民事訴訟法重要問題講義 (上)

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  • 成文堂
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784792321963

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  • 民事訴訟では一部請求・残部請求が認められるかという論点がある。原則論として私的自治から一部請求は認められるべきであり、処分権主義から一部請求訴訟の既判力は一部請求の部分にのみ及ぶに過ぎず、一部請求が明示されようとされまいと、後訴で残額部分を請求することは可能である(木川統一郎『民事訴訟法重要問題講義(上)』(成文堂、1992年)306頁、村松俊夫「金銭債権の一部請求」法律時報29巻4号(1957年)46頁、小山昇『訴訟物論集』(有斐閣、1966年)67頁)。現実問題として債権総額の確定は困難であったり、勝訴の見込みが不確実であることはあり、一部請求をすることには合理性がある。
    残部請求は裁判を受ける権利の問題である。「損害の本来的な回復を求める被害者に対して,高額な訴訟費用の負担を要求し,支払えないので便宜的にした一部請求を否定するのは,国民の『裁判を受ける権利』(憲32条)を否定するものといえるのではないだろうか」(小林秀之『民事訴訟法がわかる 初学者からプロまで第2版』(日本評論社、2007年)72頁)。
    残部請求の議論は瀬木比呂志「機能的民事訴訟法学・法教育の試み」明治大学法科大学院論集15巻(2014年)が明快である。「一部請求後の残部請求については,これを許し,不当な後訴は信義則で一元的に調整する学説が最もすぐれており,また,具体的にも妥当といえる」(78頁以下)
    瀬木論文の明快さは市民にとっての分かりやすさを議論の出発点としているためである。「市民にとってのわかりやすさという観点からみても,あなたは100万円しか請求しなかったけれども,実は訴訟の対象は債権全体だったのだから,残部請求はできませんよ」という理屈は説得力に之しくはないか」(77頁)
    残部請求を認めない不合理として以下のように指摘する。「第一審で請求が全部認容された場合については,一部請求後の残部請求を認めない考え方を採る論者は上訴の利益を認めるであろう(つまり,原告は当該訴訟の中で拡張を行うことが可能である)し,それが期待されているともいえよう。しかし,控訴審で初めて請求が認容されたような場合には,原告としては後訴によるほかない」(78頁)。前訴は控訴審で請求が認容された場合である。
    判例で残部請求を認めた例として、前訴で予見できなかった後遺症に対する賠償を後訴で請求する場合がある(最判昭和42年7月18日民集21巻6号1559頁)。予見できないという点では控訴審で請求が認容された場合も同じである。
    一部請求否定説は被告の応訴負担や裁判所の再度の訴訟の負担の回避を根拠とする。これを正当化するためには当事者の手続保障が前提である。本件は「控訴審で初めて請求が認容されたような場合には,原告としては後訴によるほかない」ケースであり、手続保障の前提を満たしていない。そして「控訴審で初めて請求が認容されたような場合」の残部請求は前訴の判決文に基づいた内容であり、裁判所の審理負担はない。
    明示的に一部請求した場合のみ残部請求を認める形式論がある。しかし、一部との明示があるだけで直ちに被告の要保護性を考慮する必要がなくなるとはいえない。必ずしも原告の分割請求が正当化されると考えることもできない。やはり信義則で一元的に調整する学説が優れている。

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