日本人の知らない環境問題 (SB新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797369557

作品紹介・あらすじ

日本人の多くは、環境問題とは「自然を守ること」だと考えている。しかし世界では、環境問題とは「開発のこと」というのが常識になっている。国際会議の場でも、おもに話し合われるのは、どう経済開発を進めて、貧困をなくしていくかという視点からの環境問題だ。環境問題を理解し、その解決策を探るためには、「環境」と「開発」の両方を知る必要がある。本書では、国連機関で働く日本人の立場から環境・開発の問題を読み解いていく。

感想・レビュー・書評

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  • 日本で「環境問題」といえば、地球温暖化、自然環境破壊、異常気象、生物多様性、エネルギー危機などであり、それに対する行動として、節電・節水、リサイクル、Co2削減、植林、清掃活動などが主な共通認識となっている。しかし、世界では「環境」といえば「開発」が常識だと筆者は説いている。さらにいえば、経済開発を進めて、いかに貧困をなくしていくかという視点からとらえられているのが「環境問題」であるという。
    筆者は現職のUNEP(国連環境計画)の職員である。やはり現場の声はリアルだ。国際会議の裏側にある駆け引きや、アフリカのリアルな現状など改めて認識することができる。が、お薦めは「世界が環境問題に取り組んだ四〇年の歩み」と題された第2章だ。まさにここ40年の環境に対する地球的取り組みを、駆け足で一望することができる。ぜひご一読を。

  • (特集:「ゴミ問題から環境問題を考える」)

    ↓利用状況はこちらから↓
    https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/BB00520923

  • ピーターの話でグッと引き込まれた。自分ごとと思わないと、行動は変えられないから。環境のこと、もっと学びたくなった。

  • 所在:展示架
    請求番号:519/O21
    資料ID:11401632
    私たちの思う環境問題!とは別の環境問題に気づかせてくれます。
    担当者:原口翔

