軍事研究者の必読書。ただし、本書後半の黄金率に関しては。。。

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著者プロフィール

中国人民解放軍国防大学教授、空軍少将。魯迅文学院、北京大学卒業。文学作品や軍事・経済理論の著作は600万字を超え、代表作は長編小説『末日の門』、中編小説『霊旗』、理論書『帝国のカーブ』など。

「2020年 『超限戦 21世紀の「新しい戦争」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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