結果的加重犯の構造

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  • 信山社
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797224276

作品紹介・あらすじ

「危険性説」から成立要件を再構築する

感想・レビュー・書評

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  •  従来、日本の結果的加重犯論において問題となっていたのは、ドイツのように加重結果に対する過失を要求しなければ責任主義に反するのではないかという点だった。しかし、過失があったとしてもそれだけでは基本犯と過失致死傷罪との観念的競合を基礎付けるに過ぎない。観念的競合よりも重く処罰される実質的理由を説明できないのであれば、結果的加重犯廃止論に分があることになるだろうう。<br><br>
     この加重処罰を説明する理論として提唱されたのが、基本犯には重い結果発生の「高度で類型的な危険」が存在しており、それが観念的競合では捉えきれない固有の不法内容を形成しているという『危険性説』だった。このような危険性説の立脚点そのものについては、学説上広く受け入れられつつある。<br> しかし、従来は「高度で類型的な危険」「固有の類型的危険」といった概念の内容が十分に具体化されていなかった。そのため、基本犯の危険性を強調することで、加重結果の帰属やそれに対する過失責任を広く肯定されるという事態が生じた。だが、危険性説の趣旨は、立法者が加重処罰根拠とした「固有の類型的危険」が、個々の事案においても重い結果へと実現した場合だけに結果的加重犯の成立が限定されるというところにある。したがって、このような成立範囲の不当な拡張を回避し、危険性説を実効性あるものにするためには、「固有の類型的危険」の内容を具体化する必要がある。<br><br>
     本書はこのような問題意識から、結果的加重犯に関する日本とドイツの立法史・判例・学説を丹念に検討し、その基本構造の解明を試みている。一般論として本書が提示するのは、?因果経過が「同質の直接的な関係」で結び付けられること(著者の依拠する「因果的説明モデル」に従うなら、病理法則・医学法則による因果的説明への包摂)と、?その主観的反映である「同一危険の量的な錯誤」が肯定されることだ。この基準は、個々の犯罪類型の特徴を考慮してさらに具体化されることになる。<br><br>
     明確な問題意識と手堅い論述によって議論の全体像が容易に見渡せるので、意欲的な内容に関わらず理解しやすく、ストレスを感じることなく通読できる。また、自説の基準を判例の事案につき具体的に適用してみせるので、基準と判断が乖離していないか、不当な結論を導かないか等の検討も行いやすい。<br> 近年は危険運転致死罪が新設されるなど結果的加重犯の解釈論がますます重要になると考えられるので、本書には現在入手可能な唯一の結果的加重犯論のモノグラフィーとしても価値が認められるだろう。約330頁で1万円という価格は購入を躊躇させるかもしれないが、値段に見合うだけの内容はある。

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著者プロフィール

内田 浩(岩手大学人文社会科学部教授)

「2015年 『リーディングス刑法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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