ひとりぎみ: 太子堂純物語 (ヴィレッジブックス edge ス 1-1)

著者 :
  • ソニ-・ミュ-ジックソリュ-ションズ
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784789728232

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  •  アマチュアバンド「シンギン・イン・ザ・レイン」のギタリスト太子堂純は、ミュージシャンになるという夢を胸に故郷福岡を飛び出し東京・三軒茶屋のボロアパートでひとり暮らしをしている。
     ツキもカネもなく、近所の喫茶店でバイトをしている女の子ユメちゃんにひそかに想いを寄せるもその想いはいつも空回り。どうもパッとしないショボクレ青年だけど一途で純情でお人よし。そんな純の前に突然ヒツジのお面を被った少年が現れた。純のギターの大ファンだという少年はラムと名乗り、純の部屋に勝手に住み着いてしまうのだが…。

     山下祐樹とSJRによるユニット「Lambsey(ラムジ)」。そのラムジが出演し井上卓監督により制作されたショートフィルム「ひとりぎみ ~太子堂純~」を杉江松恋が小説化したのが本書である。
     ショートフィルムの方はアルバム『ラムレンジャー』についているDVDで観ることが出来る。

     主人公・太子堂純は頼りない奴なのだが、とにかく優しくてイイ奴!読んでるこっちが恥ずかしくなるくらい純情で不器用なんだけど、応援せずにはいられない男である。
     そんな純の前に現れた謎の少年ラムは、なぜか純とユメちゃんをくっつけようと立ち回るのだがなかなかうまくいかない。途中バンドにまつわるトラブルに巻き込まれたりしながらも奮闘するラム。終盤明かされる彼の正体とその真の目的はなかなか胸を熱くさせるものだ。
     ちっともツイてなくても、全然お金がなくても、自分が本当に好きな事を続けられて、本当に好きな人と一緒にいられたらそれだけで人生は最高じゃない、と、そんな当たり前だけどなかなか難しいことを再認識させられた。

     ショートフィルムの方は、まあラムジのプロモーションビデオみたいなものである。いかにも低予算で制作されたのが見え見えだし、太子堂純を演じる山下祐樹も本職の俳優ではないのでまあ演技力も求めるべくもない。
     それでもフィルムの力はすごいと感じたのは、彼らの歌を聴く事ができるという点である。小説ではどうしても音を聴かせることはできないからこの点は映像の力にはかなわないだろう(もっとも、それでも杉江松恋の文章力は素晴らしい音楽の包み込むような心地よさを情感豊かに伝えている)。

     そんな訳でラムジのファンならラムジの歌が聴けるフィルムだけで十分満足なのかも知れないけど、やはりここはぜひ小説の世界でどっぷりと太子堂純の物語に浸って欲しい。映像では表現できなかった細かいディテールや世界観が楽しめるから。そしてその世界はきっとラムジの純朴で優しい歌の世界と重なり合う。

     何事もうまくいかなくて、思ったとおりにいかなくて、思い切って飛び出すこともできず、気がついたらいつも自分の部屋でひとりぎみ。でも君を、君の音楽を求めている人がすぐ側にきっといる。ヒツジのお面を被った少年がそう教えてくれた。

     三軒茶屋のローカルな地名がバンバン登場し、三茶のオシャレだけどどこか素朴な雰囲気をたっぷり伝えてくれる。三茶に住む人ならきっと情景が手に取るように浮かぶのではないか。
     音楽から生まれた温かいラブストーリー。読後の後味の良さは最高。

  • バンドでうまくギターの弾けなかった純。レンタルビデオで見たくないアダルトビデオを借りてしまい、天使のような女の子のいる喫茶店で、そのビデオを置き忘れ。取りに戻ったら、その娘にプッとふきだされ、たまたま手にした大人のおもちゃをその喫茶店のマスターの前で落とし...。そんな純のところに、ラムという羊のヘルメットをかぶった少年がやってきた。<BR>
    公園にいる、自称かみさまに1530円払って3回願いをかなえてくれる未来棒をもらい、行った先が、過去。和製バック・トゥ・ザ・フューチャーといったところか。対象年齢が中学生に思えるのだが。
    2006.5.17読了

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著者プロフィール

東京生まれ。慶応義塾大学卒業。文芸評論家、書評家。著書に『読み出したら止まらない!海外ミステリーマストリード100』『路地裏の迷宮踏査』、『ある日うっかりPTA』など多数。

「2020年 『本格ミステリの本流』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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