  • <「日本人の知らない環境問題」読了>2013年4月5日

    ・ 環境問題は開発問題である。そして、それはビジネスチャンスの宝庫である
    ・ 国際連合の会議において話し合われる環境問題とは、「どう経済開発を進めて、貧困をなくしていくか」という視点からの環境問題
    ・ 西暦2000年を記念して国連が開いたミレニアム・サミットでは、ミレニアム開発目標(MDGs)が決められたが、環境保全は開発のための大きな柱として位置づけられている
    ・ UNEP(国連環境計画)とは、環境問題を扱う国連機関である
    ・ 「長く健康的な生活(余命)」、「知識へのアクセス(就学)」、「生活水準(国民所得)」を総合して測られる「人間開発指数(HDI)」という指標がある。この20年間で地球全体のHDIは年率2.5%の改善を見たが、地域格差が激しく、アフリカが遅れている。
    ・ 途上国で飲料水へのアクセスができる人の割合は、1990年の77%から上昇し2015年には90%に到達するものと見られている。
    ・ ヨーロッパ、北アメリカ、アジア太平洋で森林面積の純増が見られるものの、アフリカ、ラテンアメリカとカリブ地域で森林減少が続いている。世界の森林は、年間1300万ヘクタールという早さで減少している。
    ・ 貧困は、環境問題を引き起こす原因であり、また環境問題がもたらす結果でもある
    ・ 水俣病は、工場廃水で汚染された海でとれた魚介類を食べることにより、魚介類に蓄積された有機水銀が人の体内に取り込まれ、その結果起こる神経系の疾患である。
    ・ 1972年、ストックホルムにおいて、世界で初めて環境問題を統括的に扱う国債会議(国連人間環境会議。通称ストックホルム会議)が開催された。本会議では、日本政府主席代表として当時の大石武一環境庁長官が演説をしている。それは、「より多くの生産、より大きいGNPが人間幸福への努力の指標であると考えていたが、深刻な環境破壊を前に、その考えがあやまりであることに気がついた」という、日本の誤りを率直に伝えたものだった。さらに、水俣病患者が水俣からはるかストックホルムまで出かけ、その惨状をありのままに伝えた勇気は、参加者たちの心を打った。
    ・ 条約を採択・署名すれば義務を伴う。施行するには資金と技術の裏付けが必要である
    ・ 確かな必要性と決めたことが本当に実行出来ることが確保されないかぎり、条約作りに消極的になる国は多い
    ・ UNEP本部のあるナイロビに集まった環境大臣や化学物質専門家たちが徹夜の議論を続け、条約作りにつながる委員会(政府間交渉委員会)の設置がようやく合意されたのが2009年である。
    ・ 石油燃料使用の増加に伴い、地球全体の温室効果ガスの排出量は増加を続けている。たとえば、二酸化炭素は、1992年から2008年では36%の増加だ。
    ・ 地球温暖化は、その原因が人間活動全般に関係する上、その影響は、海面の上昇、雨量等の気候の変化、氷河の減少、生態系の破壊、海洋の酸性化などといった形で地球全体に及ぶ。たとえば先進諸国等が出した温室効果ガスが、アフリカの砂漠化に作用していたり、アマゾンの森が減ったことがパキスタンの洪水に関係していたりと言った具合に、原因と結果が後半にわたり、そしてまた複雑でもあるのが地球温暖化対策の難しさである。
    ・ 離宮温暖化に対する国際的な取り組みについての交渉は、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締結国会議(COP)、一般にコップという会議で進められている。この条約は、1992年5月に採択され、同年6月、リオ・デジャネイロの地球サミットで世界150国以上が署名した。大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目的としている。
    ・ 1997年12月に京都で国連気候変動枠組条約の第3回締結国会議(COP3)が開かれ、そのとき採択されたのが、京都議定書である。
    ・ 京都議定書の特徴は、日本、アメリカ、EU(欧州連合)など先進国に対し、2008年から2012年までの5年間(第一約束期間)で、1990年に比べて、それぞれ6%、8%といった数値で、具体的な削減目標を定めたことだ。その一方、途上国には具体的な数値目標を決めず、自主的な取り組みを促すような支援措置が工夫されている。
    ・ また、海外で実施した温室効果ガスの排出削減などを、自国の削減として換算できるという仕組みを決めたのも京都議定書の大きな特徴である。この仕組みはおもに「共同実施」「排出権取引」「クリーン開発メカニズム」を指す。このうち「共同実施」と「排出権取引」は先進国の間のやりとりであるのに対し、「クリーン開発メカニズム」は先進国が途上国で再生可能エネルギープロジェクトなどを実施して削減できた温室効果ガスの削減量を、その先進国の削減分に勘定出来るという仕組みである。総称して「京都メカニズム」と呼ばれる。
    ・ なお、COPというのはConference of Partiesの頭文字をとったもので、条約に参加する国が集まる会議のことである。気候変動枠組条約、生物多様性条約、ワシントン条約など、それぞれの条約がそれぞれのCOPを開く。このため名前は同じCOPでも、話し合われる議題はそれぞれの条約ごとに異なる。
    ・ COPとは別に、2007年には、気候変動に関する政府間パネルが、その報告書をまとめ(第四次報告書)、気候システムの温暖化には疑う余地がないと警告を新たにした。いま世界では、21世紀の平均気温の上昇を産業革命時から比較して2度、あるいは以下に抑制しようという「2度目標」を掲げているが、この根拠になった様々な予測データを示したのがIPCCだ。IPCCは各国政府から推薦された科学者達が、地球温暖化に関する地検を集め、広めて行くことを目的として、1988年にWMO(世界気象期間)とUNEPの下に設置された。
    ・ 鳩山首相は、日本が率先して温室効果ガスの排出削減に努める立場から、2020年までに1990年比で25%の削減を目指すと演説のなかで述べている


