コロポックルとはだれか――中世の千島列島とアイヌ伝説 (新典社新書58)
- 新典社 (2012年4月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
- / ISBN・EAN: 9784787961587
作品紹介・あらすじ
ただのおとぎ話と思われがちな、フキの下に住む小人「コロポックル」の伝説。しかし、日本の中世説話やアイヌのカムイ・ユーカラなど様々な史料をもとにコロポックルの原像をたどっていくと、そのモデルともいうべき北千島アイヌの成り立ちと、かれらの変わった習俗が浮かび上がってくる。小人伝説の謎解きをしながら、知られざるアイヌの歴史、また中世千島の実像にも光をあてる、新しいコロポックル論。
感想・レビュー・書評
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アイヌに伝わる小人伝説はおとぎ話ではなく、実在した集団の記録ではないか?という本。明治期に唱えられたコロポックル先住民説、石器時代人説は、多くの批判を浴び、その後はおとぎ話の存在でしかなくなってしまっていたが、著者は伝承を丹念に検証し、いわゆるコロポックルは、北千島アイヌではないかと推測する。
小人伝承は江戸時代から数多く採録されていて、内容や呼び名はかなり多様だが、名称はざっくり以下の3タイプに分けられる。
1. 竪穴住居に住む人(神)を意味する名
2. フキの葉の下の人(神)を意味する名(コロボルグルカモイなど)
3. 千島の人を意味する名
1.は主に道東で採録され、これが小人伝承のうち一番古いタイプであり、その後伝承が全道に伝わるに連れて2の呼び名になっていったらしい。
小人の記録が一番詳細なのは、1662年の『勢州船北海漂着記』で原型に近いと考えられ、そのモチーフは以下の通り。
・小人は本島から100里も離れた「小人島」に住む。
・その島にはワシが多くいる。
・小人は土鍋作り用の粘土を取るため、船でやってくる。
・アイヌが脅すと小人は身を隠す。
これらの特徴は北千島(北方四島以外の千島)のアイヌに見られる。(北海道の歴史でワシとは一般にオオワシの指し、その羽根は重要な交易品だったが、北千島に多い。)
アイヌと北千島アイヌは容貌も違い、言葉も通じなかったため、沈黙貿易(接触を避け、物を置きっぱなしにした交易)を行っていた形跡があり、この交流形態が伝承の元となったらしい。そして、北千島アイヌがモデルとかんがえられる一番の理由は、北海道から南千島まで広く広がっている小人伝承が、北千島のアイヌの間では知られてないことで、これは彼らにとって小人が異人ではなく、自分たち自身のことだからでないか?と考えられる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
明治期に坪井正五郎らによって繰り広げられた日本人の起源に関する人類学の論争(コロポックル論争)以来、学術的には等閑に付せられていたアイヌ伝承の小人=「コロポックル」伝説を再検証した書。近世までの文献史料・考古史料の分析から、コロポックルは中世の北千島アイヌの姿を反映していると推定し、その伝説の成立時期を15世紀頃に見立てている。鉄器や平地式住居の伝播のタイムラグから、当時の北千島アイヌと北海道アイヌとの間には文化的断層があり、竪穴住居や土鍋を用い、直接コミュニケーションを忌避する(「沈黙交易」)前者は後者にとって「異人」であったことが伝説につながったとする(アイヌの中で北千島アイヌのみ小人伝説が伝承されていない)。なお現在のステロタイプな「ふきの下の小人」像は当初の伝説にはなく、近世以降に抽象化・神秘化の過程で付加されたものだという。少ない史料を丁寧に読み込み、整合性のある立論だが、アイヌ以外の千島先住民(アリュートやカムチャダールら)の「可能性」についてもう少し吟味する必要があろう。
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面白かったです。