- Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
- / ISBN・EAN: 9784771012264
感想・レビュー・書評
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フォーヴィズムの代表的画家であるアンリ・マティスを、美術史のなかに位置づける試みをおこなっている本です。
著者は、マティスの比較的初期の絵画作品について検討をおこない、シニャックとセザンヌの影響のもとで彼の絵画の理念がかたちづくられていたことを明らかにしています。マティスがめざしたのは、素描の特質と絵画の特質の完全な一致であり、彼がシニャックの新印象主義から学んだのは、モザイク状の小色面によって絵画表面を科学的に構成する方法ではなく、絵画の構成要素である線と色彩の相対的な効果のとらえかたであったと著者は指摘しています。こうした観点から、著者はマティスの『生きる喜び』における造形的な表現に、とくに大きな意義を認めています。
また著者は、『画家のノート』に代表されるマティスの美術評論についても検討をおこなっており、マティスが評論活動を通じてみずからを絵画の伝統のうちに位置づけようとしていたことを明らかにしています。さらにガートルート・スタインとの交流に目を向け、マティスとピカソの美術史における運命の交錯に光をあてています。そのほか、マティスのブラック・アフリカ美術へのまなざしと、その後の「プリミティヴィズム」の形成について論じた章などもあります。
著者の博士論文がもとになっている本で、歴史的なアプローチによる手堅い研究です。とくにプリミティヴィズムをめぐってなされている議論は、たんなる絵画史を超えてヨーロッパ精神史における問題に拡張できるような視点がいくつか示されているようにも思えますが、著者の議論はあくまで謙抑的なスタンスを崩しておらず、個人的にはすこしもの足りなく感じてしまいました。詳細をみるコメント0件をすべて表示