- Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
- / ISBN・EAN: 9784790706649
感想・レビュー・書評
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P17「本音を言わないというのは、今の言葉で言うなら自己韜晦の作家です。自分というものをちっとも表に出さない。心の中をちっとも見せないのです。時代が違ってしまうが、芥川龍之介という人を考えてみる。龍之介という人もちょっと似たところがあります」
P20「ものすごく寂しい人、孤独、孤愁といってもいい。徹底的孤愁です。ここに書かれている世界は現実の世界ではない。みんな作られた世界です。あくまでも作りだした世界でしょ。じゃあ、現実ではないものを描いているというのはどうしてかと言えば、虫麻呂がいま憧れている第二の現実です。この現実ではない、もうひとつ向こうの現実です。虫麻呂が作った現実です」
P132「ほかの人はみんな、あることにぶつかって、事実、恋しいから恋しいとうたい、いい景色だからいい景色だなとうたう。虫麻呂は全然違う。物語作家です。後でいえば小説家になるような人」
P179「万葉時代は、きけこそとのひへみめよろ、というのは二つの発音があって、ちゃんと区別していた。甲類の発音、乙類の、どういうふうに発音したか分からないが、ちゃんとそれは万葉人が字を書くときに区別しているのです」
P196「歌だから正倉院の中に入っていないけれど、これは、正倉院御物です」
あと、「山上憶良からしたら死刑に値する」という言い回しが頻繁に出てきておもしろかった。
虫麻呂はロマンティシストであり、現実に第二の現実を重ねて描いていることがよく理解できた。自分の恋は書かないのに、伝説世界の恋を描く。時所といった現実をしっかり定義することで、夢と耽美の世界へ入っていく。まさに早すぎた物語作家だろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示