吉野弘全詩集 新装版

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  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (957ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791720941

作品紹介・あらすじ

生の傷みを透明な表現にすくいあげ、にんげんであることの哀しさを、みがきぬかれた優しいことばに結晶させ、鮮かな抒情の音をひびかせる、吉野弘の全詩業を集大成。

感想・レビュー・書評

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  • <詩集から>

    生命は

    命は
    自分自身だけでは完結できないように
    つくられているらしい
    花も
    めしべとおしべが揃っているだけでは
    不充分で
    虫や風が訪れて
    めしべとおしべを仲立ちする

    生命はすべて
    その中に欠如を抱き
    それを他者から満たしてもらうのだ

    私は今日、
    どこかの花のための
    虻だったかもしれない
    そして明日は、
    誰かが
    私という花のための
    虻であるかもしれない



    祝婚歌

    二人で睦まじくいるためには
    愚かでいるほうがいい
    立派すぎないほうがいい
    立派すぎることは
    長持ちしないことだと気づいているほうがいい
    完璧をめざさないほうがいい
    完璧なんて不自然なことだと
    うそぶいているほうがいい
    二人のうちのどちらかが
    ふざけているほうがいい
    ずっこけているほうがいい
    互いに非難することがあっても
    非難できる資格が自分にあったかどうか
    あとで
    疑わしくなるほうがいい
    正しいことを言うときは
    相手を傷つけやすいものだと
    気付いているほうがいい
    立派でありたいとか
    正しくありたいとかいう
    無理な緊張には
    色目を使わず
    ゆったり ゆたかに
    光を浴びているほうがいい
    健康で 風に吹かれながら
    生きていることのなつかさしさに
    ふと 胸が熱くなる
    そんな日があってもいい
    そして
    なぜ胸が熱くなるのか
    黙っていても
    二人にはわかるのであってほしい






                 縦一列の高層ビル「竹」
       光も入らない円筒形の部屋ばかり
              かぐや姫のほかは
     誰も住まわせたことのないのが誇りです




    秋景

    赤いコスモスの花に
    蜻蛉がとまってるね
    絵になってるね
    俳句なら
    秋の季語が二つに重なっている構図で
    即座に、駄句の判定が下るけれど
    自然の風物は幾つ重なっても
    駄句にはならないね
    蜻蛉とコスモスの他に
    秋風や、なんて、季語をもう一つ加えたら
    俳句は、もう滅茶苦茶だが
    自然の風物は幾つ重なり合っても
    駄句にならないね
    不思議だね
    俳句様には申し訳ないような
    選り好みなしの自然だね

  • 詩を読んで涙が出たのは初めてでした。

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著者プロフィール

1926-2014 詩人。山形県酒田市生まれ。代表作は「夕焼け」「祝婚歌」など多数。校歌・社歌も多く作詞。詩集に『贈るうた』『夢焼け』『吉野弘全詩集』など。読売文学賞詩歌俳句賞、詩歌文学館賞受賞。

「2015年 『吉野弘エッセイ集 詩の一歩手前で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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