自衛隊の経済学 (イースト新書)

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  • イースト・プレス
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784781650609

作品紹介・あらすじ

安保法制によって日本が戦争に突き進むといわれている昨今、では日本が実際にどれほどの戦力を持っているか、どこに重点的に予算を配分しているのかと聞かれて即答できる人は少ない。本書では、自衛隊への直接取材をライフワークとし、防衛産業についても造詣が深い気鋭のジャーナリストが、これまでメディアであまり語られることのなかった自衛隊と経済のカラクリを縦横無尽に解き明かす。「経済的合理性」で考えれば、安全保障のために日本が何をすべきかが、くっきりと見えてくる。

感想・レビュー・書評

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  • 桜林美佐さんの警告と、提言です。

    色々と気づかされることを述べられています。

    経済のなかに防衛は存在し、防衛は外敵から国民の幸福、すなわち経済そのものを守っているのです。

    現実的に恐れるべきなのは、万が一、日本が戦争に巻き込まれたとしても、何もできないことの方です。
    戦争によって多数の人が命を落とし、傷つき、人生を変えられてしまう。
    現在の日本には他国を侵略するような能力がないどころか、「専守防衛」すらも、人員面でも装備面でも十分にまかないきれません。
    国防力を整備し、戦争が起きないようにしていくことこそが国防と防衛経済育成の最大のポイントです。
    周辺各国は停滞を続ける日本の都合など構わずに経済成長を続け、それ以上の勢いで国防費を増やしています。このままでは差が開く一方です。
    軍事はリアリズムです。理想を語ることも大切ですが、いま、この瞬間の国防、安全保障は、徹頭徹尾、現実的に捉えなければならない事象です。
    いまケアしなければ、10年後の結果は見えているのです。
    防衛経済の正しい育成を通じてこそ平和と繁栄が保たれます。
    私たちは、いまの日本を生きるものの責任として、悪い事態を防ぐ努力をしなければなりません。

    桜林さんみたいに日本のことを思ってくれて発言・活動をされてくれている人がいてくれてありがたいですし、私も自分なりに日本のため、日本人のために生きなくてはいけないと思いました。

  •  FMSとかイージスアショアが何千億とか国産の装備を売るだとかいろいろテレビでやってるけど、防衛に関するお金って、市場の原理とか働かなそうだし国策が超絶深く関わるんだろうし、どうしてるのかなーと思って購入。

     最初に著者と経済評論家の対談が載っていて、大前提としてアメリカ主導の防衛ネットワークの中で、日本を中心としたアジア太平洋のネットワークを築くべきだというものがある。大東亜共栄圏と、メチャクチャ攻めたワードも使ってる。
     先日読んだ地政学の本では、トランプ大統領以後の本ということもあり、米中どちらに付くか、という選択肢もあった。素人目にはそりゃアメリカなのかなとも思ってしまうけど、日本が国家として老いてゆき小国となってゆくのだとすれば、韓国の歴史のように大国に対し軽いフットワークで臨む必要があったりするのだろうか。
     引っかかった点として……アメリカの属国扱いで大いに結構、ともあるけど、米軍の恩恵を受ける人はそれで良いかも知れないが、米軍の被害を受ける人もいるわけで。そうした反発を考慮せず文に起こしているあたり、あくまで保守的な読者のみを想定とした本なのかなと思った。左翼という言葉を何度も見たが、右翼という言葉は(たぶん)一度も出てこなかったし。
     過去の著作リスト見る限り自衛隊が好きで、自衛隊の立場に立ってその努力や抱えている問題を紹介することで、日本の国防に寄与したい!みたいなニュアンスは伝わるし、いいなとは思うけど、この特別対談は無いほうが良かったんじゃないかなと思った。本編が比較的落ち着いた筆で書かれていただけに猶更。

     肝心の本編の内容は、
    ①防衛産業の推進や武器輸出は平和に寄与するからやった方がいいこと
    ②日本の防衛産業は使命感等に頼ってるかなりヤバイ状態だから国策で維持すべきで、安全保障の担保という「利益」を考えたら、市場の原理にばかり任せるわけにはいかないこと。単刀直入に言えば防衛費を増やすべきだということ
    ③自国の防衛装備品はなるべく自国で賄いうべきだということ
    あたりが強調されているように思えた。
     先日、イージスアショアの基幹部品に国産半導体を使うことを断念するみたいなニュースがあった。いずもに載せる固定翼も米国産。悪意を持って言えば、米国の言い値でガンガン買わされてるだけなんじゃないのと疑ったりもできるかも。そうすると、本書で語られてるFMSの欠点にも、そうですねと思えてくる。
     日本独自の技術で云々と本書にあるけど、中国にスマホもロボットもあれもこれも抜かれて、技術大国だった日本は過去のものだよみたいなニュースもちらほら見る。防衛産業に限ったことではないけれど、ただでさえ資源に乏しい国家である以上、技術を蔑ろにしたら国として終わるんだろうな。
     
