エネルギーの不都合な真実

  • エクスナレッジ
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784767812984

作品紹介・あらすじ

世界の石油はいつ枯渇する?原子力発電の経済性と安全性は?バイオ燃料や風力発電の将来性は?電気自動車、原子力、ソフトエネルギー、ピークオイル、二酸化炭素隔離、植物由来液体燃料、風力発電…広く流布しているエネルギー神話の「誤り」を科学的なアプローチによって解き明かし、今日の議論で抜け落ちがちな「現実」を提示する-将来のエネルギーのあり方を考えるうえで絶好の書。

感想・レビュー・書評

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  • 環境対策技術について、網羅的・カタログ的に書いた本が多いなか、この本ほど具体的に影響度が大きい順にその対策の実効性について書かれた本は見当たらない。何でも技術で解決できるバラ色の未来。ごく少しだけ有効性がある点だけを派手に報道するメディアようなことはせず、本当に現状はどの方向に向かっているのかを教えてくれる。
    ビル・ゲイツが新しい原子炉開発する必要を考えたのもこの著者の影響もあると思われる。ただ執筆されたのが2012年のため、IEAなどの資料で状況の変化を確認することが必要だと思う。

  • チェコ生まれの環境学部の教授がまとめた長期的なエネルギー施策(電気自動車、原子力、再エネ、ピークオイル、ガス等)の2010年時点の見通しで、現時点の各種数値および工学上の見解に基づいてまとめたもの。どの方式を組み合わせると、合理的なのかわかっていなかったので、参考になった。個人的に印象的だったのは以下。
    ・電気自動車。石炭・天然ガスの火力発電所で生み出した電気を使っているようであれば、化石燃料の依存度を低下できない。効果を上げるには、最高効率の複合発電、再エネ由来の電気にするしかない。
    ・原子力発電。管理された核分裂は、当初の期待(高速増殖炉)ほど、エネルギーを安価にできなかったが、CO2排出に大きく貢献できる。選択肢から外すべきではない。
    ・再生可能エネルギー。イデオロギーで進めようとしてはならず、長期的な選択肢は絞り込むべきではない。
    ・ピークオイル。昔から議論されていたが、予測不可能であり、安価な液体石油資源の減少は避けられないので、徐々にほかのエネルギー源に移行を進めていくしかない。ピークオイラーの予測は、正しい部分もあったが、極端な予測であったこともあり、世の中の議論に影響できなかった。
    ・二酸化炭素隔離。まずは1人当たりCO2排出量の増加を回避するためにあらゆる方策を講じるところからすべき、着手するのはそのあと。
    ・バイオエタノール。わずかなプラス面が過剰に強調され、多くのマイナス面が無視されており、非合理的施策。
    ・風力発電。資源自体は膨大だが、発電好適地は空間的に限られており、送電網に相当な先行投資が必要。前提が整うなら、将来重要な地位を占める可能性がある。
    ・エネルギー移行。古い資源の持続性・適応力のポテンシャルは高く、社会の技術的な基礎は10~20年では変えられず、インフラの切り替えに多大な費用がかかる。エネルギー関連のイノベーションには、ムーアの法則を適用できない。

  • バーツラフ・シュミル
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    エネルギーにまつわる言説に対し、非現実的なものの誤りを正し、生産的なアプローチに焦点を当てる。
    一次エネルギーの供給パターンは驚くほど変わってない。古い資源の持続性と適応力を過小評価してはいけない。
    エネルギーの供給と使用が根本的に変わるためには社会的政治的影響力が不可避だが、1つの選択肢を初めから優遇すべきではなく、理に適った選択肢はどれも排除すべきでない。
    電気自動車、ピークオイル説、再エネ、原子力、バイオ燃料、昨今話題のこうしたエネルギーの姿を変えうる存在について痛烈に否定している。しかし、これは2012年の本ということでパリ協定後の現在の情勢は反映されていない。
    確かにエネルギーの変化はゆっくりしか進まないという指摘は最もだと思うが、筆者の主張はやや感情的で冒頭で述べているように根拠がしっかりしているとは思えなかった。
    1つ響いたのは、今でも発電の7割は蒸気タービンによるものという事実、これは蒸気タービンを収益源とする弊社としては嬉しい事実。


    ◯未来は電気自動車のもの
    ・1890年代から存在する誤り。
    ・電気自動車の効率は良くない。発電所の平均効率は40%、所内動力と送電ロスを考慮すると30%。
    車に換算すると2MJ/km、16km/l。電源が再エネでないと意味がない。
    ・電力需要のピークを作らないよう、そこら中に充電ステーションが必要で途方も無いインフラ建設が必要。
    ・リチウムイオンバッテリーは自然放電する上、5年で30%劣化する。

    ◯原子力は測れないほど安い
    ・原爆投下の罪の意識を和らげるため、核分裂の平和利用を打ち出すことが必要で原子力発電の開発は50年代急速に進んだ。
    ・60~70年代に急速に広まった。
    ・70年代に規制が増え、コスト納期共にどんどん上がっていった。多くのプラントが完成せず放置された。
    ・チェルノブイリのような事故、放射線は当該国から風に乗って他国まで広がる。
    ・外的要因が適切に計算されず経済性には疑問符が付く。

