ハイン 地の果ての祭典: 南米フエゴ諸島先住民セルクナムの生と死

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  • Amazon.co.jp ・本 (271ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794810670

作品紹介・あらすじ

尖った円錐形の仮面、裸身を覆う大胆な模様、不思議なポーズ─。人類学者M・グシンデが1923年に撮影した一連の写真を初めて見る人は、古いSF映画の一場面か、またはボディペインティング・アートかと思うかもしれない。実はこれは、セルクナムという部族が脈々と続けてきた祭典「ハイン」の扮装のひとつなのだ。
 セルクナム族と呼ばれる人々は、南米大陸の南端に点在するフエゴ諸島(ティエラ・デル・フエゴ)に住んでいた。そこは人間が定住した最も南の土地、「地の果て」だった。この地域には四つの異なる部族が暮らしていたが、セルクナムはそのなかでも最大のグループだった。
 主島のフエゴ島とそこに住む人々の存在は、1520年、マゼランの世界周航によって初めて西洋社会に知られた。以後多くの者がこの地を訪れる。「海賊」ドレーク、キャプテン・クック、ダーウィンを乗せたビーグル号、貿易船やアザラシ猟の船、金鉱探索者、キリスト教の伝道師たち、牧場経営者たち─。島民との間に様々な軋轢が生まれ、やがて一九世紀末に至ってフエゴ島は生き地獄と化す。公然と大虐殺が行われ、伝道所に強制収容された人たちの間に伝染病が蔓延し、そこから生きて出た者はわずかだった。フエゴ島民は短期間のうちに絶滅への道を辿り、生粋のセルクナムは1999年に絶えた。
 多くの西洋人の目に、フエゴ島民の生活は「野蛮」で「惨め」で、自分たちの「文化的生活」とはかけ離れたものと映った。酷寒の地で裸同然で暮らす人々のなかには、拉致され、見せ物にされた者も多くいた。だが、彼らは世界のどこにも似たものの無い独自の文化をもっていた。部外者にはほとんど明かされることのなかった祭典「ハイン」はその白眉だ。本書は、この驚くべき祭典の姿を、残された記録や往時を知る数少ない人たちの証言から丹念に描き出し、「消えた」部族の姿を生き生きと伝えている。(編集部)

感想・レビュー・書評

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  • 南米大陸の南端、ティエラデルフエゴ。ここに住むシェルクナム族とハウシュ族の人口は1880年頃3500から4000人だった。これらの人々が殆ど消滅したのはヨーロッパ人の到来とアルゼンチン及びチリ政府がマゼラン海峡以南の島々を領有化したことが原因である。

    かつて、このフエゴ諸島にて行われていたハインと呼ばれる儀式。これを余す事なく、解説してくれる。嬉しいのは写真が豊富な事だ。恥ずかしげもなくペニスを晒し、色彩豊かだが、怪獣映画のようなボディペイントで飾られた男子たち、いや、精霊たちの祭典だ。このような貴重な資料は文字ではなく、写真が有難い。

    グアナコの毛皮が発するきつい悪臭、自分の関心や目的を伝えてものろのろとしか対応しないインディオたち、孤独や寂しさなど、日々うんざりする…にもかかわらず、調査者は一人でいるべきだ、と。この調査ポリシーで語られる。そして本著は、ほぼこの儀式を詳らかにし、その臨場感を伝える事に終始する。

    通過儀礼、祭りに科学的意味は無くても、認知共有、信仰の継承、秩序の確認のために恐らく重要なイベントなのだろう。コロナ禍で日本でも儀礼が省略され、友人では無いから、そういう時にしか会わない親戚と疎遠になる。こうした儀式による繋がりの重要性は、実は有事のリスクヘッジにあり、平時には意味はあまり無く、ただただ気を遣って面倒なだけ。しかし、それなりの意味があったもの。無理解に消してはならないような気がした。

  • 既にカバー写真が強烈な印象を与える。円谷プロの特撮作品に
    出てくる怪獣かと思った。しかし、これはある人々が行っていた
    祭典に登場する政令なのである。

    先祖は氷河期にその島々に辿り着き、定住した。南米最南端の
    フエゴ諸島。平均気温は夏で約10℃、真冬は約1.5℃だが最低
    気温はマイナス20℃という極寒の地だ。南極大陸までは1000km
    もない。

    人類が辿り着いた最南端の島々ではいくつかの部族が地域分け
    をして暮らしていたが、19世紀には白人の入植によって疫病の
    流行や虐殺によって多くのネイティブが殺害され、ある者たちは
    見世物としてヨーロッパへ連れ去れ、ネイティブの人数は激変
    する。

