ワケありな本

著者 :
  • 彩図社
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本棚登録 : 52
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784801301115

感想・レビュー・書評

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  • 「ワケありな本」というのは、発禁等のトラブルに遭遇したいわくつきの本のこと。
    国内外問わず、全40冊のトラブルの経緯を解説している。
    独裁国家や共産国ではもっと存在することだろう。
    歴史に埋もれて見えにくい部分にスポットを当てた、刺激的な書だ。
    書名は知っていても、そのような背景もあったとはまるで知らなかったという本も数多い。

    第一章 事件・災いを引き起こした本
    第二章 政治・戦争で発禁になった本
    第三章 猥褻表現が問題になった本
    第四章 差別・思想で発禁になった本
    第五章 偽造・捏造の疑いがある本

    どの章も8冊ずつ取り上げている。
    大半が日本で刊行済なので入手可能だ。
    以下、特に印象に残った本のことなど。

    第一章の「悪魔の詩(1988英国)」は、殺人事件にまで発展してずいぶん話題になった。
    イスラムを冒涜するという理由で、故ホメイニ氏は「著者と出版に関わったすべての者を死刑に処す」と勅令を出し、これは現在も有効なのだそうだ(怖)・・

    第二章では「ジョニーは戦場に行った(1939アメリカ)」。これはかなり衝撃を受けた。
    当本棚でもとりあげた「戦地の図書館」の活動をするひとたちが、上層部の指示で禁書としている。戦意をそぐものははじかれたということなのだろう。
    戦後この作者はメキシコに逃亡し、偽名であの名作「ローマの休日」の脚本を書いた。
    映画のクレジットなんて、アテにならないものだ。
    そして71年自らメガホンを持って「ジョニーは戦場に行った」を映画化し、カンヌでグランプリをとっている。これは痛快な一例だ。

    第三章は、つくづく時代の流れを感じさせる内容だった。
    ちょっと面白いなと思った点は、「チャタレイ夫人の恋人(1928イタリア)」を無削除で最初に刊行したのは日本だということ。もっともその同じ年に発禁になり、裁判にまで発展している。

    第四章では「種の起源(1859英国)」がとりあげられているが、たぶん皆さんもご存じかと。
    進化論はキリスト教への冒涜になる。
    今でも米国では、進化論を信じる人は全体の4割程度らしい。これはなかなか驚く数値だ。
    非常に興味を持ったのが、「アレオパジティカ(1644英国)」という本。
    「失楽園」の著者・ミルトンによるものだが、言論の自由を訴えたこの本を検閲令を無視して許可も登録もなく出版している。
    その後なんと検閲側にまわったらしいが、傑出した人物だったため追放されなかったらしい。

    第五章には、田口ランディの「アンテナ」が出てくる。
    「ダ・ヴィンチ・コード」や、かの「アラビアン・ナイト」も。
    一番最後に「華氏451度(1953アメリカ)」を持ってきたのが、なんとも象徴的だ。
    近未来では、書物はすべて焚書官によって焼きはらわれる。
    それでも人々は書物がなくなることを不満に思わない。
    ありあまる娯楽があるからそれでいい。ものを考えないし、そんな必要もない。
    このSFは、未来に対する鋭い警告だったのだ。

    まるで検閲との闘いの歴史のような本だ。
    無知でいると、こういった事態がまた起こり得るのかもしれない。
    200ページ強の文庫に40冊という内容なので、一冊ずつの「顛末」はやや薄い印象。
    巻末に参考文献が掲載されているので、より詳しく知りたい方はそこから調べると良いだろう。
    興味のある方にお薦めです。

    • nejidonさん
      だいさん、木橋って?
      「きはし」ですか?「もっきょう」?
      だいさん、木橋って?
      「きはし」ですか?「もっきょう」?
      2020/05/09
    • だいさん
      あらごめんなさい
      みえちゃいました?
      永山則夫です
      無知の涙
      じゃないんですね
      あらごめんなさい
      みえちゃいました?
      永山則夫です
      無知の涙
      じゃないんですね
      2020/05/09
    • nejidonさん
      だいさん、はい、永山則夫の「木橋」でしたか!
      トンデモない「ワケあり」ですよ。
      だいぶ前に読みましたが、たぶん忘れてます・笑
      また読...
      だいさん、はい、永山則夫の「木橋」でしたか!
      トンデモない「ワケあり」ですよ。
      だいぶ前に読みましたが、たぶん忘れてます・笑
      また読むという楽しみが生まれました。

