文庫 日本1852: ペリー遠征計画の基礎資料 (草思社文庫 マ 1-1)

  • 草思社
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794222206

作品紹介・あらすじ

ペリー来航前に大英帝国の歴史学者が書いた「オール・アバウト・ジャパン」。米英が恐るべき精度で日本のことを把握していたことがわかる最重要資料の初の全訳。

感想・レビュー・書評

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  • 読み終わったというか、実はあまりに興味深く面白い内容ばかりで、二度ならぬ三度読みをするほどの書籍となった。これほど一冊の本にのめり込んだのも、最近では記憶がないほど。読み始めの時にも書いたけど、この本は性別は問わない事はもちろん、いろんな分野の人が読んでも非常に興味深い記述が多くあるのではなかろうか。現代の日本というか、「今そこに起きている」数々の事件・事象の根本にある要因が散りばめられていると言っても過言ではない。こんな本にぶち当たるから読書はやめられない(^^)

  • ・私の関心に関はる些末なことから始める。チャールズ・マックファーレン「日本 1852 ペリー遠征計画の基礎資料」(草思社文庫)の 最後は日本文化に関する章である。ここに「弘法大師の秘薬」といふ節がある。この秘薬、「粉末は死者の耳、鼻、口に注がれる。すると硬くなっていた身体が驚くほどに柔らかくなった。」(335頁)これは「ドシア(dosia)」といつて「水銀をベースにした伊勢白粉〈塩化第一水銀〉ではないかと思われる。」(同前)とある。伊勢白粉は昔から有名で、確かに水銀を含む。白塗りを続けた役者が水銀中毒になつたといふ話が昔はよくあつた。しかし、これは白粉ではない。注にもあるやうに、これはお土砂と言はれる「秘薬」である。ドシア、dosiaは土砂の音写であらう。しかし、これを書いた人物がお土砂を知ら ずに伊勢白粉としたのである。本書の副題は「ペリー遠征計画の基礎資料」である。そんなものにお土砂が必要かと思ふ。この最後のあたりではごく大雑把に日本の文化状況に触れてゐる。その科学分野の記述としてこれがある。ここでの結論は「この国では化学はそれほど発展していない」(337頁)である。つまり さういふことであつた。しかし、これに続く植物学や天文学は「相当に発展している。」(338頁)といふ結論とならう。このやうに、本書は当時の日本の国情をかなり分析的に正確に記してゐる。最初に歴史や地理の記述があるのだが、こちらは記紀で日本の歴史を描いたりしてゐるので、現在の私達からするととても正確とは言へない。文献に頼るしかない記述の、そして時代の限界であらう。それに対して、当時の文化状況は現状分析である。音楽は三味線中心の短い記述だが、これなどは外国人の接する機会の多かつた芸者のことではないかと思はれる。「同伴の女性には必ず三味線を持たせる。男たちは乾杯を繰り返しキセルの 煙草をふかし、女たちはかわるがわるに三味線を演奏し云々」などといふのは酒宴の席しか考へられない。これも外国人ゆゑの限界である。
    ・こんな記述もある。日本では「盗賊の心配がないのだ。これは厳しい法律のおかげでもあるのだが、それだけではない。日本人は誇り高い民族であり、騙したり、横領したり、盗んだりする行為をひどく軽蔑するのだ。この点が支那の人々と日本人が全く違う点だといえる。」(299~300頁)あるいは、「一般論 だが、日本の製品の出来栄えは頑丈さ、安定性、仕上げの良さで支那の製品を上回っている。」(290頁)これなどは所謂爆買ひの源を教へてくれてゐるかのやうである。今なら日中比較文化論とでもいふところ、同様の記述は他にもいくつかある。「もし農業を文明の尺度とすれば、日本は少なくとも東洋ではナン バーワンだろう。」(273頁)といふのも観察しての分析であらう。そんなこんなで、「これ以上、日本人に対する賛辞の記録を繰り返さない。」(327 頁)といふほど、ペリー来航以前からこの種の記録が多くあつたらしい。そこに「権力の二重構造」(「文庫版のための訳者まえがき」6頁)が加はる。皇室と 幕府である。この両者の関係を理解してゐたがゆゑに、ペリーは1度目の来航で再訪の意志を伝へただけで去つたといふ。限界はあるものの、それなりの日本理解のうへでの来航であつた。開国に対するかういふ視点は私にはなかつた。その意味で本書は実におもしろい書であつた。ペリーはこんなふうに日本を見ながら開国要求をしてゐたのだ……単純だが、こんなことも日本が西洋列強の植民地とならずにすんだ理由かもしれないと思ふ。約150年前の、海外から見た日本の現状報告であつた。

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著者プロフィール

1799-1858年。19世紀を代表するイギリス有数の歴史・地誌学者。インド史、オスマントルコ史、フランス史をはじめ、この分野で多く著作がある。

「2016年 『文庫 日本1852』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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