    しかし、ネイティブたちの祭典を目撃し、失われゆく文化を記録に
    残そうとしたのも、また白人なのだ。本書ではドイツ人の人類学者
    が書き残した記録と、僅かに生き残ったネイティブの末裔と著者が
    親交を深めたことで、彼らの祭典「ハイン」を紙上に再現している。

    精霊の扮装をした男たちや、女性が裸体に施しているペインティン
    グが素晴らしい。文明社会ではない。染料は自然界にあるものだし、
    様々な文様を描くのも手や棒である。

    豊富な写真と共に文章で「ハイン」と呼ばれる祭典の様子が紹介さ
    れてるのが生き生きしていて楽しそうでもある。

    彼らに伝わる神話時代の話から誕生したであろう祭典は、宗教儀式
    であり、演劇であり、部族最大の娯楽でもあったようだ。

    もう、本書の素晴らしさは私の拙い文章では表現できない。ただ言える
    のは、文明社会ではないから文化を持っていないだとか、文明社会の
    方が高度な社会生活だとは思ってはいけないということだ。

    生憎と本書掲載の写真はモノクロなのだが、「ハイン」の精霊たちの
    扮装に用いられるボディペインティングは赤・白・黒の3色のみなのに、
    美的センスの高さを感じさせるのだ。

    写真だけでも、否、インターネットで画像検索するだけでもいい。多くの
    人に知って欲しいと思った。長く長く受け継がれていた祭典があった。
    今ではネイティブたちもほぼいなくなってしまったが、彼ら・彼女らは
    物こそ持たなかったけれど、精神的にとても豊かな暮らしをしていた
    のだと。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/773069

  • ダーウィンのビーグル号航海について調べている関係で、フエゴ島民について日本語で読めるものを探していた。ハインの祭典についてはややなまはげめいたものを感じる。ジェミー・ボタンの顛末が少しだけ触れられていて物悲しい。

  • 劇場
    ボディペイントは彩飾らしい
    不可思議

  • パタゴニアの端に、歴史から葬り去られたこのような民族がいたことを初めて知った。
    唯一無二の固有の文化がこの地球上から消滅していってしまう過程を読み進めていくというのは、本当に心苦しい。
    21世紀に入ってからも、たくさんの民族や言語、風習などが廃れ、姿を消しつつある。
    ごく身近なスケールに目を向けてみても、例えばある地方の方言はもう一部のお年寄りしか話せなかったり、伝統の祭りに関するしきたりを知る人が絶えてしまったり、乱開発で自然の造形美が無残に損なわれてしまったり。
    文化人類学的な物事に限らず、動物や植物の種だって然り。
    愚かな人類なりに、過去の罪から学んでいくしかない。

  • 大学の生協に平積みされて,手書きポップまで貼られていたのを見て,衝動買い.
    日本では「ヤーガン族(ヤマナ族)」として知られた南米最南端の先住民だが,これは間違いで,有名なボディペインティングはセルクナム族とハウシュ族のもの.普段からこの姿をしているのではなく,本書タイトルの「ハイン」,いわば「成人式」のために様々な種類のボディペインティングが施される.
    本のタイトルの通り,彼らの生活,風習を描くのではなく,「ハイン」の紹介と各行事の由来の謎を紐解く内容.
    成人式の主目的は,若者に狩りなどの技術を教えて,一人前にすることなのだが,そこになぜか神話が絡み,このボディペインティングが登場する訳だ.
    本書で紹介される「ハイン」の写真は,ほとんどが1923年に開催された最後の大規模なハインの際にグシンデ神父によって撮影されたもので,セルクナムとハウシュが,白人の進出,開拓と,彼らが持ち込んだ麻疹などの疫病によって部族としての滅亡を迎えつつあった時代の,最後の煌めきである.

  • 南米大陸の南の果てに住んでいたセルクナム族についての貴重な写真たち。
    オトコとオンナと精霊の住む国。
    ハインと呼ばれる祭典についての記録。
    他にも記録に残されることなく消えていった部族がたくさんあるのだろうな。もう取り返しがつかないのだけど。

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著者プロフィール

Anne CHAPMAN(1922-2010) アメリカの人類学者。生き残っていたわずかなセルクナムと親交をむすび、生涯を通じてフエゴ島民の社会・文化を研究した。

「2017年 『ハイン 地の果ての祭典』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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