    ◯ソフトエネルギーの幻想
    ・再エネは未だに全体のごく一部しか担っていない。

    ◯ピークオイル
    ・1870年代から石油の枯渇が叫ばれている。これは回収可能な石油資源埋蔵量はわかっていて固定という前提に基づく。実際には新たな油田は発見され続け、可採量も増えている。

    ◯二酸化炭素隔離
    ・植林:年間80トン(10%)を隔離するのに、北アメリカとロシアを合わせた分の植林が必要。
    ・土壌には待機中の2倍、植物内の4倍の炭素がすでにある。保全耕耘、被覆作物、輪作などにより貯留率を上げられる。
    ・バイオ炭: 土壌に混ぜると吸収する炭素量増える?よくわからん
    ・海水に鉄をばら撒き、植物性プランクトンを増産、ただし暖かい海でしか成功してない。
    ・玄武岩層への貯留
    ・橄欖山の炭酸塩化
    ・アルカリ化合物の膜を仕込んだタワーで空気中から抽出する
    ・CCS: EORとの相性もよく現実的、しかしコストが高いさぎ

    ◯植物由来液体燃料
    ・サトウキビ由来エタノール: 効率がガソリンの60%、熱帯でしか育たない、せめてガソリンの20%賄うのが関の山。
    ・トウモロコシ由来エタノール: アメリカが世界の生産量の半分、全量エタノール化してもガソリンの13%しか補えない。栽培にかかるエネルギーからみた収支比はわずか0.77、窒素により土壌汚染も引き起こす
    ・セルロース系エタノール: 作物栽培において残渣と穀粒の比率は概ね1:1。残渣の中で最も多い高分子を加水分解してグルコースにし、発酵させるとエタノールができる。
    しかしエネルギー密度が低く輸送費が高くつく、元来肥料として役割を果たしており無駄なものではない。

    ◯風力発電
    ・地上100mの風力シミュレーションを元に2.5mwのタービンを用いると、設備利用率20%で680PWh (78TW)
    ・地球の大気を循環させるのに必要な日射から算出可能
    ・地上11kmのジェット気流が最も強い風だが制御するのが極めて難しい。
    ・風力エネルギーの35%が地上1kmまでの範囲にある、この10%が利用可能とすると120TW

    ◯水力発電
    ・世界の流水の潜在エネルギーを100%利用できると12TW。
    ・効率や適する土地を考慮すると利用可能なのは14%
    ・経済合理的なのは8%、これは2009年までの導入量の3倍
    ・風力エネルギーの抽出が風の流れを大きく変えるため、間隔を広くとる必要があり、現実的には2W/m2程度。
    ・発電量は過大になったり過小になったりする。デンマークのように比較的持続性の高い風のフローがあればシェア40%が例外的に可能。
    ・大規模な送電網が必要、北西ヨーロッパやアメリカのような送電網がある程度あるもしくは整備可能で風が良く吹く地域で30%
    ・世界的には15%が関の山か。

    ◯エネルギー移行のペース
    ・エネルギー移行のペースは本来遅いもの。例えば、ニクソンやカーターが語ってきたエネルギーに対する見通しはことごとく外れている。
    ・石炭は1900年に95%、50年に60%、65年に石油に抜かれ、2000年に24%。しかし絶対量は増えているし、重要度はむしろ近年高まっている
    ・石油は商用生産が始まった1860年こら50年かけて10%まで増え、さらに30年かけて25%
    ・天然ガスは1900年の1%から20%まで増やすのに70年
    ・未だに世界の電力の70%は蒸気タービンによる
    ・ 1世紀以上かけて築いてきた巨大なインフラを容易に処分できない、惰性的な依存があり効率が多少低くても実績のあるものが選ばれる

  • バイオエタノールとか風力発電などの、世の中で提案されている様々な「新エネルギー」を切って捨てる本。語気が強い部分もあるが、数字的には、現状分析としてちゃんと検討されているように思える。じゃぁどうするの、という問いには、現状からゆっくりと変化するしかないんちゃう、未来は今とあんまり変わらないよ、というツレナイ答え。

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著者プロフィール

カナダのマニトバ大学特別栄誉教授。エネルギー、環境変化、人口変動、食料生産、栄養、技術革新、リスクアセスメント、公共政策の分野で学際的研究に従事。研究テーマに関する著作は40冊以上、論文は500本を超える。カナダ王立協会(科学・芸術アカデミー)フェロー。2000年、米国科学振興協会より「科学技術の一般への普及」貢献賞を受賞。2010年、『フォーリン・ポリシー』誌により「世界の思想家トップ100」の1人に選出。2013年、カナダ勲章を受勲。2015年、そのエネルギー研究に対してOPEC研究賞が授与される。米国やEUの数多くの研究所および国際機関で顧問を務める。これまでに米国、カナダ、ヨーロッパ、アジア、アフリカの400以上の会議およびワークショップに講演者として招待されるとともに、北米、ヨーロッパ、東アジアの多くの大学で講義をおこなう。日本政府主導で技術イノベーションによる気候変動対策を協議する「Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)」運営委員会メンバー。おもな著書に、『エネルギーの人類史』(青土社)、『エネルギーの不都合な真実』(エクスナレッジ)。

「2021年 『Numbers Don't Lie』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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