    ・ 2001年に早くとも、京都議定書から離脱したアメリカの他、規制対象に入っていない途上国のうち、排出量が特に多い中国、インドなどに規制をかけないと、アメリカ以外の先進国がいかに努力しても実行が上がらないとする意見のためだ。
    ・ 2011年暮れに南アフリカのダーバンで開かれたCOP17では、日本はロシアとともにこのような立場をとり、2013年からの規制義務は負わないと表明した。さらにこのときカナダは、アメリカ同様、議定書からの離脱を表明した。
    ・ 国連事務局の役割は、データを示して各国の判断を促すまで
    ・ 国際NGO(非政府組織)のWWF(世界自然保護基金)が発表している、「生きている地球指数(LPI)を使ってこれを見ると、1992年から2007年のわずか15年間で自然環境の豊かさが地球全体で12%損なわれ、特に熱帯地方では、30%も損なわれたことになる。地球の歴史から言えば、恐竜絶滅以来の最大の絶滅期にある。その主な原因は、農耕地の拡大、森林伐採、漁業資源の過剰採取などに伴う生息地の改変、過度な収奪、さらに汚染の影響、気候変動、貧困等である。
    ・ 自然環境を保全しようという地球規模の国際条約は古くからあり、1970年代には、ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の取引に関する条約)、ラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)、ボン条約(移動性野生動植物の保全に関する条約)、世界遺産条約(世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約)がそれぞれ採択されている。
    ・ 生物多様性条約は、1992年に採択され、リオの地球サミットで署名が始められたリオ条約の1つ。この条約は地球上のすべての生命体の多様性を対象にしている。具体的には①生態系の多様性(森林、湿原、砂漠などさまざまな種類の生態系があること)②種の多様性(動植物から細菌、微生物までいろいろな生物がいること)③遺伝子の多様性(同じ種でも異なる遺伝子を持つこと)を含んだ包括的な概念である。このため、従来の自然保護アプローチの限界を超え、生物の多様さと言う生命システム全体を大切にしようとする。さらに、①生物多様性の保全②生物多様性の構成要素の持続可能な利用③遺伝資源の利用から生じる利益の公平で均衡な配分の3つを目標にしている。
    ・ 世界の平均気温が1.5度から2.5度上がるだけで、地球上の30%の種が絶滅の危機に瀕すると予測されている。
    ・ 途上国では森林保全などを通じて温室効果ガスの排出を減らしたり、森林の炭素蓄積量を増やしたりした場合、それに応じて先進国から経済的なインセンティブになるような支援を行うという仕組みも用意されている。これはREDD+(レッドプラス)と呼ばれており、うまく実施することができれば、単に気候変動の解決策となるだけでなく、生物多様性の保全や生態系の抵抗力向上、途上国の生活の向上が期待出来る。



