スマホ時代の哲学 失われた孤独をめぐる冒険

著者 :
  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784799329139

感想・レビュー・書評

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  • 哲学はすぐに分かるわけではないし、今の時代のインスタントを好む風潮では慣れ親しむのは難しい。スマホによる弊害はいくらでも叫ばれているがスマホが無くなることはなく、無くならないことを前提に考えなければならない。
    孤独は決してダメなものではなく、むしろ孤独な中での自己対話によって自分の気持ちに向き合うことができる。自己対話によって寂しさを理解し得るのだが、その自己対話をしないことで寂しさの発露を外に求め、攻撃する。現代のSNSによる誹謗中傷はこれに通ずるのではないか?
    たくさんの気づきがある本だった。

  • 常時接続世界で情報の濁流にいながら、寂しさに振り回されている。自分や他人を理解しきれることはなくネガティブ・ケイパビリティというモヤモヤした状態で抱え続ける能力が必要。SNSでの快楽的なダルさの裂け目から見える退屈は自分の行動を変えるシグナルで、孤独を楽しむ趣味を見つけるのがよい。よく出てきた「ドライブ・マイ・カー」が気になってきた。
    17冊目読了。

  • 前回のKindle特価の時に買い、紙で買い直しました。
    「1人遊びができるようになりたい」が課題だった自分に沢山の示唆をくださりました。

    #あわ研 コミュニティで「知らないことを誰かと一緒に考える冒険」を反復練習していき、自分の中にもいつしか、複数性を生み出せているのかも。

    パスカルの『パンセ』の引用で、
    「人間の不幸というものは、みなただ一つのこと、すなわち、部屋の中に静かに休んでいられないことから起こるのだ」
    の部分を読んだ時、
    1日ソファに座り、日が暮れたのをみて、よし!(勝った)とガッツポーズをとられたという、ヨシダナギさんのエピソードを思い出しました。

    以下、引用。
    エヴァファンとしては
    とても刺さる喩えがいっぱいでした。

    また、カジさんとジョン・キーツを結んだロマン主義、にも興味津々。

    ___

    シン・エヴァンゲリオン新劇場版 Q

    ピアノの連弾
    趣味を通して過去の自分との対話

    シンジ:どうしたらもっとうまく弾けるのかな。

    カヲル:うまく弾く必要はないよ。ただ気持ちのいい音を出せばいい。

    シンジ:じゃあ、もっといい音を出したいんだけど、どうすればいい?

    カヲル:反復練習さ。同じことを何度も繰り返す。自分がいいなって感じられるまでね。それしかない。


    「他者評価とは関係のないところで音楽をつくっていく」
    心地よい音を出すためには
    反復練習が必要
    「自分がいいなって思えるところまで」
    手をかけ、作り直し、対話を続ける
    自分を納得させられるかどうか?

    ___

    加持の姿勢は文学における「ロマン主義」と重なってきます。(* 155)

    ロマン主義は多面的な運動なので、安易に定義しづらいのですが、そのスタンスの一つに、「汲み尽くせなさ」に対する感受性があります。
    それは、何かを手に入れたと思っても、そこからこぼれ落ちていくものがあることを知っていることです。

    言い換えると、「これだ」と思って把握したものがもっと深さを持っていて、どこまでも知性を超えていくはずだという洞察です。(* 156)

  • 「常時接続の世界」において、スマホから得られるインスタントな刺激によって不安や寂しさを埋めようとし、他者への関心を持てずに自分の中に閉じこもる。そうした現代人の特徴を炙り出すとともに、自分のための趣味や楽しみを追求することの重要性を問い直す。読んでいてウッとなるけど、反省とともに光が見える一冊です。

  • 知的好奇心が刺激されまくる1冊。
    著者の谷川さん、平易な言葉で多くの示唆を与えてくださる博覧強記な方だなぁ。

    本書で引用されていた
    『わたしたちの登る丘』
    『地に足をつけて生きろ!』
    『資本主義リアリズム』
    『失われた未来を求めて』
    の4冊は早速チェックする。

  • エヴァや燃えよドラゴンなどエンタメを引用してくれるので、その部分は引き込まれるし印象にも残るのだけど、話が前後したり逆説みたいな言い回しが多くて読むのが大変でした。