     以下、自分用の覚書。
    1章:日本の国防の歴史と一般知識。
    冷戦終了とアメリカ弱体化による北東アジアリスクの増大、対ソから対中への対象国対象国(仮想敵国)のシフト、専守防衛・集団的自衛権の制限・非核三原則・旧武器輸出三原則といった日本の特殊な事情の功罪(著者的には罪)などを解説。
    2章:防衛経済学の現状
     GDP比1%(他国は2%近くあり、日米同盟があることで一応この水準を維持できている)の防衛費において、人件費が4割以上を占めており、技術開発等に割けていないこと、防衛産業における輸出入はアメリカにおいてなおGDPの1%程度であり、経済的というより相互防衛力強化としての意味合いが強いこと、「相互独占」によるデメリット。そして、一般競争入札と原価計算方式が粗悪品を掴んだり防衛産業を支える企業に無理を強いるかたちになっていること、しかし公正さを確保することも同時に必要であることが語られる。
    3章:極めて厳しい防衛経済の実情
     国家と軍が企業を支援するのがグローバルスタンダードである一方、日本では企業が儲からない=持続可能でない体制ができあがってしまっている。原価計算方式は効率化やコストダウンを阻み、過大請求の動機づけとなる。
     自衛隊員も技術者も、自尊心や愛国心や誇りを糧にしているが、経済成長の鈍化した今、防衛分野以外で補填ができなくなれば企業は防衛に予算を割かなくなるし、仕事が人生のメインだという考えが後退する現代、やりがいがどこまで求心力を持つのか疑問である(それでも職務上の満足感は大きな意義がある以上、経済学的観点からもモチベーションの意地は極めて重要なことは間違いない)。
     また、FMS(有償軍事援助)調達も自国の産業発展を阻害し、研究開発費も圧迫する。
     談合などの不祥事は悪いことではあるが、防衛産業への無理解や無理な制度による歪みにより引き起こされた当然の結果という見方もできなくはない。そもそもの制度を見直すことが解決策である。
    4章:3章を踏まえ、防衛経済は今後どうあるべきか
     防衛経済の活性化は、同盟関係や協力関係を高め、ひいては安全保障の担保することに繋がる。輸入に頼っても、アメリカが今後どうなるかは分からない。日本独自の技術があるからこそ、コスト面だけでない強固な補完関係が生まれる。
     イギリスのサッチャー政権時代に技術が途切れてしまったことに学び、発注を続け、できずとも研究開発だけでも継続させねばならない。
     武器輸出は戦争の拡大になるとは限らず、方法しだいで平和に寄与する。技術流失には留意しつつ、リスクを認識した上で、厳格な管理体制を備えた大胆な路線変更が必要になる。
     儲からないのが当たり前、から脱却し、3章で触れたような、愛国心や使命感への過度な依存から脱却する。
     作者は、以上を踏まえて今後のビジョンを提示する。
     競争原理から脱却し、防衛省と防衛産業側の双方が実りある関係を構築する。重要分野の選定は当然防衛省が主体となるが、その装備調達のプロである人材を育てる。防衛装備庁と共に、経産省や外務省等を巻き込み、輸出戦略を練る。産業の横断的監督、技術管理、人材育成、基礎研究や中長期的構想開発。特に、日本の産業基盤をフル活用するために、産官学の連携に力を入れる。などなど。
     

  • 自衛隊、国防を防衛費とその使い方から分析。現役自衛官や装備を供給している側のインタビューが入っていれば…と思います。

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著者プロフィール

桜林美佐(さくらばやし みさ)防衛問題研究科
昭和45年生まれ。東京都出身、日本大学芸術学部卒。防衛・安全保障問題を研究・執筆。2013年防衛研究所特別課程修了。防衛省「防衛生産・技術基盤研究会」、内閣府「災害時多目的船に関する検討会」委員、防衛省「防衛問題を語る懇談会」メンバー等歴任。安全保障懇話会理事。国家基本問題研究所客員研究員。防衛整備基盤協会評議員。著書に『日本に自衛隊にいてよかった ─自衛隊の東日本大震災』(産経新聞出版)、『ありがとう、金剛丸~星になった小さな自衛隊員~』(小社刊)、『自衛隊と防衛産業』(並木書房)、『危機迫る日本の防衛産業』(産経NF文庫)など多数。趣味は朗読、歌。

「2022年 『陸・海・空 究極のブリーフィング - 宇露戦争、台湾、ウサデン、防衛費、安全保障の行方 -』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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