- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784801304345
作品紹介・あらすじ
現代社会で仕事を成功させようと思えば、人を説得しなければならないという場面に常に出くわすものだ。しかし、人は何か得るものがなければ、他人が望むとおりに動くことはない。
たとえ上司という命令ができる立場であっても、部下を思いどおりに動かすことは容易ではない。多くの人が「他人を動かすのは難しい」と嘆き、「対人関係に最もストレスを感じる」と言うのである。
ところが、数千万の人々を集団催眠にかけ、自分の意のままに操った人物がいる。それが、アドルフ・ヒトラーだ。
一般的にヒトラーは、第二次世界大戦を起こしてユダヤ人を虐殺した人物だとしか知られていないが、詳しく調べてみると、政治扇動術を今のような形に完成させた人物だったことが分かる。
本書は、ヒトラーの使った心理操作テクニックの全てを分析し、その技法を正しい目的のために応用することを目指している。
感想・レビュー・書評
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タイトルの通り、ヒトラーの大衆扇動術を分析・紹介した一冊。
ヒトラーといえばホロコーストやナチスの邪悪なイメージが強く、憎悪と忌避を持って語られることがほとんどだが、この本は、彼の扇動術がいかに優れていたかが書かれている。
もちろん、賛美しているのではなく、一定の評価をしている、という意味ではあるのだが、異色といえば異色の内容かもしれない。
彼が利用していた扇動術はいずれも、形と活躍の場を変えて現代の私たちの日常に染み込んでいる。
演説時のノウハウは、アーティストのコンサートに。
かの有名なスポーツの祭典だって、国の威信を賭けて戦う今の形になったのは彼がきっかけだったという。
私たちは、過去の失敗から、二度とヒトラーに従ってはならない、二度と彼のしたことを繰り返してはいけないと誓っている。
フィクションと違って、彼がタイムスリップすることも蘇ることもないだろうから、そんな機会はないだろうけれど、多分、彼が再び現代に現れたとしても、さすがに大衆はあの頃と同じにはならないだろう。
けれど、「ヒトラー」以外が現れたとしたら。
果たして、私たちは彼の危険性を見抜き、拒絶することができるだろうか。
日常に馴染んでしまった扇動術に出会ったとき、それが私たちを騙す罠なのだと気づけず、同じ過ちを繰り返しはしないだろうか。
今の世の中を見ていると、「大丈夫」とは言えない気がする。
だからこそ、私たちはそろそろ、彼の手から目を背けず、向き合い理解すべき時に来ているのではないだろうか。
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ヒトラーがどのように大衆を動かしたかについては断片的に見聞きしたときに感じたことではあるが、こうしてまとまったものを読むと、改めてビジネス書や自己啓発書に書かれたものばかりであると感じた。もちろんヒトラーの方が先であるが、ヒトラーのやり方が自分を含めた人を動かす方法として有効であるということの証明となっている。加えて、最近、美術、芸術などの教養が大切であるという指摘がなされているが、音楽、絵画など芸術に明るく、美術大学に入学こそできなかったが自身も絵を描くなど、まさにヒトラーがその通りの人物であるのも興味深い。こうしてみると人を動かす方法というのはある意味ヒトラーによって完成されたと言ってもあながち間違いではないのかもしれない。
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ヒトラーがいかにして落ちこぼれだった青年から統帥まで上り詰めたかが分かる本。
感受性に訴えるべきか、それとも理性に訴えるべきか、大衆をいかに洗脳し、自己目的のために利用するかをヒトラーは細部まで注意した。
彼のした排他的な政策は、結果的には破滅へと導いたが、戦争でまけ自虐観に陥っていたドイツ国民を立ち上がらせたことに違いはない。
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現在、世界史的に見て極悪人の一人に入るヒトラーが、なぜ当時のドイツ人を心酔させ、大衆から熱狂的な支持を集めたのかを本書では紐解いていく。その秘密を見ていくと、ヒトラーは突拍子にあれこれと実行したのではなく、着実に支持を得るために綿密に計画を練って、演説本番で十分な実力を発揮するように、事前に繰り返し練習したことが明らかとなる。このように、ヒトラーの並大抵ならぬ工夫、努力によって、ナチスの政治が功を奏したことがわかる。本書で紹介された理論は、現代の政治においても有効な手法であり、ゆえにナチスと似たやり口で支持される政治家、政党には十分に警戒すべきである。凄惨な出来事を二度と起こさないためにも、悪党の煽りに対してあらかじめ耐性をつけておくべきである。その指南書としてこの本は有効である。これを読み終えたあと、『わが闘争』(角川文庫)や『ヒトラー演説』(中公新書)などを併読することで、ヒトラーの全体像が鮮明に見えてくるだろう。
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独裁者として名高い人物の大衆的人気を得るノウハウを示した本。
プレゼンテーションの完璧さ、ファッションやデザインの拘りなどはベクトルは違えどスティーブ・ジョブ氏と通じるものもある。
話す際のシチュエーションの構築、常にカリスマ性を保つように生活までも自己管理などは大変勉強になる。
逆に失敗点として最初は部下に対して委任型だったのに直接細かい所まで関与するようになった点、能力より忠誠度優先(強ち間違いでも無いが)による排他主義が挙げられる。これについても反面教師として大いに勉強になる。
演説が上手いだけならペテン師で終わってしまうところ失業者減少については劇的に達成しており筆者の言うように途中で不慮の死を遂げていたら稀代の政治家として評価された可能性もあるのが歴史的にも面白かった。