    ・ 持続可能な開発とは、「将来の盛大のニーズを満たす能力を損なうこと無く、今日の世代のニーズを満たすような開発」を意味する。持続可能な開発には2つの概念があり、①ニーズ、とりわけ世界の貧しい人々の必要不可欠なニーズで、これは何よりも最優先にされなければならない。また②現在と将来のニーズを満たしていくために資源を利用したり環境負荷を加えたりする場合、地球の収容能力の範囲内に抑えるべきことである。
    ・ 「環境」という概念と「開発」という概念それぞれが内包する限界を超える上で、途上国の貧困問題と地球の収容能力の問題を同時に扱う持続可能な開発の考え方は、切り札である。
    ・ 2012年6月、ブラジルのリオで「国連持続可能な開発会議」(通称リオ+20)が開催された。
    ・ グリーン・エコノミーとは、経済成長と雇用創出を図り、社会の発展と貧困の撲滅を図りつつ、あわせてエネルギー効率を上げ、資源の効果的利用を進める経済のこと。
    ・ 環境対策を進めるのに、先進国の課題は持続可能でない消費と生産を改めること、それに対し途上国の課題は何よりも貧困を根絶すること。この二極対立の議論は、先進国から途上国へと流れる開発援助が伸び悩んでいるいま、現実的な解決策にはつながらない。グリーン・エコノミーは、このような環境か開発かどちらを優先させるのかといった議論に対し、完全な終止符を打つことが期待されている。
    ・ 2006年の発表されたスターン報告書では、気候変動への対策を早急にとるには、世界のGDP(国内総生産)の1%ほどのコストがかかるが、未然防止をせずに被害が発生してしまってから対応するとなると、世界のGDPの5〜20%もかかってしまうだろうと予測し、未然防止の必要性を訴えている。
    ・ 2007年の生態系と生物多様性の経済学プロジェクトの報告書では、今まで貨幣価値で表されてこなかった生態系サービスという自然からの恵みの、経済的利益と、失われた場合のコストを明らかにした。たとえば、2030年までに世界の森林減少率を半減させれば、温暖化の影響を和らげることになり長期的に3兆7000億ドルの便益がある。いまのような乱獲のお陰で、世界の漁獲高は1年につき500億ドルも下がっている。
    ・ この2つの報告書の狙いは、環境を破壊すると結局は損に繋がることを、数字を持って伝えることにあった。「みすみす損になることがわかっているなら、それを避ける工夫をしようじゃないか」というのが、グリーン・エコにミーの土台となる考え方である。
    ・ UNEPの試算では、いまの年間総GDPのわずか2%を毎年中長期的な環境保全に効果的に投資することで、低炭素で資源効率の高い経済に向けた移行を始動でき、しかも、いまの経済モデルで予想されているのと同じか、それ以上の世界経済の成長を見込めるとしている。
    ・ ただし、一部の国だけ、あるいは限られた業界や企業だけが頑張っても、世界全体の効果は上がらない。幅広く戦略的に投資が進むよう、それを側面から支援する規制や租税措置も必要だし、人々や経済界の意識を高めることも大事である。たとえば、環境保全上好ましくないものに対する補助金を減額、または廃止すること、環境破壊という外部費用を内部化するような租税措置や課徴金を導入すること、経営者が環境保全に社会的責任として取り組むCSRを推奨し、そのための能力向上や教育、訓練に力を入れることなどが考えられる施策である。さらに、各国政府で環境省にとどまらず、財務、開発、産業関係省を巻き込んで、本腰を入れて取り組むことが大前提になる。
    ・ 2008年の金融危機にあたって、アメリカ、ヨーロッパなど主要国が打ち出したグリーン・ニューディール政策は、グリーン産業への投資を通じて景気刺激と雇用創出をねらったもので、グリーン・エコのみーが世界全体の課題となることのきっかけとなった。
    ・ 世界の諸都市は日本車であふれている。これは、かつて厳しい排ガス規制に適合するための技術革新が、省エネと質の向上につながり、それがいまでも世界のあちこちで歓迎されていることの表れである。
    ・ 「持続可能な開発」は、経済・社会・環境の3要素を含み、単に環境を指すより遥かに広い概念を表す。リオ+20で議題の1つとなっている「持続可能な開発ゴール(SDG)」は、これらの3要素をバランスよく満たす世界の構築を目指すものである。いまや、GDPを超えた、人間の福祉と幸福レベルを総合的に測るための指標が必要なのではないかという考えから、SDGづくりは提案された。
    ・ これに関連して、2000年のミレニアム・サミットでまとめられた「ミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development Goals)とは、2015年までに達成すべき8つの目標を定めたものである。
    ① 極度の貧困と飢餓の撲滅
    ② 初等教育の完全普及
    ③ ジェンダーの平等推進と女性の地位向上
    ④ 乳児死亡率の削減
    ⑤ 妊産婦の健康の改善
    ⑥ HIV/エイズ、マラリアその他の疾病の蔓延防止
    ⑦ 環境の持続可能性の確保
    ⑧ 開発のためのグローバル・パートナーシップの推進
    MDGsではゴールごとにターゲットを明記しており、⑦では
    ⑦−1 持続可能な開発の原則を各国の政策や戦略に反映させ、環境資源の喪失を減少させる
    ⑦−2 生物多様性の損失を2010年までに確実に減少させ、その後も継続的に減少させる
    ⑦−3 2015年までに、安全な飲料水および衛生施設を継続的に利用出来ない人々の割合を半減させる
    ⑦–4 2020年までに少なくとも1億人のスラム居住者の生活を改善する
    ・ SDGの提案はMDGsにならい、完結で分かりやすいゴールを示そうというもので、「GDPを超えた」世界の尺度を示そうという価値観に共感する国は多い。MDGsの期限が到達する2015年以降の具体的な目標になるかもしれない。もしこのような指標が生まれれば、先進国、途上国といったこれまでの世界構造は何を持って進んだ、何をもって進む途上と考えるかを含め、根本的な価値観の転換をもたらすことに繋がるかもしれない。また、経営者が環境保全に社会的責任として取り組むCSRについても、これを客観的に評価する尺度が生み出されるかも出れないグリーン・エコノミーとこれを測るSDGは、21世紀の地球を救う切り札になる。
    ・ これまでさんざん地球の資源を使いたいだけ使い、そのおかげで繁栄を享受してきた北の先進国が、いざ資源の枯渇と環境問題が顕在化してきたからといって、これ以上の発展をすべきでないというのは、貧困を撲滅するために開発を急がなければならない南の途上国には受け入れられない。
    ・ 1992年の地球サミットで採択されたリオ宣言の第7原則にある、「地球環境の悪化へ異なった寄与という観点から、各国は共通だが差異のある責任を有する」は、このような南北の環境問題への立場の差異を表すものである。
    ・ 人間環境宣言は、これからは環境に慎重な配慮をするよう行動を変革していかなければならないとし、「われわれは歴史の転換点に達した」とうたっている。
    ・ 先進国は、開発を抑えてでも環境保護に力を傾けようという立場だったが、途上諸国は、環境問題の中心は、住宅、衛生、水道、栄養、教育などから貧困から生ずる問題であり、その解決には開発のための援助を強化してほしいと訴えていた。
    ・ 1992年のリオ・地球サミット最大の成果は、日本を含む国々の提案で実現した地球環境保全に関する国連特別委員会の設置である。
    ・ 持続可能な将来を設計するためには、すべての国が「環境倫理」に立脚し、さまざまな社会経済政策を統合し、行動していくべきである
    ・ 大阪にあるUNEP国際環境技術センター(IETC)は、日本にあるUNEP機関である。
    ・ 外交交渉にも経験と練習がいる。国際会議をホストして、海上の設営や文書の手配、参加者のお世話など、中身以前に会議の開き方で経験を積むのも大事だし、いろいろな会議に参加して、その運営の仕組み、意思決定のされ方、事務局の活用の仕方、味方になってくれる国と反対する国それぞれを見極め、それぞれとの意見調整を進める方法などの、ある種のノウハウを習得することも大事だ。議事規則を暗記するほど読んで、そのオモテとウラをマスターするとともに、各国の代表者とはあらかじめお茶を飲んだりランチを食べたりしていい関係を築いておくことが重要なのである。
    ・ アジェンダ21は、各国政府や非政府組織などさまざまな主体が、21世紀に向けて連携しながら実施していく課題を40章にわたって具体的に整理した、まるで辞書のように分厚い300ページの文書である。
    ・ 日本では1989年、内閣に「地球環境保全に関する関係閣僚会議」を設置し、環境省には地球環境部を創設、1993年には従来の「公害対策基本法」を改め、地球環境保全を明確にその射程に入れた「環境基本計画」を策定するなど、内閣にあげたいくつもの取り組みが実施された。
    ・ 地球サミットで採択されたアジェンダ21は、政府以外のさまざまな主体を、主要グループとして、①企業と産業界②子供と青少年③農民④先住民⑤地方公共団体⑥NGO⑦科学技術界⑧女性⑨労働者と労働組合 の9分類に整理し、国際社会での位置づけを明確にした。
    ・ 1992年4月、東京で「地球環境賢人会議」が開かれた。つまり、地球環境問題対策に要するお金をどう捻出するかを討議するのが目的である。この竹下賢人会議の結果も影響して、リオの地球サミットで先進各国は一様に環境保全のための政府開発援助(ODA)増額を発表したが、なかでも、日本が約束した学派大きかった。
    ・ リオの地球サミットから10年後の2002年8月、南アフリカのヨハネスブルグで、「持続可能な開発に関する世界サミット」が開催された。このサミットでは、
    ① 1日1ドル以下で暮らす人々や飢餓に苦しむ人々の割合を半減させる(2015年までに)
    ② 安全な飲料水を利用出来ない人々の割合を半減させる(2015年までに)
    ③ 基本的な衛生施設を利用出来ない人々の割合を半減させる(2015年までに)
    ④ 漁業資源の持続可能な開発のために生態系アプローチを適用するよう奨励する(2010年までに)
    ⑤ 生物多様性の損失の速度を現在よりも大幅に低下させる(2010年までに)
    ⑥ 乳児及び5歳未満の幼児の死亡率を2000年比3分の2、妊産婦死亡率を2000年比4分の3、それぞれ引き下げる(2015年まで)
    ⑦ 15歳から24歳までの若い男女のHIV感染率を25%減少させるとともに、マラリア、結核およびその他の病気とも闘う
    しかし、再生可能エネルギーについては期限目標に到達出来なかった。
    ・ 日本の提案は各国政府の賛同を得て、実施計画文書に「2005年から始まる『持続可能な開発のための教育の10年(ESD)』の採択の検討を国連総会に勧告する」旨の記述が盛り込まれることとなった。
    ・ 2010年10月、名古屋で生物多様性条約の議定書であるナゴヤ・プロトコール(名古屋議定書)が生まれた。
    ・ 国連は世界政府でもなければ、各国の行政府のような権力機関でもない。国連は各国政府が集まって利害の調整を図る「場(フォーラム)」にすぎない。言い換えれば、主権国家の代表者達が「主人」であり、事務局職員は、主人達の話し合いが上手く進むようにお膳立てをする「裏方」である。
    ・ 国際会議には独特なマナーがある。たとえば、閣僚や大使のことを「閣下(Excellency)と呼び、参加者には「抜きでた」「高貴な」「特別な」という意味の舌を噛みそうな形容詞をつける。
    ・ 「模擬国連(モデルUN)」という校外授業を実施するハイスクールに国連が場所を貸している。国際会議のノウハウと国際交渉の仕組みを生徒達はこうしてハイスクールにいる間に習い、国際性を自然と身に付けている。
    ・ 国連加盟国は2012年4月現在、193ヶ国である。
    ・ 国連とはコミュニケーションとの五指エーションとロビーイングの塊である
    ・ 環境への取り組みが国際機構のあちこちに分散している現状を改善し、類似する活動の重複を避け、もっと効率的に政策効果を上げるためにはどうすればいいのか。そのための資金繰りや、NGOや経済界を効果的に取り組んで行くにはどうすればいいのか。これが、国際環境ガバナンス(環境分野での制度機構)についての話し合いの本旨である。
    ・ 国際環境ガバナンスについては
    1997年 UNEPの役割とマンデートについてのナイロビ宣言(ナイロビ)
    1999年 国連総会決議(ニューヨーク)
    2000年 マルモ閣僚宣言(マルモ)
    2000年 ミレニアム開発目標(ニューヨーク)
    2002年 カルタヘナ決議(カルタヘナ9
    2002年 持続可能な開発に関する世界サミット
    2012年 国連持続可能な開発会議(リオ)
    ・ ケニア人ノーベル平和賞受賞者ワンガリ・マータイは、平和、民主主義、人権、環境保護の活動家であり、彼女が創設したNGO「グリーンベルト・ムーブメント」を通じて、アフリカ各国でおよそ4000万本の植林を果たし、そのことを通じて90万人の女性たちを支援した。
    ・ 彼女のスピーチの表現はとても分かりやすい。
    「ある日、森が大火事になった。動物たちが逃げて行く中、小鳥だけは湖からくちばしで水を吸い上げ、火事場まで飛んでぽとっと落とすという。けなげな往復を繰り返す。小鳥は言う。私にできることはこれだけだ。精一杯出来ることをしたい。」
    「せっかく木を植えてもすぐに大きくなってくれない、などと言わないこと。いま伐採されている木は目の前の世代が残して行ったもの。だから、いま植える木の恩恵は次の世代のため。」
    ・ ケニアでAK47で武装した人が旅行者の車を止めるのは、襲うためではなく、飢えと乾きを癒したくて助けを求めるためだからである。
    ・ 菊本照子さんは、ナイロビ郊外の孤児院「希望の家(マトマイニ・チルドレン・ホーム)」の院長である。
    ・ 今の日本人には元気が無い。危険だから、不潔だから、行き先が分からないからと、外にも出たがらない。

