特命全権大使米欧回覧実記 2 普及版 イギリス編―現代語訳 1871-1873 (2)

  • 慶應義塾大学出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (450ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784766414875

作品紹介・あらすじ

富強国イギリスの実際を目の当たりにし、「遅れてきた青年」日本の懸命な学習ぶりが描かれ、そして切ない思いが吐露される。一方、スコットランドでは自然の美しさにしばしの憩いの時をすごす。

感想・レビュー・書評

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  • イギリスに対して敬意を持っているような記述が多かった。

  •   先般、久米邦武「特命全権大使米欧回覧実記」の第1巻「アメリカ編」を読了したのに引き続いて、第2巻「イギリス編」を読む。これは、1871年から1873年の丸2年間、岩倉具視を団長として大久保利通、木戸孝允、伊藤博文など総勢50名による視察団が米国・ヨーロッパを歴訪した際に書記官久米邦武が記録した訪問記録(全5巻)。
      丸2年間わたる大デレゲーション、明治維新から2年しか経ていないのに、首脳がこぞってよくも思い切ったものと感心されられる。それだけ維新後の日本をどうすべきか、猶予の許されない危急の課題だったということなのだろうか。船で太平洋を渡り、サンフランシスコから米大陸を鉄道で横断、主要都市を巡回してボストンからイギリスへ。とにかく道々にあるものは何でも見て回るという貪欲な視察。当然にこの「回覧実記」に書き残された内容も微に入り細にわたる。国会、裁判所、造幣局、刑務所、その他の行政機関、商業施設、商工会議所、港湾施設、税関、炭鉱、製鉄所、紡績工場、銃器工場、砲弾工場・・・・・・ありとあらゆる施設に出向いては詳細なスケッチと文字で記録を残す。まさに知に飢えた人たちの足による記録だと云っていいだろう。
      アメリカで見たフロンティア精神、イギリスで体験した世界の工場としての熱気と活力。日本の将来像を描くための材料をここかしこで見出したということに違いない。とりわけ同じような島国であるイギリスの姿は深く印象に残ったようだが、一方で大工業国の裏側に存在する負の部分を見逃すこともない。人々が仕事のためにやたらせかせかしていたり(今の日本のよう)、煤煙がひどかったり、大資本家と貴族が産業を牛耳っていて貧富の差が激しい、などの現実には大きな問題を感じた様子。ただ驚嘆するだけではなく、日本ではどうすべきかというフィルターを意識し、日本人の意識や性格、日本の国土の特性・気候・自然条件なども考慮に入れながら沈着冷静に評価、分析してそれも記録に残してゆく。日本のあの時代にはやはり素晴らしい人材がいたということだ。
      それにしても、背が低く平たい顔をした人たちが気取ったフロックコートにシルクハット姿で各地の名士たちに接見していったわけで、まるでチンドン屋みたいだったのだろうと想像するだにおかしくなってくる。それでも各地で大歓迎されたようで、駅や港には大勢の物見客で溢れていたのだという。アジアの小国日本から来た人たちがよほど珍しかったのか、日本との友好関係を築くことに国益があって意識されたものだったのか。
      いずれにしても、当時の欧米各国の様子とともに、訪問団の当時の意識のほどが伺われて実に興味深い。各巻とも450ページ前後の分厚いものだが、残り3巻、詳しすぎるところは飛ばしながらでも、さてゆるりと読み進めて見ましょうかね。

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著者プロフィール

1839年(天保10)、肥前国、佐賀藩士の家に生まれる。藩校弘道館、昌平坂学問書に学んだ後、明治新政府に出仕。岩倉使節団に記録編纂係りとして随行し『特命全権大使 米欧回覧実記』5冊を編纂。後、歴史学者として帝國大学等で教鞭をとり、近代的実証史学、古文書学の領域を確立した。1931年(昭和6)没。

「2018年 『現代語縮訳 特命全権大使 米欧回覧実記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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