5分後に起こる恐怖 世にも奇妙なストーリー 鏡凪町の祟り

  • 西東社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791626304

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  • 知らぬまに、あらゆるものが逆さになっている鏡凪町。それは、地蔵の首だったり看板だったりと一貫性はない。少しずつではあるが、鏡凪町は変化し続けている。その昔、御神体の鏡が割れてしまったその日から……。
    ***
    昨日読み終えたシリーズ「世にも奇妙なストーリー」の第二弾。今回は前回の百壁町から舞台を移し、海辺にたたずむ鏡凪町。この町には鏡をご神体として祀っている神社がいくつか存在していた。その神社には邪なものをうつし浄化する鏡や、良くないものを跳ね返す力のある鏡などがあり、大切に保管されていた。しかし、ある日、友人の病を治そうとその鏡の一枚が持ち出され、謎の力で破損してしまったその日から、この町では物が気づかぬうちに逆さになったり、変なはやり病や妙なことが起こり始めた。それは想像を絶するような恐怖体験ばかり。今回は全体的に恐怖度が上がっていたような気がする。人間が怖い話もあったし、色々な怖い話が詰まっていた。 お気に入りの話は「集合写真」「ドアの向こう側から」「ボーリング場」「サカサのサカサ」。「集合写真」は母親の中学生の頃に顔がそっくりだといわれ続けており、本当にそっくりなのか確かめることに。かつて語り手と同じ中学校に通っていた母親はアルバムを見せてくれないので、仕方なく図書室で過去のアルバムを閲覧する語り手。該当するであろう学年の集合写真を調べていると、背景となっている校舎の窓に奇妙な影を発見する。この学校の生徒がどうやら映り込んでしまったらしい。横顔なのでどんな人物か分からないが、気にも留めず次のページをめくると映り込んだ人物がこちらに笑いかけているように感じた。予想外の展開に、驚く語り手。たまらず次のページをめくると、そこには映り込んだ人物はいない。やはり映り込みなのだと、安心してページを元に戻すと、そこには……。 写真と現実が共鳴するホラー。写真に写る少女と思しき影が語り手に迫る。この幽霊は人間的な実体を持たないようで、『足が横を向いたときに消えた』、という描写は最高。写真に写るそのままが来たという事なのか!と一人で感動した。隠れたはいいものの、うっかり見つかってしまった語り手。失神の後這う這うの体で帰宅するも、そこにもアルバムが……。 なんでこの幽霊はこんなにもこの語り手に執心するのか不思議だったが、理由はすでに話されていた。過去にこの幽霊と母親の間に取り交わしがあったのは構わないのだが、勘違いで巻き込まれた方の身にもなってほしい。「ドアの向こう側から」はなかなか恐ろしい展開だった。この町にある噂に否定的な態度をとる語り手。サカサの世界の住人。つまりあの世の人間なんかいないと否定したところ、玄関のドアの方からノックの音が。時刻は午前二時、草木も眠る丑三つ時。そんな時にノックをしてくる物なんて、人間だったにせよそうじゃないにせよ、ロクなものじゃない。異様な雰囲気に自室に逃げ帰る語り手であったが、翌日から更にエスカレートし、恐ろしい目にあうことになってしまう。 最後の展開もさることながら、そこに至るまでの話も結構怖い。サカサの世界の住人を否定してしまった事により引き起こされた悲劇。であるのだが、幽霊否定派はかなりこの世にいるのに、ピンポイントで攻撃されるっていうのはひどい。この町でその手の発言をすることがNGなのかしら……。それにしても、得体のしれないものがノックしてくる怪奇現象というのはなぜこんなにも恐ろしいのか。しかも、勇気を振り絞って立ち向かったのに、火に油を注ぐ結果となってしまった。でも、あのまま大人しくしていても同じことになっていたのかしら……。ラストは語り手の変わり果てた姿を発見した人間からどうなったかが知れたが、凄まじい最期だった。「ボーリング場」は心を抉られるようなホラー。語り手のクラスメイトが失くしたと思っていた算数のノートをどこからか拾ってくる。何処にあったのかと聞くと、廃業したボーリング場の前に落ちていたらしい。なんでそんな所に落ちていたのかと訝しみつつ、ノートを開くと、中には語り手宛ての手紙がつづられていた。読んでみると、どうやら語り手の友人からのものらしい。しかし、覚えがない。手紙を読み進めていくと、廃業したボーリング場で手紙の差出人が体験した、異様という言葉ですら生易しすぎる恐怖体験が克明につづられていた。この話は異様の一言に尽きる。脳で理解しようとしても理解が及ばない。何故そんなことが起こるのか全く分からない。人間の理解の範疇を超えている。非常に悪意のある超常現象だった。たまたまそこに行ってしまった人間がこの怪異の毒牙にかかるのだろう。しかし、その怪異の本質がまったく見えない。何のためにそんなことをしているのか、因果関係は何なのか。そこにある物体たちはいったい何なのか。何一つとして明かされないからこそ、恐怖度が増す話だった。「サカサのサカサ」は苗字に鏡の字が入る男子だけが得られる特権。誰もが一度は憧れる異世界の冒険。それは、この町にあるサカサの祟りを利用した遊びだ。町の表札がひっくり返る時、神社の鳥居が異世界の扉となる。鳥居をくぐった先は、自分たちが住む町と左右が逆さになった不思議な世界。その先には特に化け物がいるわけではなく、地形も含め左右が逆さになる。時間内に出れば特に危険があるわけでもなく冒険にはもってこいだ。ある日、いつもの通り冒険に出かけると、いつもより制限時間が過ぎるのが早い。一緒に冒険に入ったうちの一人が突っ走っていってしまい、呼び掛けてもなかなか帰ってこない。一同は焦っていたが、寸でのところで帰ってきた。安心したのも束の間、最後に帰ってきた友人のキーホルダーが入った時とは左右逆さについていた……。この話は、最後に絶望した。途中不穏な空気のシーンはあったのだが、最後が絶望的過ぎて嫌だった。途中別グループとの摩擦は感じていたが、まさかそんなことをするとは。しかも相手はあんまり重大なことをしたという意識がないようだ。相手は単になんでもない悪戯だと思ってやっているので明るい雰囲気だが、仕掛けられたほうは今も恐ろしい目にあっている。その対比がより絶望を掻き立てた。最後絶望のまま終わっていったが、悪戯を仕掛けた相手が真実を知った時どう思うのだろう。一生悔やむだろうなぁ。今回の感想には取り上げなかったが、海辺が近いからか海洋生物系のクリーチャーが多く出てきた。深海でじっとしている生き物のように、ぬらぬらとしてテロテロとして気持ち悪い感じのクリーチャーが多い。

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著者プロフィール

黒 史郎 (くろ・しろう)

小説家として活動する傍ら、実話怪談も多く手掛ける。「実話蒐録集」シリーズ、「異界怪談」シリーズ『暗渠』『底無』『暗狩』『生闇』『闇憑』、『黒塗怪談 笑う裂傷女』『黒怪談傑作選 闇の舌』『ボギー 怪異考察士の憶測』『実話怪談 黒異譚』『川崎怪談』ほか。共著に「FKB饗宴」「怪談五色」「百物語」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『未成仏百物語』『黄泉つなぎ百物語』『ひどい民話を語る会』など。

「2023年 『横浜怪談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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