    本書ではモヤモヤをすぐ解決しようとせず、とことんむきあうべきと主張されているのですが、一方で哲学を含めて他の人の考えをインストールすることも言われている。それこそインスタントなふるまいなのでは?とどうしても矛盾を感じてしまいました。
    哲学を理解しようとしても、初心者にむけた『3分で〇〇』といったインスタント書籍が目立つからですかね。
    モヤモヤとスッキリのバランスを取るのは難しいけど、とにかく本一冊読んだだけで簡単にわかったような気にならない、ということは意識してみようかな。

    この書籍をテーマにした読書会で、インスタントなコミュニケーションの話題になりました。SNS時代はすぐ解決を導きたがるインスタントな人が多いわけですが、親・部活・上司など「教えるほうも」すぐに答えを与えてしまう行為はインスタントだよね。という話がなかなか興味深かったです。
    「ウチはウチ!ヨソはヨソ!」とか「つべこべ言わずにやれ!」って理不尽でモヤモヤさせるけど、大事なことだったんだな。

  • 行きつけの書店に平積みされていたことと、哲学者についての入門書よりも現代的問題を哲学的に解釈することの必要性を感じていたため購入。また、著者の谷川嘉浩氏が1990年生まれの若手哲学者ということで、『現代思想入門』の著者である千葉雅也氏のように、若い世代特有の新しい視点や価値観に触れられるかもしれないという期待もあった。

    本書は、スマホを中心としたスマートデバイスがネットに常時接続されている現代社会を「スマホ時代」と表現し、そのような情報が氾濫する時代に生きる現代人が不確実な社会を生き抜く際の考え方や行動指針を、哲学的見地から平易な言葉で述べられている。

    単に「脱スマホ」を説くのではなく、スマホによるネットへの常時接続生活は止められないと認めたうえで、著者がいうところの「ゾンビ映画ですぐ死ぬやつ」のようにならないために、2500年もの間蓄積された哲学の知見を"インストール"するという論調は若手らしく斬新であった。

    「これからは不確定な時代だから、他人が言っていることを鵜呑みにせず自分のアタマで考えていかなければ生きてはいけない。だから哲学や歴史などの教養(リベラルアーツ)を学ばなければいけない。」という言説は巷にあふれている。
    しなしながら著者は、不確定な時代だからこそ、2500年分の哲学の問題解決に対する知見を取り入れることで、可能な限り自分のアタマ"だけ"で考えずに哲学者の考えを踏まえて問題解決に取り組むことが必要であると逆説的に持論を展開する。

    特に、本書の中核概念である「孤独」について、哲学者であるハンナ・アーレントが「一人であること」について提唱した「孤立(isolation)」「孤独(solitude)」「寂しさ(loneliness)」の3つの様式に基づきつつ、読者がイメージしやすいように「燃えよドラゴン」や「新世紀エヴァンゲリオン」のエピソードを用いながら孤独と向き合うことの必要性を説く論調は、若い著者ならではの発想であろう(ただ、個人的にはどちらの作品もあまり観たことがないので、作中の具体的な場面を想起しながら読み進められなかったのが残念だが)。

    著者は、ゾンビ映画で死なない生き方を実践するためには、いったんコミュニケーションや刺激の波から距離を取ることで「孤独」を志向し、あえて対話やつながりを目指そうとしないことだとしている。そのことが、かえって適切な対話やつながりをもたらすのではないかというのである。
    そして、孤独をつくりだす具体的な手段として、「何かを作ったり育てたりする活動としての趣味」を提示している。終わらない趣味を持つことで初めて、自分との対話が生まれるのだ、と。

    ともすると、この論調は「スマホを捨てて独りで趣味に没頭すべし」と読者に捉えられかねないが、趣味とは単なる"気晴らし"のための刹那的で消費するだけの活動ではなく、予測不能な事態や納得できず"モヤモヤ感"が残ることも許容しながら、自分なりに試行錯誤していく活動であるとしているところが本書の特徴であろう。
    そして趣味の中で立ち現れる"モヤモヤ感"に対し、結論づけずにそのままの状態で留めておく能力を「ネガティブ・ケイパビリティ」とし、他者を安易に"自分のわかる範囲"に回収することなしに他者の経験を理解したり、未知を学んだりするときに必要な能力であるとしている。
    これは言うまでもなくこれからの不確定な時代を生き抜いていくうえでの必要不可欠な能力であろう。