    ・ 自分の可能性を伸ばすチャンスをつかみたい、そのためには、怖かろうがなんだろうが外に出て行く。それは人間が本来持っているものであり、そのような人間の本質的なものが、ケニアの子供たちの場合、目に見えるようにはっきりと表れているだけだ。
    ・ 佐藤芳之さんは、ケニア有数の食品加工会社「ケニア・ナッツ」をつくった。
    ・ アフリカとは底抜けに楽観的で何でもありの世界。こんなところでやっていけるのは、よほどの天才か極点な馬鹿かどちらかだ。
    ・ 「ケニアが好きだから」という漠然とした愛着と、困っている人たちを助けたいというささやかな正義感だけでは、ケニアの大地に根を下ろして何十年も暮らすことはできない。
    ・ 日本では環境問題は大事だとしても、人権、子供、女性の福祉、難民等の諸問題と同じように、それは一種の良心の領域で、限られた人が自己犠牲の精神で取り組むものと考えられている。
    ・ 実際、2004年から2010年のわずか数年の間に、世界の持続可能なエネルギーへの投資は540%のめざましい増加を示している。ことに中国では先に決定された5ヶ年計画で、再生可能エネルギー。グリーンテクノロジー、廃棄物管理の分野に、前の5ヶ年計画の倍増の投資を予定している。また、UNEPファイナンス・イニシアティブ(FI)に参加し、FI宣言に署名している金融機関は、1992年の設立から今日まで200を数える。環境マネジメントシステムの国際規格である!SO14001の適合企業は日本では2012年3月時点で約2万件になる。
    ・ 政府間交渉が進まなければ、地球環境を守るための対策が進まないかといえばそんなことは決してない。実際に環境保全につながる活動を進める上で、いまや市民、企業、非政府組織が今まで以上に大きな役割を果たしつつあり、これは地球全体にとって大きな励みになっている。国際会議なら、うまくいかなければ次に繰り越したり、あるいはその会議から脱退してしまったりすることもできる。しかし、地球に暮らす私たち一人一人は、誰1人として地球から脱退することはできない。
    ・ 国連がそのような活動をするようにと、支援するのは一人一人の市民であるということを忘れてはならない。国連は世界政府ではない。世界の人々が主人だからである。
    ・ 「日本は決定までに時間がかかることもあるが、約束したことは必ず実行してくれる」というのは、日本の援助を受け取る側の、途上国や国際機関の人たちからしばしば聞かれる言葉。
    ・ WWFジャパンは、世界の木材や水産物などの資源の消費や、二酸化炭素の排出、廃棄物の処理により、日本がどれくらい、どのような形で、地球の自然環境に負荷をかけているかを示しました。もし世界中の人が日本人と同じレベルの生活をすると地球2、3個分の収容力が必要になる。


