「あかつき」一番星のなぞにせまれ!

著者 :
  • 文渓堂
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感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (109ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784799902417

感想・レビュー・書評

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  • K
    六歳二か月

    Y
    三歳十か月

  • 金星探査機「あかつき」が2010年5月21日に種子島宇宙センターから打ち上げられてから、紆余曲折を経て、金星気象衛星として活躍するまでの7年2ヶ月を描く。
    あかつきは打ち上げ年の12月7日に、太陽を回るコースから金星を周るコースへとコース変更をし、金星気象衛星になる手はずだった。が、コース変更をするセラミックスラスタ噴射の際に何らかのトラブルが起こり、軌道変更は失敗し、一時地球とも連絡が取れなくなってしまう。計画は失敗かと思われたが、6年後、あかつきが回っている太陽を回るコースと金星の周期が再度近づく際に、壊れてしまったセラミックスラスタではなく、姿勢変更に使っている補助エンジンを使い、軌道変更をすることに作戦変更をする。かくして、1年早まった5年後の奇しくも同じ12月7日、あかつきは姿勢変更エンジンを用い、金星の軌道に入ることに成功する。
    その日、あかつきが撮った画像は、今まで誰も見たことがない弓状の模様が写っていた。


    苦手意識とはえらいもので、算数と理科がとにかく苦手というド文系人間である私には、小学校中学年向きの読み物である本書であっても、最初なかなか文面が頭の中に入ってこなくて困った。しかし読み終えてみれば、不思議にもなんとも胸が熱くなる物語だった。これが宇宙の魅力なんだろうか。あるいは、自分が到底及ばない人智への憧れかもしれない。
    本書は小学校中学年向きなこともあり、ノンフィクションをベースにしながらも、金星探査機「あかつき」を擬人化し、あかつきを主人公に「ぼく」の一人称を使わせ、彼の宇宙への旅を主観で語らせている。最初そのことに違和感を覚えはしたが、昨今のAI技術を思うと、あながちなくもないかなぁと思えたし、『2001年宇宙の旅』みも感じられた。作中であかつきが自分で思考選択しているような記述だったため、あかつきにはAIが搭載されている?と思ったのだが調べてみたがよくわからなかった。異常事態時の対応もすべて予めプログラミングされているのかな?…という具合に、全く知識がないため、小学生向けの本書で十分相応の知識は得られたのかもしれない。あかつきの判断の仕方と地球からの指令の届けられ方など、もう少し詳しく知りたくもあったが。

    あかつきが擬人化されているせいか、あるいは宇宙という果てしないロマン空間の影響なのか、感情移入して涙ぐんでしまう場面が度々あった。
    最初は、あかつきの兄貴分であるはやぶさが地球に帰る場面。地球に帰ったのは小さなカプセルだけで、はやぶさは流れ星になった。メカに感情移入するのはおかしい?メカではあるけれども、たくさんの人間の思いとロマンを詰め込んだそれは、単なる物体の域を超えている。宇宙に何の思い入れのない一般人の私であっても、なんとなくそう思った。
    12月7日、あかつきが軌道変更に失敗し、地球と連絡が取れなくなる場面。金星探査は失敗に終わり、宇宙を彷徨うかもしれないという孤独。6年後に再度、軌道変更をする機会が得られると分かった時。メインエンジンであるセラミッククラスタが故障していると分かった時。
    私はそれぞれに人間の気持ちであかつきに感情移入してしまい、とても不思議な気持ちになった。6年間、金星探査機としての役目を果たせず、太陽の周りを回っている時間は、人間であれば耐えられない孤独ではないだろうか。あかつきが人間でなくてよかったと思った。

    実際には5年であるが、あかつきは太陽の軌道を周り、その間に、太陽の熱で壊れてしまわないよう、微細に機体の向きを変え、熱から自身を守った。
    そして金星の軌道に入ってからは、金星自身の影により太陽を遮られる日陰帯に、バッテリーが切れてしまわないよう、何度も軌道の修正をした。
    太陽では熱と闘い、金星の影では太陽のない冷気と闘っていた。宇宙空間の過酷さと、太陽の影響力を思った。

    小学校中学年では、難しい内容なのかもしれない。だが、読めれば、あるいは興味のある子には、とても面白い内容ではないだろうか。少なくとも私は、とても面白いと思った。

    そういえば、あかつきが軌道変更に失敗し、宇宙空間を漂っているという記事は、昔に読んだことがあるような気がする、ということを途中で思い出した。さすれば、その時さまよっていると表現されていた彼は、5年の歳月を経て、無事金星の軌道に入り、役目を果たすことに成功していたのだ。胸アツである。5年の月日は人間には長い(と私は思う)。研究者たちはその間をいかなる心持ちで過ごしただろうか。

    巻末にある、「あかつき」プロジェクトマネージャーである中村正人さんと、「あかつき」IR2カメラ 開発・運用担当である佐藤毅彦さんの言葉がまたとても意義深い。お二人がこのプロジェクトに関わることになったいきさつと、お二人の持論が、ユーモアも交えて記してある。
    曰く、中村さんは、「何事も最初が大切」ということ。「最初にゴールを設定し、最後までやるべきことを想像して、やるべきことの設計図と、その作業手順を明確にしておくこと」「すべては想像力の問題」と。「幸い多い人生をすごすために、今日できることを明日にのばしてはいけません」と。…とてもとても耳に痛い。
    佐藤さんは、このプロジェクトに参加するにあたり、「モノづくり」と「金星研究の下地」に加え、「人とつきあう時の接し方」が大切であったと言ってる。「相手を尊重しつつ、自分の考えをはっきりと(整理した形で)述べる、そして議論を経て、よい結論を導く」ことが大切。「一見ムダに思えることでも、あとで「足し算」になって役に立つ日が来る。人生は、それでこそ面白いのです。」
    本当にそうだ。結果を出している人の言は重みがあるし、説得力がある。
    この文末のメッセージが、この本の価値を更に高めていると思った。

    最後に、「あかつき」という名前がとてもいいなと思う。「あかつき」「しののめ」「あけぼの」…日本語は美しいなぁと思った。

  • 手に取る機会があって読んだ。

    金星探査機「あかつき」。
    2010年、5月に種子島宇宙センターから打ち上げられた。
    12月、金星を回るコースに入るはずが失敗してしまい……。

    2018年12月、またコース変更をするらしい。
    宇宙ってまともに考えられる存在ではない。
    金星は地球に似た大きさと重さで、地球を知るためには金星を知ることが有効らしい。
    横縞は木星で見慣れてるけれど、金星には弓状の模様があるらしく、この写真を撮影したのは、あかつきが初めてらしい。
    打ち上げから7年の間の話で、年数が長いからはしょる部分があるのはしかたない。
    でも、擬人化が読みやすいわけじゃない、と感じるこの頃。
    さもあかつきにAIが搭載されているような、ロボットのような錯覚に陥ってしまった。

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著者プロフィール

作:山下美樹(やました みき)
NTT勤務を経てIT・天文宇宙ライターに。その傍ら岡信子氏、小沢正氏に師事し童話作家の道へ。幼年童話と科学読み物を中心に執筆している。日本児童文芸家協会会員。

「2023年 『ぐんぐん考える力を育むよみきかせ むしのお話20』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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