日本美を哲学する あはれ・幽玄・さび・いき

著者 :
  • 青土社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791767212

感想・レビュー・書評

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  • 大西克礼をはじめ、近代以降の日本の美学者や思想家の説を参照しながら、日本の美意識と芸術についての考察をおこなっている本です。

    本書は二部構成となっており、第一部では「あはれ」「幽玄」「さび」「いき」という四つの美的価値観を表わすことばをめぐる議論が展開されています。著者が直接依拠しているのは、近代日本の美学者である大西克礼ですが、唐木順三、大森荘蔵、井筒俊彦、九鬼周蔵といった思想家たちの議論も随時参照しながら、それぞれのことばに込められた意味について論じています。著者は、「あはれ」論は世界の本質をどのように認識するかという問題であり、「幽玄」論は世界をどのように超越するかという問題であり、そして「さび」論はいったん離脱した世界をどのように回復するかという問題であるといいます。また「いき」論は、自己のうちに「無」を抱えた存在であるわれわれが、それにもかかわらずどのようにして他者との開かれた関係をもつことができるのかという問題だと論じられています。

    第二部では、茶の湯、建築と庭園、演劇、仏像といった芸術の諸ジャンルについての議論がなされています。もっとも、それぞれのジャンルについて概論的な説明がなされているのではなく、建築論では和辻哲郎の『桂離宮』がとりあげられ、演劇論では近松門左衛門の『曾根崎心中』があつかわれており、芸術をテーマとする著者の独立した論考として読むことができる内容になっています。

  • 2017.7.24
    思った以上の面白かった。もののあはれ、幽玄、さび、いき。共通して言えるのは、そこには一つの形があるのではなく、無を介入することによる曖昧さがあるということ、そして日本人は、マイナスの価値から反転させてプラスの価値を見出してきた、ということである。
    もののあはれは、苦しみを契機として世界の形而上学的な本質に到達することである。それはフッサールのいうような間主観性による本質ではなく、個体的本質への希求である。
    幽玄は、すでに形あるものを曖昧にすることで、つまり無を介入させることによる美の追求であり、異化作用の一つのようにも思える。ここ最近、言葉にすることそのものによって失われる何かがあることを考えているが、人間の心はどうやらそういうものらしい。
    さびもまた、退廃、侘しさの中に、時間的なマイナス化に対してプラスの価値を見いだすことである。それは老朽化した建物や、老人に感じる、シワと傷の美しさということもできる。
    いきはこれらとは違い人間関係の美学である。そこには、求めながら決して合一することのない、可能性の中にとどまり続ける心性がある。無の介入とはつまり、この可能性の中にとどまり続けることを意味するのかも知れない。
    個体的本質、可能性の中にとどまり続ける、価値の反転、これらの思考法は私にとって新鮮であり、西洋的理性主義に対する一つのアンチテーゼのようにも思える。頭の論理ではなく心の論理。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784791767212

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著者プロフィール

(たなか・きゅうぶん)
1952年生まれ。東京大学文学部倫理学科卒業、同大学大学院博士課程 修了。文学博士。現在、日本女子大学教授。専攻は倫理学、日本思想史。 著書に『九鬼周造――偶然と自然』(ぺりかん社、第 1 回中村元賞受賞)、『丸山眞男を読みなおす』(講談社選書メチエ)、『日本美を哲学する―― あはれ・幽玄・さび・いき』(青土社)『日本の哲学をよむ――「無」の 思想の系譜』(ちくま学芸文庫)、『象徴天皇を哲学する』(青土社)、編著に『甦る和辻哲郎――人文科学の再生に向けて』(ナカニシヤ出版)、『再考 三木清――現代への問いとして』(昭和堂)、『近代日本思想選 九鬼周造』(ちくま学芸文庫)など。

「2020年 『西田幾多郎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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