    本書は全体を通してプラグマティズム的アプローチを採用しながらも、ニーチェ、パスカル、ルソーなどの古典的哲学者の重くて深い言葉だけでなく映画やアニメのセリフも引用し、時にはスティーブ・ジョブズの名言すら批判するスタイルなので、ある意味軽快で読みやすい。
    しかしだからといって内容も軽いというわけではなく、"イイ感じに答えをすぐ教えてくれるAI"との対話が圧倒的に増えていくこれからの時代に、自分自身との対話の時間を確保するという本書の提案は、むしろとてつもなく重く困難に思えてしまう。

    ネットやスマホに依存する"繋がり過多"の現代社会を生き、そして人との関わりや働き方など根本から考え直さざるを得なかったコロナ禍を経験したからこそ、本書は"自分自身との関わり合い"について再考するきっかけとなった。
    また、「自分の内なる声に従え」「答えは自分の中にある」といったフレーズにみられる自己完結的な思考に陥るリスクについて知ることができたことも、折り返し地点を過ぎた残りの人生を生きていくうえで大きな収穫だったといえる。

    あえて時間に追われて多忙な(もしかしたら多忙を自ら作り出しているだけかもしれない)すべてのビジネスパーソンに勧めたいと思える一冊であった。

  • 電子ブックへのリンク:https://kinoden.kinokuniya.co.jp/hokudai/bookdetail/p/KP00073771
    ※学外から利用する場合は、リンク先にて「学認でログイン」をクリック→入学時に配布されたID/PWでログイン

  • 谷川嘉浩『スマホ時代の哲学』読了。
    スマホに象徴される常時接続の微温的コミュニケーションに占有されつつある現代において、「真のつながり」とか「自己啓発」的なものに活路を見出すのではなく、寧ろ〈孤独〉や〈寂しさ〉を肯定的に捉え返してそれらとの"共存"を(教え導くというよりは)優しく語りかけるのが印象的。
    東浩紀の流れを汲むサブカルというかオタク文化を参照しながら現代思想、現代社会を論じるスタイルは、オタク文化の一般化を経てもはやオタクを特権的に論じる必要もなくなり、地に足ついた感じに着地したななどと。
    ぬるいコミュニケーションに埋没することにも、自己啓発&自己責任な新自由主義にも疲弊しているいまの若者にはこういう語りが刺さるのだろうか。
    いわゆる自己啓発は批判しているけれど、これもある種の脱力的自己啓発本ではあるよね。年始に今年も気張らずやっていこうや、というノリで読むには内容的にも語り的にもちょうど良い感じ。

  • (2024/04/27 6h)

    表紙絵を担当されているイラストレーター森優が好きで手に取った本。内容すごく好きだった。

    特に、アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』に懐疑的な意見を投げかける視点が新鮮でおもしろかった(p.138 の辺りです)。


    全体を通して著者めっちゃエヴァ大好きやな!って伝わってきた。わたしも好き。

    しかも劇場版ではなくて、アニメ版からの引用。わたしはアニメ版を一度しか見たことがないので、本書の内容を踏まえてもう一周したくなった。理解を深めたい。

    ほかにも、『燃えよドラゴン』『弱キャラ友崎くん』や最近のドラマなど、幅広いエンタメから哲学に絡めた楽しい講話が盛り沢山で、とっつきやすい本だった。


    わたしはニート引きこもりだから時間も無限にあって「孤独」を満喫するのには適した環境にあるかも。

    働くひとはマルチタスクにこなさないといけないことばかりで悩殺されて、哲学する暇ないんじゃないだろうか。

    仕事をして自立しながらも、「寂しさ」から逃れて「孤独」の時間を得ることのできるひとって素晴らしく有能だと思う。とんでもない難易度。

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著者プロフィール

谷川 嘉浩(たにがわ・よしひろ):1990年生まれ。京都市在住の哲学者。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。現在、京都市立芸術大学美術学部デザイン科講師。哲学者ではあるが、活動は哲学に限らない。個人的な資質や哲学的なスキルを横展開し、新たな知識や技能を身につけることで、メディア論や社会学といった他分野の研究やデザインの実技教育に携わるだけでなく、ビジネスとの協働も度々行ってきた。著書に『スマホ時代の哲学――失われた孤独をめぐる冒険』(ディスカバートゥエンティワン)『鶴見俊輔の言葉と倫理――想像力、大衆文化、プラグマティズム』(人文書院)、『信仰と想像力の哲学――ジョン・デューイとアメリカ哲学の系譜』(勁草書房)。

「2024年 『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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