京都学派の遺産: 生と死と環境

著者 :
制作 : 小川 侃 
  • 晃洋書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784771019478

作品紹介・あらすじ

人間環境と地球環境の間。

感想・レビュー・書評

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  • 京都学派の哲学が、現代の環境問題にどのように貢献しうるのかというテーマについての論文を収録しています。

    井上克人の論文「環境と人間」では、とくに西田幾多郎の哲学に、ディープ・エコロジーの限界を乗り越える可能性を見ようとする試みをおこなっています。彼は、自然を「調和」や「共生」といった美しいことばでとらえようとするディープ・エコロジーにおいては、「生命」の奥底に潜むさまざまな矛盾や葛藤が見られていないと批判します。一方、西田幾多郎の「絶対無の場所」という思想においては、禅に通じる側面をもちながらも、そこに安住することのない「矛盾的自己同一の世界」が考えられており、不断の露現的湧出と覆蔵的帰滅とが同時に働いているような世界のありかたが論じられていました。こうした西田の思想に、絶対に他なるものからの呼びかけに対する感受性につらぬかれた倫理への手がかりがあるという主張がなされています。

    安部浩の論文「現代日本において「共生」は何故かくも流行しているのか」では、わが国において「共生」という概念がたどってきた歴史的経緯を概観し、「いかなる存在者も、それ以外のあらゆる存在者との相違相続の関係においてのみ存在しうる」という仏教的な縁起の発想がそこに根づいていることが指摘されています。ただしこのような「共生」観は、自己主張や自己表現に基づく具体的行動を禁ずる役割を果たしてしまうという問題を孕んでいると著者は指摘し、そのうえで矛盾対立を含む現実の構造をあつかう山内得立の「レンマの論理」に、こうした問題点を克服する道を求めています。

    嶺秀樹の論文「田辺元と自然の問題」では、和辻哲郎の風土論を独自に発展させたA・ベルクと田辺元の哲学を対比しながら、風土に帰属する人間の倫理と、自由に行為する人間の倫理とを「媒介」する可能性を見いだそうとする試みがなされています。

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著者プロフィール

1949 (昭和24 )年 神戸生まれ。
1977 (昭和52 )年 関西大学大学院文学研究科哲学専攻博士課程修了
関西大学名誉教授 文学博士
専攻:宗教哲学・比較思想・日本思想
〔著書〕
 『露現と覆蔵─現象学から宗教哲学へ─』関西大学出版部 2003 年
 『西田幾多郎と明治の精神』関西大学出版部 2011 年
 『 〈時〉と〈鏡〉 超越的覆蔵性の哲学─道元・西田・大拙・ハイデガーの思索をめぐって』関西大学出版部 2015 年
〔編著〕
 『「大乗起信論」の研究』関西大学出版部 2000 年
 『豊饒なる明治』関西大学出版部 2012 年
 『朱子学と近世・近代の東アジア』(日本学研究叢書9)臺大出版中心 2012 年
 『近世近代日中文化交渉の諸相』関西大学東西学術研究所編 2017 年
 『東アジア圏における文化交渉の軌跡と展望』関西大学東西学術研究所編 2020 年
〔共著(共同執筆)〕
 『西田哲学を学ぶ人のために』世界思想社 1996 年
 『京都学派の遺産─生と死と環境─』晃洋書房 2008 年
 『『善の研究』の百年─世界へ/世界から』京都大学学術出版会 2011 年
 『道元と曹洞宗がわかる本』大法輪閣 2013 年
 『ハイデガー読本』法政大学出版局 2014 年
・ Komparative Philosophie der Gegenwart—Transkulturelles Denken im Zeitalter der Globalisierung
(Hrsg. Hisaki HASHI, Werner GABRIEL), Passagen Verlag, Wien. 2007 年
・ A ESCOLA DE KYOTO E O PERIGO DA TÉCNICA (org. Zeljko Loparic), DWW EDITORIAL,
São Paulo, 2009 年
・ Globalisierung des Denkens in Ost und West, (Hrsg. Friedrich G. WALLNER, HASHI Hisaki)
Verlag Traugott Bautz GmbH 2011 年
・ Kitarō Nishida in der Philsophie des 20. Jahrhunderts Mit Texten Nishidas in deutscher Übersetzung,
Verlag KARL ALBER, 2014 年

「2023年 『詩と哲学のあわい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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