    ・ ケニアの農村地域ではほとんど電気が届いていない。満天の星明かりははっとするほどの美しさだが、そんなことに喜んでいられるのは都市から来た人だけで、現地の人々はランプのほのかな灯りで闇をしのぐのです。こう考えれば、地球温暖化交渉でアフリカの代表者達が、自分たちのエネルギー消費が少なく、温暖化の原因にほとんど責任が無いのに、悪影響だけ被っていると被害者意識を示すのも納得出来る。その一方、暖かい熱帯地方の人には、化石燃料を燃やしてでも暖をとらなければ暮らせない、北半球の寒い冬のことは想像もしないだろう。
    ・ 私たち日本人が普段イメージする「節電」「節水」「省エネ」で代表される問題と、途上国の喫緊の課題である開発問題は、どちらも環境問題で、根は一緒だということ。
    ・ 1992年、リオの地球サミットで、当時12歳の女の子が、集まった世界の大人達に向かってあいさつし、子供たちが大人になって、また親になったときも、安心して暮らせる地球に戻して欲しいと行動を促した。いまではもうお母さんになっている彼女のこのときのスピーチは、環境問題は世代を超えた大きなタイムスパンで考えるべきであることを伝えている。
    ・ 環境対策についての評価を下せるのは、いま会議を開いて政策をつくっている大人たちではなく、20年後の社会を担ういまの子供達、あるいはそのさらに20年後の主役になる、今年生まれた子供になるだろう。
    ・ 私たちは、25年先、または50年先、そのときの人類にあの頃はなんであんな馬鹿なことをしていたのだろう?と思われないように、そういえばあのときあれが良かったのだと彼らが褒めるようなことができればいいのではないか。環境対策を進めるのは、人類の歴史をつくる営みである。