      こちらは図書館が休館のため、マイケル・コリンズが借りられません。
      いえ、そもそも蔵書にないのです。。。
      2020/05/09
  • "出版を差し止められたリ、事件や災いを引き起こしたり、猥褻表現が問題になった本など、過去の本にまつわるトピックスをまとめた本。
    次に読む本を選ぶ参考にもなる。"

  • 様々な理由から出版禁止、絶版にされた本たち。
    現在は読むことができるのでブックガイドとしても。

  • 意外な知られた本が、ある時代には問題作として扱われていたんだなぁ。
    禁書は時代を写す…。
    今はものすごく自由な時代なんだな。
    ちびくろサンボが買えるようになってよかった。

  • タイトルもテーマも魅力的な一冊。今現在の入手方法も掲載されていて親切だ。
    ネットを流れれば同様の記事は出てくるんだろうけど、畳みかけるように紹介されているのが心地よい。冊数を増やした続編とかでないかしら。

  • いろいろなワケがあるものです。でも、今はちゃんと読めるものばかり。

  • 【目次】
    はじめに [002-004]
    目次 [005-009]

    第1章 事件・災いを引き起こした本 010
     悪魔の詩 サルマン・ラシュディ
     風流夢譚 深沢七郎
     ソドム百二十日あるいは淫蕩学校 マルキ・ド・サド
     木橋 永山則夫
     ピーター・パンとウェンディ ジェームス・マシュー・バリー
     花火 太宰治
     ライ麦畑でつかまえて J・D・サリンジャー
     宴のあと 三島由紀夫

    第2章 政治・戦争で発禁になった本 052
     我が闘争 アドルフ・ヒトラー
     収容所列島 アレクサンドル・ソルジェニーツィン
     ペンタゴン・ペーパーズ アメリカ国防総省
     生きてゐる兵隊 石川達三
     ジョニーは戦場へ行った ドルトン・トランボ
     ふたたび、海 レイナルド・アレナス
     スパイキャッチャー ピーター・ライト
     細雪 谷崎潤一郎

    第3章 猥褻表現が問題になった本 094
     チャタレー夫人の恋人 D・H・ロレンス
     ユリシリーズ ジェームズ・ジョイス
     O嬢の物語 ポーリーヌ・レアージュ
     ボヴァリー夫人 ギュスターヴ・フローベール 
     ファニー・ヒル、または一娼婦の手記 ジョン・クレランド
     ロリータ ウラジーミル・ナボコフ 
     ふらんす物語 永井荷風 
     裸のランチ ウィリアム・スーアード・バロウズ

    第4章 差別・思想で発禁になった本 136
     種の起源 チャールズ・ダーウィン
     天文対話 ガリレオ・ガリレイ
     アレオパジティカ ジョン・ミルトン
    蟹工船 小林多喜二
     1984 ‎ジョージ・オーウェル
     アンクル・トムの小屋 ハリエット・ビーチャー・ストウ
     ハックルベリー・フィンの冒険 マーク・トウェイン
     ちびくろサンボの物語 ヘレン・バンナーマン

    第5章 偽書・捏造の疑いがある本 178
     ダ・ヴィンチ・コード ダン・ブラウン
     アンネの日記 ‎アンネ・フランク
     アンテナ 田口ランディ
     アラビアン・ナイト 訳者:アントワーヌ・ガラン、エドワード・ウィリアム・レーン
     先代旧事本記 作者不詳
     未来記 聖徳太子
     フランクリン自伝 ベンジャミン・フランクリン
     華氏451度 レイ・ブラッドベリ

    おわりに [220-221]
    参考文献 [222-223]

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著者プロフィール

フリーライター。横浜国立大学教育学部総合芸術学科卒業。
在学中、アート・映画への哲学・思想的なアプローチを学ぶ。編集プロダクション勤務を経て渡仏。パリで思索に耽る一方、アート、旅、歴史、語学を中心に書籍、雑誌の執筆・編集に携わる。現在、東京都在住。
パリのカルチエ散歩マガジン『piéton(ぴえとん)』主宰。
著書に『図解 いちばんやさしい哲学の本』『図解 いちばんやさしい三大宗教の本』『図解 いちばんやさしい地政学の本』『図解 いちばんやさしい地経学の本』『図解 いちばんやさしい世界神話の本』『地政学から見る日本の領土』『ワケありな映画』『ワケありな名画』『封印された問題作品』『吉田松陰に学ぶ リーダーになる100のルール』『本当は怖い 仏教の話』『要点だけで超わかる日本史』『教養として知っておきたい33の哲学』(いずれも彩図社)、『はじめるフランス語』(学研プラス)、『地政学ボーイズ』(原案・監修/ヤングチャンピオン)などがある。

「2024年 『図解いちばんやさしい地政学の本 激動の世界最新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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