  • 率直に申し上げると,ちょっとタイトル負けしちゃったかな?

    どちらかと言えば,環境庁(省),国連環境計画の奮闘ぶりがよく分かります.国際交渉の進め方など,勉強になる部分もたくさんあるのでおススメです.

  • 国際的な環境問題の議論の様子と、その論点について述べられています。
    日本国内の環境問題は、あくまで「環境」を中心に語られることが多いですが、世界の環境問題の認識は「貧困」と複雑に絡み合った課題としてあるようです。
    また、国際的な議論の様子についても、まさに現地からの生々しいレポートが織り込まれています。日本は1990年ごろまでは、リーダーシップを発揮していた一方で、今のリーダーシップ欠如が露呈するような論調にあります。

    世界的な議論を踏まえつつ、日本が一体何をすべきなのかを見つめなおすきっかけが得られる一冊です。

  • (2012/07/15読了)久々に・・・「これは外した」という読後感・・・。いや内容自体はそんなに悪くない・・・と思うけど、タイトルから期待される内容は全く書かれていない。国連の組織というものがどういう風に仕事をしているかが分かる書であって(だから国連などの国際機関で働いてみたい人には良書)、「環境問題」の本だと思って読んではいけない。

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著者プロフィール

国連環境計画職員

「2016年 『なぜ世界の隅々で日本人がこんなに感謝されているのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

大賀敏子の作品

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